ALL NIPPON PRODUCERS ASSOCIATON
最新「デジタル合成」事情  〜現場からの報告〜
映 画 『視覚効果の効果』

(有)マリンポスト
VFXスーパーバイザー

大屋哲男
 視覚効果のスーパーバイザーは、監督と撮影監督が表現しようとするシーンが、現実のものとして撮影できない時、あるいは、危険を伴うなど撮影が困難な時に、出番が回ってきます。
 それは、合成が1カットしかない時代劇であったり、フルCGのカットや、複雑な合成などが数百カットに及ぶ特撮映画だったりします。
 このために、作品への関わり方が様々ですが、どんな作品においても変わらない、スーパーバイザーが最も力を注ぐべき仕事があります。
 それは、監督と撮影監督が示す作品の持つカラーやポリシーを理解し、その一貫性が視覚効果を施すシーンにおいてもずれることなく、確実に保たれるように努めることです。
 この目的を達成するためには、撮影監督と視覚効果のスーパーバイザーが、出来るだけ早い段階から、意見交換や、技術的な検討をすることが重要になります。
 この作業により、監督の持っているイメージを具体化するための、よりよい方法が見つかり、時間や予算の節約にもつながっていきます。
 そして、この結果を大勢の共同作業するスタッフに、可能な限り視覚化して伝えるようにします。
 特に、複雑な合成を必要とするシーンや、視覚効果を数多く使う作品では、このイメージの視覚化(プレビジュアライゼーション)が大きな効果を生みます。
 これは、ポスプロのための仮合成映像とは違い、撮影開始以前に関係者全員が理解を深めるように準備するもので、イメージボードを元にした、フォトリアリスティックな静止画やVRムービーであったり、演出コンテをCG等を利用して動画化したアニマティクスであったりします。
 この映像を見ることで、俳優は合成用のブルースクリーンの向こう側を理解出来、美術担当者はセットの不必要な部分や、不足している部分の確認が出来るというように、関係者の作品に対する理解を助け、その認識を統一させることが出来ます。
 このように、クランクインの前の準備に適切な時間をかけ、イメージの統一を図ることは、視覚効果が必要なシーンだけではなく、作品全体の芸術的な質の向上にも貢献することが出来ます。
このような手法や技術を積極的に利用することで、映画製作をさらに発展させていくことが出来るのではないでしょうか。

※VRムービー 静止画だが、360度回転させて見ることが出来る。
※アニマティクス ジョージ・ルーカスが積極的に採用している手法。 私が担当した作品では東宝映画が「モスラ」(1996)で初めて採用した。


テレビ 『哀しき映像加工』

NHKエンタープライズ21
エグゼクティブ
ディレクター

松岡孝治
 NHKで映像加工を担当するのはVE(ビデオ・エンジニア)グループと呼ばれる人達だ。一昔前VEグループの主な仕事はポストプロダクションでの色調統一や調整であったが、昨今映像加工作業が増えるにしたがってVEの作業内容は大きく変わろうとしている。昔は加工といってもフレームに飛び出した〃マイク消し〃程度だったのだが、今やデジタル技術のおかげで空の入れ替え(曇り空を青空に)は日常化し、時代劇ともなると日本全国から城の素材をかき集め、新しい名城を再建し、ついには炎上させてしまうことも朝飯前!艦砲射撃でさえ大砲を撃たずに迫力ある砲撃シーンを作ってしまう。今やVEグループの活躍なくしては豊かな映像表現は語れないというまでになっている。
 映像加工技術によって、予算節約出来たプロデューサーはほくそえみ、表現の幅が広がったことに演出は感謝し、VEグループは鼻高々で、世の中萬々歳となりそうだが、現実はチョット違うのだ。
 ドラマ作りの中で良い仕事というのは、美しい映像、良い音、心に残る俳優の演技というように何かの表現として作品上に刻まれ、見ている人に認識されるのが普通である。ところがVEの仕事、特に映像加工というのは作業をしたことが分らないように必死に努力するという妙な仕事なのだ。つまり映像加工の作業に習熟してゆき、究極の映像加工が完成されると、そこにもはや映像加工の痕跡すらなく、作業にたずさわった人間以外、加工作業が行なわれたことをまったく認識できない映像が完成することになる。共に制作現場にいた仲間さえ分らない完璧な加工技術は、当然同業者さえ気付かない。完全なる行為が実行されると、行為そのものが無に帰する。何やら禅問答のような世界であるが、VEが日々めざしているのはまさにそうした自身の存在を消すことを恐れない潔く哀しい仕事なのかもしれない。近年若く優秀なVEの活躍が目をひくようになっている。彼等の仕事ぶりを見ていると、それはもはや加工と呼ぶよりも、ポスプロ作業段階での創作作業と呼ぶことがふさわしいように思えたりする。VE諸氏の活動内容を一般視聴者に知らせてみたいという望いもあるが、手品の種明かしをすることは必ずしも視聴者サービスにはならないようにも思え迷っている。VEグループへの敬愛の念をこめて『2000年ハイビジョン・ドラマ技法』という40分の研修用教材ビデオを作りました。御覧になりたい方は、ご連絡下さい。

※「デジタル合成」二つの記事についてのご質問、ご要望は、プロデューサー協会・事務局までお寄せ下さい。
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