プロデューサーへの手紙 |
女優
吉行和子 |
劇団民芸という新劇団で、地味な研究生として勉強していたとき、突然、日活映画に出演することになりました。
新しい撮影所は白くピカピカに輝いていて、行きかう人々も、光りがついて来ているようで眩しいくらい、まあ、石原裕次郎さんや小林旭さんなどがいて、可愛いい女優さんがいっぱいいての、当時の日活ですから、当然だったのでしょう。
私は、「才女気質」(平康監督)、「にあんちゃん」(今村昌平監督)、「われらの時代」(蔵原惟繕監督)、とたてつづけに大きな役をいただきました。もの凄く好運なことなのですが、当時の私としては、これも勉強の一つ、劇団以外の課外授業くらいの感覚だったのです。 |
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そんな時、プロデューサーの方が私におっしゃいました。これから映画にもどんどん出るようになるのだから、もう少し奇麗な洋服を着て来て下さい。無ければ人に借りてでも、毎日替えてちゃんとした格好で来て下さい、と申されるのです。今のように、ジーパンでどこでも入れる時代ではありませんでしたから、余計お困りだったのでしょう。プロデューサーという方と話をしたのはこれが初めてでした。しかし、借りる友人もいないし、お金も無いしで、その約束は果されず、何となく、プロデューサーは煙ったい、という感じで、逃げていました。 |
今では、プロデューサーという方は、大きなことから、ささいな小さなことまで肩にかかっている大変な仕事なのだということが理解出来ましたから、煙たがったり逃げたりしないで、心を開いておつき合いしたいと思っていますので、どうか仲良くして下さい。 |