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連続ドラマと視聴者動向

日本テレビ編成局 荻野 哲弘
 宮藤官九郎さんは、 天才的な才能の持ち主である。 今回 『ぼくの魔法使い』 の初稿が上がる度に、 改めて痛感する。 脚本を読みながら何度となく笑いが零れ落ちる。 こんな経験、 初めてだ。
 映画 『GO』 『ピンポン』 などで、 一躍ティーン層のカリスマ的存在になった宮藤さん。 そんな彼が今回我々と一緒に挑戦してくれるテーマは 「夫婦愛」。 宮藤さん自身初めて挑むごくごく普遍的な題材である。
 但し、 調理法は、 あくまで宮藤流だ。 「夫婦愛」 を描くといえば、 夫の浮気や妻の隠し事といった夫婦間の問題がつきものだが、 『ぼくの魔法使い』 の夫婦はそんな問題とは一切無縁の恥ずかしい位愛し合っている夫婦である。夫婦の問題は、 ただ一つ…何かを思い出そうとすると妻が見知らぬ中年男に"変身"してしまう事…。
 夫婦を演じるのは伊藤英明さんと篠原涼子さん。 この奇抜な設定を具現化するために集まって下さったのが、 西村雅彦さん、 古田新太さん、 阿部サダヲさん、 大倉孝二さん達…剛速球からスローカーブまで投げ分けることの出来る表現者達である。
 皆が、 宮藤さんの脚本を、 より面白くしようと体を張って疾走する。 演出の水田をはじめとするスタッフ全員が、 睡眠時間を削って知恵を絞る。
 正直、 「夫婦愛」 をテーマにすることでF2・F3層にアピールし、 『変身』 というギミックをかけることでC層やF2層を鷲掴みにしたいという下心があることは、 否定しない。 でも…何よりも、 作品に込められた皆の"熱"が"魔法"となって視聴者を虜にするに相違ない!そう信じて、 僕はシクシクする胃を抱えながら、 毎週月曜日の朝を迎えることになる…。

TBS マーケティング部 渡辺 久哲
 最近テレビドラマの主人公の年齢、 高くない?なんて声をときどき聞きますが、 ドラマは視聴者の側の年齢も大人化しています。 かつて、 いわゆるトレンディドラマ華やかなりし頃、 メインの視聴層はF1 (20−34歳の女性) と相場が決まっていましたが、 最近はその一つ上のF2 (35−49歳女性) がメインになるケースも増えています。 もちろんF2層がドラマの熱心な視聴者になってくれることは嬉しい事です。 若い頃 (というと語弊がありますが) 「男女7人・・」 や 「東京ラブストーリー」 に夢中になった人たちが結婚し子供ができてもテレビドラマを毎クール楽しみにしてくれるのはテレビ人冥利に尽きるでしょう。
 考えたいのは20代女性のこと。 この層をいかにしてテレビドラマに釘付けにするか。 TBS系の局が共同で行ってきているJNNデータバンク調査に、 興味深いデータがあります。 1992年のトレンディドラマ全盛時、 20代女性の多くがドラマ日は早く帰宅する中にあって 「テレビ番組はストーリーのないもののほうがいい」 とドラマ離れを仄めかす天邪鬼な代女性が9%ほどいました。 これが昨年の調査では、 20%にまで増えていたのです。 5人に1人程度といってもそれが増加傾向を示している場合は要注意です。 危機感を感じた筆者が20代の女の子たちにヒアリングしたところ、 「テレビドラマは思ったとおりにストーリーが展開しないとストレスになる」、 「ストーリーがある番組は考えながら見ることになるので面倒」、 「現実離れしたドラマは感情移入できないし当たり前の話だとつまらない」 と、 いいたい放題。
 しかし、 さらに聞けば、 そんな彼女たちの心も実は将来への不安でいっぱい。 5年後の自分ってどんなふう?仕事は?彼氏は?結婚は?自分はまだきれい?そんな中、 ちょっと年上のかっこいい女性が活躍するドラマには思わず惹かれるようです。 かつて、 30歳をかっこよく乗り越えるW浅野が20代女の子たちのハートに火をつけてトレンディドラマを切り開いたように。

フジテレビ調査部 堤 靖芳
 最近巷では、 連続ドラマに冬の時代がやってきたという論調をよく見かける。 インターネットや携帯電話の普及が進み、 ネットサーフィンやメール交換をしながらテレビを見る人々が増加したことで、 これまで専念視聴に向いていると言われた連続ドラマより、 ながら視聴を容易にするバラエティーへと若い人々の視聴傾向がシフトしたのではないか、 といったことも囁かれている。
 確かに、 二○%以上の視聴率を稼ぎ出すドラマが減り、 同じクールの中で勝ち組と負け組がはっきりして、 どれもこれもが高視聴率を謳歌できる時代ではなくなったことは事実だろう。 視聴者の選択眼が厳しくなり、 連続ドラマならとりあえず一回目だけはチェックしておく、 といった有り難い視聴者が減っていることも窺われる。
 しかし、 企画とキャスティングがうまくはまれば、 連続ドラマにはまだまだ二○%以上の視聴率を稼ぐ潜在能力があることは、 TBSの 「グッドラック!」 が証明してくれた。 ティーンズやF1、 F2といった連続ドラマを支える視聴者層のテレビ視聴にも、 ここ数年大きな変化は見られない。 データを見る限りは、 ドラマを求める視聴者ニーズは確実に存在すると思われる。 要は、 送り手であるテレビ局の工夫に、 ドラマ復活の鍵がある。
 しかし一方、 気になる現象もある。 少子高齢化社会を反映して、 視聴率調査サンプルにおいてもF3、 M3といった高齢者層が増加の一方を辿っているのに対して、 ティーンズや予備軍のキッズ層が減少しているのだ。 この結果、 高齢者を取り込まなければ高い世帯視聴率は望めず、 若い層だけをターゲットにした番組は苦戦を強いられている。
 これまで、 若い視聴者層の流行を先取りして、 新しい情報の発信源となってきたのが連続ドラマだ。 しかし高い世帯視聴率を狙うあまり、 高齢者に媚びるような要素を取り入れるようになると、 ドラマ本来の魅力を損ねる恐れもある。 連続ドラマは今、 誰に向けて何を発信するのか、 そのスタンスが問われていると言えよう。

テレビ朝日 編成制作局編成部 松瀬 俊一郎
 2003年は、 現代ドラマ制作における考え方が大きく変化する年になるだろう。 若年層人口のピークである1973年生まれが30代に突入するからである。
 現在のドラマ視聴率は、 中高年の視聴者が支えている2時間サスペンスが堅調な一方で、 ティーンとF1が支えてきた現代ドラマが低迷している。 私は、 これが新代の生活や考え方の変化に、 制作者側が追いつけていないことが原因の一つだと思っている。
 テレビの歴史を振り返ると、 団塊ジュニア世代の変化と、 テレビ番組の転換期は重なりが大きい。 例えば、 彼らが小学校を卒業した1985年、 「8時だヨ!全員集合」 が終了。 彼らが高校生になった1989年頃、 時台ドラマがなくなり、 「ザ・ベストテン」 「オレたちひょうきん族」 といった大ヒット番組が終了。 彼らが社会人になった1996年頃、 20時台ドラマが激減し、 「なるほど!ザ・ワールド」 「元気が出るテレビ」 といった長寿番組が終了した。
 1990年代、 現代ドラマはおおよそイコール 「恋愛ドラマ」 で、 数多くの恋愛ドラマが高視聴率を獲得してきた。 この頃、 若年層人口の中心は高校生から20代。 彼らの世代にとって恋愛は最も大きな関心事の一つで、 ドラマが恋愛のバイブルとなり、 疑似体験させる役割を果たしてきたのである。
 一方で、 恋愛に関心が強いはずの、 現代のティーンや20代前半の、 ドラマへの接触は弱いようだ。 これは、 彼らがドラマ文化の植えつきにくい環境で成長してきたことに原因がある。 団塊ジュニア世代とは異なり、 彼らが小中学生になってドラマを見始める頃には19・20時台のドラマは激減していた。 民間放送である限り、 人口の少ない世代をターゲットとした世帯視聴率が取れない番組は淘汰されても仕方ない面はある。 ドラマ文化を根付かせられなかった以上、 1990年代と同じ考え方で現在のティーンや20代前半を引きつけようとしても限界があろう。
 若年層の中心が30代に入る現在、 彼らの関心事の中心は必然的に恋愛から別の何かへ移っている。 今年のテレビドラマ制作者は、 新30代に対する、 新しい柱となる要素を見出すことが大きな課題となりそうだ。
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