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日本映画に新しい風は吹くのか
空前のアニメ実写化ブームと言われてます。 その核をなすのは、 CG (コンピューター・グラフィクス) の技術です。 近日公開される3作品の担当者に御寄稿いただきました。
松竹 映像企画部  野地千秋
「CASSHERN」 がやらねば誰がやる!
 この原稿の執筆時点で 「CASSHERN」 は完成直前。 一体どんな映画ができあがるのか、 松竹全体が、 いや世間が注目している。 邦画界は空前のアニメ実写化ブームといわれており、 本作もその中の一つと言われている。 他社の作品は意識していないといえば嘘になるが、 邦画全体が盛り上がればと思っている。
 松竹としては、 懐かしのアニメを実写化して堅くヒットを狙いたいということよりも、 「新造人間キャシャーン」 のようなダークな世界観を持つ邦画を作ってハリウッドに対抗したい、 というのが製作決定の一番の理由である。 原作のパワーに紀里谷監督のセンスそして熱意をプラスすれば、 世界市場に打って出られると考えたことは言うまでもない。 世界で吹き荒れるジャパニメーションブームも後押しした。 技術的な側面で言うと、 PCの性能が格段にあがり、 高性能なハードも安価に入手できるようになったことも、 また優秀なスタッフも揃ったというのも一因である。
 撮影はソニーのシネアルタ、 そのままデジタルで処理していきコスト、 スケジュールを詰めていった。 ほぼ全編に渡るCGI、 合成の作業は、 スタッフルーム内にCGルームを作るところからスタート。 撮影中もCGスタッフはそこで作業を行っていた。 そこに設置されたPCは全てパーツを買ってきて自作、 編集も監督自身がマックで行うことでコストをかなり抑えている。 アクションシーンのデータは、 デジタル、 アニメの研究に力を入れている東京工科大学のモーションキャプチャースタジオにて収録。 私が同大学のクリエーティブコンソーシアムの委員だったこと、 学生たちに映画製作を経験してほしいと監督が希望していたことから、 同大学の施設を使ったのだった。
 …と、 このような作業を経て、 5ケ月のポスプロ期間を経た本作は完成へと驀進している。 デジタルでの撮影というのはフィルムではかからない費用、 期間が出てしまうのが、 課題というか障害になっている気がしている。 しかし、 何よりの課題、 障害は費用と時間が許す限り、 いくらでも修正を加えたくなってしまうところ…本作も夏公開だったらどうなっていたのだろうか…。 いずれにせよ、 本作の制作はたいへん革新的かつ刺激的であった (いや、まだ進行中)。 観客の皆さんにも本作の衝撃が伝わることを切に願うばかりである。


東映 「デビルマン」  プロデューサー  冨永理生子
映画におけるCGの可能性と展望
 CGのすばらしさは、 実際に誰も見たこともないものを作って、 観客に見せることが出来るということだと思います。 それは、 実写で撮りえないカメラワークを可能にするということ、 現実にはありえないカメラワークを可能にすることも含めて、 CGというハード面においては、 今後、 無限の可能性を持つということでもあります。 その可能性を、 現実化するにあたって必要なのは、 ソフトの可能性を拡大すること、 つまり、 すばらしい想像力を持ったクリエーターと出会い、 そうした人たちとのコラボレーションをしていくことが必須の条件といえると思います。 今回、 『デビルマン』 で、 東映アニメーションというすばらしいチームとコラボレーションする機会に恵まれ、 T−ビジュアルという映像開発が出来たことはとてもうれしいことです。
 CGの限界という意味では、 現況では、 接地面や、 髪の毛、 顔の表情などCGの不得意分野といわれる部分もありますが、 私見では、 不得意分野を逆手にとった映像を作って行くこと、 例えば、 キャラクターを作っていく上で、 不得意分野を現実に限りなく近づけるよりも、 それを逆手にとって、 そこをキャラクターの特徴であったり、 ストーリー上のポイントにしていくというようなことを、 本作りの段階から計算して、 映像製作に入るということが必要なのだろうと思います。
 というようなことを云うのは簡単ですが、 実際には、 実に大変な作業であることも事実で、 私個人としては、 「ワンカット、 ワンカットの積み重ねである映画」 の持つ特性を日々勉強していくしかない、 常にすばらしい才能との出会いを求めて行動していくしかないというのが、 正直なところです。
 同様作品が多いことについては、 私自身を含め、 アニメやキャラクターもので育った世代が、 映画産業の中堅世代になってきたからだと思います。 私にとっての 「デビルマン」 の映像化は、 若かりしころの夢であり、 ほかの同様な作品についても、 それを作ろうとした人たちの中に、 同様の思いがきっとあるはずだと思います。 これから、 もっと、 同様な作品が作られることを期待し、 また、 私自身もそうした作品を作っていきたいと思っています。


フジテレビジョン映画事業局 映画制作部  宮澤 徹
文系プロデューサー受難の時代?
 今年、 かつて一世を風靡したアニメが実写化されてスクリーンに登場!という企画が続々と登場している。 その一つが私も関わる 「NIN NIN忍者ハットリくんザ・ムービー」 だが、 これら企画が林立した背景には、 技術の進歩がそれを促した部分が少なくない。
 映像製作にあっては 「技術が企画を決定する」 という側面がある。 アニメの実写化の他にも、 昨今の日本映画に時代劇が増えたり、 低予算でも比較的高品質なホラーが多いのは偶然ではなかろう。 企画の自由度は増す一方だ。
 ところが、 こんな 「基本的に何でも映像化できる」 時代というのは、 私のようにまるで文系なプロデューサーにはむしろシンドい時代であると思う。 技術者に尋ねると大抵は何でも 「できます」 と言われてしまうため、 逆に 「何は難しい」 とか 「何は本気でやるとカネがかかる」 とかを見抜く目が必要になる。 が、 そんな目を持ち合わせぬ我々はと言えば、 ポスプロが進んで初めて 「こんな画だったの!?」 という状況になるわけで、 プロデューサーとして 「何にカネをかけるか」 という最も基本的な判断をブラックボックスの中で下すような状態に陥りがちだ。
 ではどうするか?まるで文系のあなたにも企画段階で出来ることが一つある。 それは欲ばらないこと。 さりげなく、 サラっと最新技術を使う。 時代劇ならヅラの境界を判らなくするとか、 エキストラ千人呼ぶより安く千人の画を描くとか、 地道なところで最高技術の恩恵にあずかろう。 2ケタも原価の異なる 「ロード・オブ・ザ・リング」 に物量で挑んでも勝ち目はない。 やはり別の土俵で戦わなきゃダメでしょう。 そんなところから始めて、 日本映画のクオリティを着実に上げていこうよ。
 で、 我々の 「NIN NIN」 は?と言えば、 映像はまだ今も頑張って仕上げている最中だが、 きっと 「さりげなくカッコいい」 映像が上がってくるだろう。 スタイリッシュな映像とコメディセンスが同居した、 これまでにないニンジャムービーの誕生だ。
 それで今回は私の本業だったコスト管理は?……やっぱり私はまるで文系。 ブラックホールの存在を、 身を以てしっかりと確認することができましたとさ。
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