
今から二十数年前、 赤坂の 『憩』 という由緒正しい喫茶店で就職の面接を受けた。
「では、 明日からよろしくー」。 翌日から僕は由緒正しそうなテレビドラマの制作現場にいた。 何故、 『由緒正しそうー』 と思ったのか?・・・
その番組のスタッフだけが皆こざっぱりしているのだ。 噂によると (後で真実だとわかった。) 前髪が目にかかるとプロデューサーから五千円を渡され 「切って来なさい」 と言われるらしい。 そのプロデューサーが長髪を嫌いであろうことはすぐにわかった。 青々しいほどの刈り上げだったから・・・
AD修業のスタート。 弁当配りに車の手配、 夜は先輩から教育的 『酒の飲み方』 指導。 『3K』 なる単語が出現するずっと前の話。 でも楽しかった。 当時唯一の 『単発一時間の連続ドラマ』。 毎週違うシナリオ、 キャスト、 ディレクター。 一週間で一本のペースで撮っていく。 『この演出家はコメディーは上手いけどサスペンスはイマイチ』 『面白いセットは作るけど、 ロケは?』 等々、 演出家と台本と役者。 順列組み合わせの数だけ勉強になった。 楽しかった。 連ドラが主流の中にあって、 経験した多くの事は財産になった (この経験を生かさなくてどうする!)
さて、 話は 『新人』 である。 ここ最近プロデューサーを仰せつかる事が増えてきた。 「しまった!失敗だ!」 「プロデューサーってなにするんだっけ?」 あんな近くにすごいプロデューサーがいたのに!ディレクターばかりに目がいって、 プロデューサーの仕事を全然見てなかた・・・う〜ん悔しい。
確かに空気みたいな存在だった。 居て当たり前、 当たり前すぎて見えなかった。 今になってわかるが、 それはそれはすごい仕事量だったはずなのに・・・新人の僕にはいつもどしりと 『そこに居る』 存在に見えた。 もっとよく見ておけばよかったな・・・怖いという人もいるけど、 今でもお元気なそのプロデューサーは 『鬼』 でもないし僕にとっては 『福 (ふく)』 の神。 ・・・そして僕は今・・・新人です。