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ト・ラ・イ
「大河はいつも進歩しつづける」
NHK番組制作局 (ドラマ番組) エグゼクティブ・プロデューサー
浅野 加寿子
  「利家とまつ〜加賀百万石物語〜」 放送開始から4か月。 視聴者の半分弱は、 新規に大河ドラマを見始め、 20代、 30代の女性層や若者層の伸びもあるという調査結果も出て、 "大河ドラマに新風""新鮮な戦国ホームドラマ"あるいは"トレンディ時代劇"という声も聞こえて来る。
 "時代劇"は、 過去の単なる再現ではなく、 過去を掘り起こすことは、 未来への指針を見つけるため。 過去は劣っているものではなく、 技術文明こそ進歩していなかったものの、 生きる勇気、 知恵、 愛情は、 きっと今より豊かだったのではないか。   大河ドラマは"現代を写す鏡"であり、 歴史を背景にした人間ドラマ。 であるからこそ古臭いものではなく、 現代のメッセージを盛り込み、 旬の演技陣を揃えた最先端のエンターテイメントを目指したいと私は思う。
 昭和38年 「花の生涯」 からの39年、 「利家とまつ」 で41作目となる大河ドラマシリーズ。 今までも常に現代の鼓動を伝えようと革新を試みてきた。 新幹線が走ったり、 現代語での会話、 地方からの視点など数多くの試みがあった。 長い間続いてきたのは、 少しずつ進化してきたからではないだろうか。
  「利家とまつ」 の企画にあたって、 まず考えたことは、 女性層の獲得。 この数年、 女性視聴者離れを感じていたので、 女性が判断力をもって活躍するドラマをと思い、 初めて夫婦連名のタイトルにもなった。 第2は、 幾多の危機を乗り越え二人が成功したのは、 律儀、 実直、 誠実さがあったという視点で、 そこに21世紀の新しいリーダー像があるのではないかということ。 第3は、 ナンバー2としての生き方に、 日本の将来を探りたい。 そして第4は、 歴史は人間がつくるものであり、 夫婦、 家族という日々の生活の営みそのものが、 歴史のひとこまとなり、 時代を動かしていくという視点で 「戦国ホームドラマ」 を目指すこと。 歴史は決して遠い存在ではなく、 身近かにあるもの。 今まさに"その時歴史が動いた"瞬間にあなたが遭遇しているのかも知れないと感じてほしいと思ったのである。
 "子供たちと一緒に親子視聴をし、 家族間の会話が広がった""色彩も鮮やかでテンポ感もある""キャスティングが新鮮で豪華"という声が多い中、 "台詞が現代的で軽い""女性が活躍するなど時代考証が甘い"という辛口の意見もある。 台詞は、 戦国時代の雰囲気を残しつつ、 わかりやすい言葉でと今回考えている。 程度の差はあるが、 すべての時代劇は、 現代語訳なのである。 時代考証は、 もちろんふまえている。 この時代、 妻たちは夫と共に領国の共同経営者だった。 まつやおねの進言が、 政治面で生かされたというエピソードや女性達の肖像画が数多く残されている点からも、 現代より女性達の行動力はあったと充分考えられる。
 50・60代の多くが、 今回の変化を好意的に柔軟に受け入れているのに対し、 20代の中に 「我々に迎合している」 と批判があるのは、 若者の保守化現象なのだろうか。  大河ドラマは教科書ではなく、 歴史への興味のきっかけになれば充分である。 また暗くて重厚なものが正統派であるということもない。 わかりやすく面白い中に深い感動のあるものこそ上質なエンターテイメントであると思う。 「利家とまつ」 が皆様に、 人間の素晴らしさをお届けできれば幸いである。
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