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ト・ラ・イ
「4百万円の功罪」
脚本家・監督  柏原 寛司
 もう2年前のことになるが、 4百万の製作費で 『練鑑ブラザーズ ゲッタマネー!』 というオリジナルビデオを監督した。
 ことの始まりは監督の室賀厚が、 ジャパンホームビデオから千二百万を引っ張ってきたことであった。
 大川俊道、 室賀厚、 柏原寛司の三人が、 それぞれ個性を発揮したアクション・ムービーをつくる、 『ネオアクション2001』 という企画である。
 千二百万を3人で割れば、 1人4百万の製作費となる。 当然ながら、 フィルムでの撮影は無理なので、 デジタルビデオでの撮影である。 仕上げの時間は60分以上、 あとは条件なしという事でスタートした。
 大川と室賀は低予算ムービーのノウハウに精通している。 いままで培ってきた独自のルートもあり、 大川は約半分がロサンゼルス・ロケ、 室賀にいたってはオール・アメリカ・ロケのロードムービーをやることになった。
 で、 自分はどうするか考え、 若手俳優を使ったコメディ・アクションをやる事にした。
 ヤクザの町金から1人30万を借りた6人の馬鹿者、 いや若者が、 利息が膨らんで1人百万を今日中に返さなければ命がない、 という状況に追い込まれてしまう。 さて、 6人が1日でいかに金を掻き集めるか、 というのが大まかなプロットである。
 これを新人ライター4人に脚本化してもらった。 4人のライターに俳優を振り分け、 それぞれが24時間でどうやって百万を集めるかアイデアを練り、 それを自分がチョイスして脚本をつくりあげた。 (シナリオ誌の二○○一年三月号に脚本が掲載されているので、 興味のある方はご覧いただきたい)
 なにしろ予算がないから、 脚本づくりの段階から、 ロケーションその他、 すべてに当たりをつけていった。 物語の重要な見せ場となる魚河岸の場内からマグロを1匹丸ごと盗み、 それを売ろうとして逃げ回る、 というところは、 河岸に勤める知人経由でいかに撮影するかを探り、 脚本に反映させた。  撮影体制であるが、 スタッフルームは自分の部屋に置いた。 機材車は自分のランクルを使い、 若手のライターに車を出してもらって俳優さんの移動などに対処した。
 主なスタッフは、 監督の自分、 監督補兼プロデューサー、 カメラマン、 その助手が2人、 録音、 助監督である。 助監督とカメラ助手の2人は制作も兼ねた。 あとは随時、 ライターの卵をスタッフとして呼び、 補った。
 低予算作品のネックは、 短い製作日数である。 製作費の関係でしょうがないとはいえ、 この問題をクリアしないと内容の充実は望めない。
 結論としては、 少人数スタッフで自主映画の体制を取れば、 何とかクリア出来るという事である。
  『ゲッタマネー!』 は二○○○年8月28日にクランクインし、 9月10日にアップした。 撮休1日を挟み、 実質12日間の撮影であった。
 音楽はオリジナルで曲をつくったし、 仕上げを含めて、 予算内で収めることが出来た。 高くはないが、 スタッフ、 キャストにもギャラは払っている。
 室賀の 『モンキー・エクスプレス』 はなかなかの力作で、 とても4百万とは思えないし、 大川の 『ワニ女の逆襲』 だってそうである。
 完成した3作品は、 去年の11月24日から一週間、 中野武蔵野ホールで1日2作品ずつレイトショー上映された。
 多くの方々の好意と協力、 そして知恵が必要ではあるが、 低予算でも作品をつくる事は可能なのである。
 だが、 それがいい事かというと、 そうともいえないのが辛い所だ。
 こっちとしては、 いくら製作費が少なかろうが、 作品をつくりたいという欲求がある。 が、 一方で、 つくればそれが基準となってしまい、 ますます予算がタイトになっていくというジレンマがあるのだ。
 製作会社がこれを受けたとしても、 金銭的なメリットはないだろう。 だが、 作品をつくったという実績と、 若い才能を発掘するというメリットはあるように思う。
 これからは、 いかに優秀な才能を抑えているかで、 商売が成り立つ時代になるからだ。
 とにかく、 作品をつくる事である。
大河はいつも進化しつづけるback会報トップページnextプロデューサーへの手紙