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300号
記念特集
テレビ・映画の現状に一言

 朝日新聞 学芸部記者  安田 彬

近ごろのドラマに思う

 7月スタートのドラマを見ていて、 一つ気になったことがある。 どのドラマも、 物語の描き方が丁寧なのだ。 分かりやすいことは歓迎すべきことなのだが、 逆に、 視聴者の想像をかき立てるメッセージ性のある画面が少ないのだ。 いわゆる行間に漂わせるというのがないのである。 抵抗感なく見せられるものだから、 見終わったら、 それで終わり。 何の感慨も残らないのである。
 メッセージにこだわりがないのは、 また作品全体にもいえる。 それぞれの作品には企画・制作意図が示されているわけだが、 どうも、 プロデューサーのこじつけにしか思えないのである。  はじめにキャストありきで、 この顔合わせでどんな話にしようかと、 脚本家と相談して、 という近ごろのドラマ作りでは、 作品にメッセージ性を求めようというのは無理なのかもしれない。
 作品にメッセージを持たせなくてはならないということを指摘したいのではない。 プロデューサーたちの、 こだわりある作品がないことを憂えるのだ。
 確かに連続ドラマ作りの環境は悪い。 かつては住むこと、 着ることの情報を、 トレンディーものドラマ (W浅野で始まりましたね) に求めていたのが、 近ごろの視聴者は、 そうした情報をインターネットで、 あるいは携帯電話で容易に手に入れる。 だから、 「ずっとあなたが好きだった」 「101回目のプロポーズ」 といった作品と競うには、 木村拓哉、 広末涼子、 あるいは深田恭子など人気のあるタレント、 俳優をキャストして、 話題を集めるという手法も分からない話ではない。
 けれど、 そもそもドラマというのは物語があっての成り立ちではなかっただろうか。 脚本があり、 この役を誰にしてもらうかと人選をして、 という作り方の原点が、 最近のドラマには忘れ去られているように思う。 よしんば、 適する俳優が木村でも広末であってもいいが、 その一方で、 制作者のいるポジションが本来は視聴者に向けてあるべきなのに、 どうも最近はプロダクションとか俳優サイド、 つまり身内に向けられているようにも見える。
 ついでだが、 物語の登場人物の設定は、 どんな環境で育って、 性格・考え方がどうであってとか、 具体的であればあるほどいいと思う。 そうした設定が深ければ、 演じる人はより身近にとらえるだろうし、 その結果、 見る側も劇中の人に思い入れできるのである。
 脚本家登用についても一言。 どうも近ごろの印象として、 人気が出たとなると、 その人ばかりに頼る傾向があるように思う。 でも、 どれほど有能な脚本家ではあっても、 度が過ぎれば、 引き出しはいずれ底をつく。 そうこうしているうちに、 粗製濫造。 それは本意ではないはずだ。
 作りたいものを作って欲しい。 編成上の問題はじめ、 制約が多いことはあるだろうが、 やはり、 作りたいものを作るべきでは、 と提案したい。 私たち記者にしても、 興味が持てる取材には力が入る。 好きな俳優へのインタビュー記事は自分でも面白いものが書ける。 けれど押しつけられたり、 あまり良い印象をもてない人への取材はどうしても後ろ向きになってしまう。 同じことは、 皆さんにも当てはまるのではないかと思う。
 最後に、 番組紹介に携わる者としての、 お願い。
 完パケを放送1週間前にあげて欲しいということ。 時間的に余裕をもって見せられた方が、 内容はじめを吟味できるからだ。 実際、 字幕スーパーの誤りを発見、 指摘して感謝されたこともある。 それって助かった・得したという気持ちになるでしょう。 お互いさまなんですよ。 いろいろ厳しいことも申し上げましたが、 テレビドラマが好きであればこそ。
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