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プロデューサーへの手紙 俳優  平泉 成
 以前、 長野県諏訪湖商店街の有志が、 ドイツにある湖の町に視察に行くというドキュメンタリーを見ました。 アオコにより汚れてしまった諏訪湖に、 美しい湖水を蘇らせようというのです。 視察地ドイツの湖水の町では、 長年にわたる経験と研究の成果を生かし、 湖に流れ込む河川の護岸は、 全て自然の岩や石を用いて治水を行っていました。 水辺には水生植物を植え、 生態型を保ち、 自然にやさしい方式を採っていたのです。 魚や微生物が生息し、 美しい湖水が保たれ、 人々がゆったりと水辺の散策を楽しんでいました。 「何と素晴らしい!」 私は深く感動したことを覚えています。 この治水方式を選択した国民の文化度の高さ……。 一方、 私達の国では、 全てコンクリートで固めてしまう方式が主流のようです。 もちろん充分に洪水を防ぐことは出来るのですが、 美しい湖水は戻って来ません。 そしてこの方式を採用した私達日本人。
 かつて私が映画会社に入社した頃は、 このドイツの湖水の町と同じ様な心配りで、 丁寧に映画が作られていました。 シナリオは勿論のこと、 セットも、 小道具も、 監督さんの掛け声ひとつまで……。 本番の声がかかるとセットは水を打った様に静かになります。 一秒、 二秒、 三秒、 四秒。 俳優の呼吸を汲み取り監督が声を掛けます 「ヨーイ・スタート!」。 哀しいシーンでは静かにやさしく、 嬉しいシーンでは楽しそうに。 大切に、 ワンカットずつ撮っていました。
   あれから三十数年が過ぎ、 社会は急激な変化を遂げました。 私達日本人は日々の生活に追われ、 ゆとりを失ってしまいました。 ドラマの世界も同様です。 秒速で変化していると言われる現代、 視聴者の価値観も大きく変わりました。 私達のドラマも、 どの様に成長して行くのでしょうか。 厳しい現実の中で、 日々戦っておられるプロデューサー諸兄、 頼りにしています。 貴兄の双肩にドラマの未来がかかっています。
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