ALL NIPPON PRODUCERS ASSOCIATON
●・マネージャー 座談会・●
会報委員
日本芸能マネージメント
事業者協会副理事長
 豊田紀雄

「根本に戻っていいものを作る気持ちを取り戻してほしい」

−−今日は俳優のマネージメントをしている4人の方に集まって頂き、 今のテレビドラマの現状について感じていることをざっくばらんに語って頂こうと考えました。

 今のようなテレビドラマの状況が始まったのは、 昭和50年代の終わり頃に歌番組がなくなったことにあると思います。 それまで歌手と俳優は棲み分けがあって、 それぞれに活動をしていたのに、 歌番組がなくなったことで行き場を失ったアイドル的な歌手がドラマに出演しはじめた。 その後、 代理店、 テレビ局のビジネス基準である視聴率の競争が激化したことと相まって、 知名度があれば誰でもいいという今の状況が生まれていったように感じます。
 確かにそのような流れですよね。 そうして知名度のある人気者たちを集めて活動するプロダクションが次々に誕生した。 そうしたプロダクションの一部には、 プロデューサーを買収するという恥ずかしい行為をしているところもあると聞きます。 そういったことも絡み合って、 ついにタレントでドラマが作られるようになった。 そしてきちんとしたテーマで企画を立て、 それに合わせた脚本を作り、 それぞれの役に合った俳優を決めていくというものづくりの流れがなくなってしまった。
 テレビ局のプロデューサーは、 そうした現状の中で、 ビジネスマンとして仕事をしているわけだから、 会社の上から数字が全てだって言われたら 「はい、 はい」 って言わざるを得ないんでしょうね。
 そうなると、 プロデューサーとしては人気のある人を出して確実に視聴率が取れるものを考えるしかない。 その気持ちはわからにないでもないですけどね。 でもそんなことを繰り返しているうちに、 本物のドラマを作るというのはどういうことか、 考えられなくなっちゃったんでしょうね。
 その結果、 本も読まない、 携帯のメールを打ちながらフラフラ外を歩いて、 人と話が出来ない若者たちが喜ぶようなものばかりを平気で作るようになっちゃった。 最近のドラマはただ映像を合わせて見せてるだけのようなもの。 ドラマとは言えないと思う。 しかも内容は若者に迎合した刺激的なものがほとんど。
 そういうドラマを見た若者が考えられないような事件を起こしているという面もあるだろうに。
 そうしたドラマには本当の芝居なんか必要ないから、 ベテランの役者はほとんど出る幕がないのも事実。
 ギャラは値切られるわ、 仕事は減るわで、 我々はとても厳しい状態だよな。
 視聴率を優先して、 自分たちに都合の良い視聴者だけに向けた番組作りを強要するテレビ局、 代理店に問題があるのは事実としても、 それに対応してYESマンになっている多くのプロデューサー、 または制作現場にも問題があると思う。
 だからドラマを見る人の心にきちんと何かを訴えるようなものが作れないわけですね。
 言いすぎかもしれないけど、 自分たちがどれだけ視聴者を駄目にしているかを思い返して、 今の社会に必要なものは何かを考えることこそが今、 必要なんじゃないのかな。
 だいたいプロデューサーは今なにが必要かというテーマ性を捨てて、 世間で話題になっているものばかりを追いかけているでしょう。 その結果、 作品の内容、 出演者、 脚本家、 全て同一化現象が起きて、 選択肢がない状況になってしまった。 これは文化的な大問題だと思いますよ。
 テレビ界に苦言、 提言をしっかり言える文化人が居なくなったことも現状に歯止めが効かなくなった原因の一つかも知れない。 プロデューサーが今こうした現状に危機感を持って、 制作現場を質的に高めるようなことを言える文化人の一人でも育てるくらいのことをしてほしい。
 視聴率よりも質を考えて、 根本に戻っていいものを作るという方向に持っていって欲しいですね。 逆にここまでひどい状況にある今だからこそそういうことが出来るんじゃないかと思う。
(平成14年8月22日/銀座・三笠会館にて)
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