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「第2フェーズに入ったフィルムコミッション」
全国フィルム・コミッション連絡協議会専務理事 前澤 哲爾
 10月24日、 京橋の東京国立近代美術館フィルムセンターで、 文化庁主催 「全国フィルム・コミッション・コンベンション」 が開催された。 これは、 全国フィルム・コミッション連絡協議会 (以下、 協議会) の事務局が、 国際観光振興会からフィルムセンター内に移設されたことを記念した事業である。 文化庁は今、 「経済力」 に対置する言葉として 「文化力」 を提唱していて、 今回のイベントは 「文化力としてのフィルムコミッション」 という副題が付けられた。
 大ホールには、 フィルムコミッション (以下、 FC) 関係者が全国から約100名、 映像制作者が約100名、 他に行政関係、 メディア関係者が50人ほどが集まり、 ほぼ満員の状態だった。
 第1部は、 映画制作のメインスタッフとして、 監督の山田洋次氏、 女優の島田楊子氏、 撮影監督の高村倉太郎氏、 シナリオライターの西岡琢也氏、 プロデューサーの亀山千広氏を招き、 主催者側として文化庁文化部長の寺脇研氏と神戸フィルム・オフィスの田中まこ氏が共同司会を担当、 「FCの意義と文化力」 について論議した。
 第2部は、 経済産業省、 国土交通省、 文部科学省の各担当者と、 制作側として映画監督、 FCとプロデューサーを配して 「大討論会〜ロケーション環境を考える」 を行なった。
 文化庁は、 映画振興予算を毎年倍近く増やし、 来年度は36億円の概算要求をしている。 その中で、 FC支援のために9、 500万円計上している。 私たちの活動がこうした映画振興の一環と位置づけられるようになったことは、 大変勇気づけられることであるが、 それは同時にFCが揺籃期から成長期に移る第2フェーズを迎えたことを意味する。
FCとは何か。
 FCは、 映画、 テレビ番組、 CM、 スチールなど全てのロケーション撮影に対し、 無償で情報提供などの便宜を図る公的機関である。 国際組織であるAFCIに加盟しているFCは、 世界31カ国、 300ヶ所を超える。 世に言う 「グローバルスタンダード」 の1つである。 欧米作品のほとんどは、 どこかのFCのサービスを受けて撮影されている。
 ニューヨークのFCには、 映画制作に精通したスタッフと共に、 市警や消防署の担当者も常駐していて、 実にスムーズに許可関係などを処理する。 映像制作にはすでに必須の機関なのである。
 日本の場合、 2000年2月大阪で日本初のFCが立ち上がり、 現在では北海道から沖縄まで59FCが協議会に加盟し、 活動している。 その多くは、 自治体、 観光協会、 商工会議所などが母体となって設立されている。 機能的には欧米のFCに及ばないが、 それらを目標にして撮影環境の改善に取り組んでいる。
 地域でFCを立ち上げる動機としては、 ロケ隊が現地で支払う費用を換算する経済効果や公開された後の宣伝効果、 そこから始まる観光客誘致などを上げる所が多いが、 広い意味で言えばさらに産業振興や地域文化創出といったことも含めた地域振興策の一環である。 地域はすでに借金付けになる 「ハコモノ」 行政の限界を感じていて、 それに比べてほとんどお金がかからず、 また反対者が少ないFCの設立は、 創作現場に関わる達成感と文化的波及効果を期待しているとも言える。
制作者のメリット
 スタッフの立場でいうと、 FCは強い味方である。 地方ロケの場合、 今まで観光課に連絡し協力を求めていくわけだが、 先方が協力的かどうかは分からない。 断られないように慎重に頼むしかない。 FCは、 初めから誰でも歓迎ということを明確にし、 かつ撮影に関する情報を事前に準備しているので、 無理難題でも相談できる。 「バトルロワイヤル2」 「たそがれ清兵衛」 「踊る大捜査線2」 「武蔵」 など、 全国のFCが協力して、 希望した撮影地が決まった例は数多い。
   地元の情報に精通したFCの担当者とロケハンを一緒にできるので、 かなり効率的になり、 結果的にその分がコストセーブになる。 撮影のためにディスカウントをするホテルや旅館の事前登録リストもある。 千人を超えるエキストラリストを持っているFCもある。 さらに、 今まで提供していなかった公的施設の撮影についての許可も得ることができる。 制作者にとっての最大の関心事である予算にかなり大きな影響が出てくる。
 だが、 私はそれよりも重要なメリットは、 作品の質の向上につながるということだ。 撮りたかった場所で撮影できず、 妥協を繰り返していけば、 映像の力は失われていく。 制作者が望んだ撮影場所が提供され、 地域住民の理解の中で制作されていくことが、 理想の環境である。 FCの活動は、 その理想の実現に向かって進むためのものである。
制作者への注文
 FCによって様々な便宜が行なわれる。 しかし、 FCはサービスの対価としての金銭の授受は決してしない。 施設使用料や許可手数料は別として、 ロケハンも無料、 情報提供も無料である。 しかし、 地域の協力金の提供や、 タイアップの交渉はしない。 FCは公的機関であり、 全ての制作者に開かれているので、 特定の作品に対して金銭的に特別待遇はできない。 そのような場合は、 プロダクションサイドで独自に、 別の部署や個々の企業に頼むことになる。 FCにとって公平性は非常に重要なのだ。 タイアップをしてはならないのではなく、 それはFCの仕事とは違うことだと認識してほしい。
 FCと制作者が互いに信頼できる関係を保ちたいと思う。 明らかに深夜まで及ぶことが分かっていて、 入ったら強引にやってしまうプロダクションもある。 優れたFCは、 事前にシナリオで撮影シーン数から時間を読み、 さらに多めに時間確保をしておくが、 嘘をつかれたらどうしようもない。 FCの担当者はその後、 各所に行って謝って回ることになる。 制作者のモラルの問題だというのは容易いが、 本人にモラルを問いても解決しない。 各FCはよく情報交換をしている。 お行儀の悪い会社や個人の名前は、 情報共有していきたいと考えている。 だからといって仕事を拒否することはないが、 事前にトラブルを避ける方策はとれる。 この業界できちんと仕事が継続できるか否かが、 唯一モラル向上に役立つと考えている。
これからの展望
 日本のFCは、 まだ歴史も浅い。 これからするべきことは山のようにある。
 その1つが、 「規制緩和」 である。 日本では、 都市部の公道を封鎖して撮影ができることは極まれである。 撮影のために多くの車を駐車するにしても、 便宜は図られない。 都市部の公園などでは、 撮影許可は出ても、 厳しい条件がつけられる。
 分かりやすく言えば、 海外でできて、 日本でできないものをひとつずつ改善していきたい。 これらはしかし、 法律的に明記された 「規制」 ではなく、 前例がないということや現場の裁量であることが多い。 協議会内に 「規制緩和委員会」 を設けており、 ここで具体的な方策を検討中である。
 最終的な解決は相当先になる。 なぜなら、 海外でかなり自由に撮影できているということは、 とりもなおさず映像制作が文化や産業にとって重要であるという認識を多くの人々が持ち、 少々の迷惑がかかっても受け入れているということであるからだ。 日本における映像作品の価値が実は問われていることと同義語なのである。
 もうひとつは、 広域化・ネットワーク化である。 FCが多くなることは、 受け入れ地域が増えることなので、 それ自身は大変結構なことである。 しかし、 星の数ほどFCがあると、 逆に多くのFCをひとつずつ問い合わせしていくことなる。 一方、 FCも個々にそれぞれパンフレットを印刷し配布することは、 効率的でない。 とりわけ、 海外へのアプローチはある程度大きなエリアでしか行えない。 今後、 アジアとの共同制作や互いの国での撮影が増加していくことを考えると、 対応する言語を扱う担当者も広域でなければ、 配置できないはずだ。
 日本国内のネットワーク化を推し進めると同時に、 アジア圏のネットワーク化も進める。 プサン国際映画祭期間中に開催されたBIFCOM (プサン国際フィルムコミッションショーケース) で、 初めてアジアのFCの連携についての会議が開催された。 今後定期的に会議を行っていく。
 FCは、 国内ロケサービスから国際ロケサービスへ、 さらに地域を主体とした映像文化振興へと発展していく。 プロデューサー協会会員の方々のご理解とご支援を心からお願いしたい。
HPは、 www.film-com.jp
ご意見は、 maezawa@film-com.jpまで。
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