私の新人時代 |
川原 康彦 (日本テレビ) |
僕は失敗に憧れていた
そこそこの年月、 テレビドラマを作り続けてきた。
その間、 僕の願いは見事な失敗をすることだった。 志高く、 冒険するからこそ失敗はある。 失敗があることは志高い証拠でもあるのだ。 ところが、 僕には腰の抜けるほどの失敗はなかった。 冒険をしない、 平凡なプロデューサーなのだろう。
新人の頃もさしたる失敗はなかった。
ドラマも生放送だった頃。 単発ドラマシリーズ 『愛の劇場』 (NTV) でADをやっていた。 その中のある回。 家に客が来たというシーン。 当然、 客の脱いだ履物が玄関にある筈だ。 が、 カメラを向けると何もない。
客は帰ってしまったのかー?
客が居る設定のストーリーのため結果はとんでもなく奇妙なものになってしまった。
美術さんが折角スタンバイした履物を、 僕が排除してしまったのである。 何を勘違いしたのか。
失敗だった。 勿論、 志高きが故の失敗でなかった。
時移って二、 三十年の後。 僕は連続ドラマ 『同窓会』 (NTV) のプロデューサーだった。
タイトル通り同窓生達のそれぞれの人生を時にはノスタルジックに描くドラマのつもりだった。
脚本が上がってきて腰を抜かした。 描かれていたのは男達の愛、 ホモセクシャルの世界だったのである。
同窓会という言葉から何をイメージして、 何を創り上げるか。 作家は全く別の視点で切り取ってきたのである。
作家は井沢満さん。 僕の最も尊敬し、 愛する人である。 作家の意向に従うことにした。 そして鮮烈な作品になった。 僕は気に入っている。
只、 局の狙い、 プロデューサーの当初の心算とは違うものが出来てしまった。
僕の失敗だろう。 作家の視点、 意図を読み違えていたと言う点だけは。
僕の失敗が 『同窓会』 を素晴らしい作品にしたのか?別に志が高かった訳ではない。 引きずられただけのプロデューサーだったのである。
|
|