日本映画テレビプロデューサー協会報2008年5月号

第4回 プロデューサーズ・カフェ 開催のお知らせ

6月24日(火)17:00より
東宝スタジオ(成城) アクターズセンター(1階)・センターホールにて  (東京都世田谷区成城1-4-1)
講師 東宝映画社長  富山 省吾

講師 東宝映画社長  富山 省吾  今回は、富山省吾プロデューサーに最近の東宝映画作品について、また今後の製作プロダクションとしての戦略、邦画界全体の展望などをお話いただく予定です。
  (プロデュース作品「ゴジラ」シリーズ「赤い月」「春の雪」「愛の流刑地」「椿三十郎」「隠し砦の三悪人」等)

また講演前には、撮影所まで来ていただくいい機会ですので、所内の新スタジオなどをお見せしようかと思っております。2003年より進めておりました、スタジオ改造計画の最後のステージとなる・3、4ステージが本年1月に完成致しました。これにより東宝スタジオでは欠番無しの12ステージが揃い、年間25本以上の映画撮影、150本以上のCM撮影を受け入れる体制が整っております。古く年季の入ったスタジオも歴史を感じさせていいものでしたが、外見も設備も新装なったスタジオや関連施設を是非ご覧下さい。

東宝スタジオはこんなに変わりました。

(株)東宝スタジオサービス 常務取締役  今井田能壽
(株)東宝スタジオサービス 常務取締役  今井田能壽

  最近、東宝スタジオにお越しいただいたでしょうか。メインゲートで最初に皆様をお迎えするのは「七人の侍」の巨大壁画とゴジラの特大ブロンズ像です。東宝そして日本映画を代表する作品ですが、「七人の侍」には、困難なプロジェクトを達成するために様々な人材が寄り集まって次々と立ちはだかる難問を突破して行く、そんな映画製作の心意気を再び! と、また荒ぶるゴジラには、そのダイナミズムを日本映画の活力にしたい! そんな願いも込めています。東宝スタジオでは、04年から4年かけて大改造計画を進めてまいりました。その第1期計画が本年6月をもっていよいよ完了致します。5つの最新スタジオを新築し、スタッフ・キャストの方々の利便性・居住性を追求したプロダクションセンター、アクターズセンター、そしてスタジオ窓口を一本化して柔軟なサービスを展開するオフィスセンターという3つのセンターを作り上げ、さらに美術制作の一貫した生産ラインである大道具・コスチューム棟、8万点の装飾物を管理・東宝スタジオ貸出する装飾棟、新倉庫棟などバックヤードの充実・強化にも努めました。総額50億円をかけた大きな計画でしたが、順調に計画を進めることができましたのも、この間、当スタジオをご利用いただいたスタッフ・キャストの方々のご理解があったからこそと、あらためて御礼申し上げます。おかげさまで、現在ステージ数は12、年間で映画が25本、CMが150本以上ご利用いただける体制が整いました。またハード面ばかりでなく、駐車場の整備、カフェテリア新設による食事環境の刷新、セキュリティーレベルの向上、さらに所内外を繋ぐ画像ネットワークの構築、そして東宝スタジオ経営部・東宝スタジオサービス・東宝映像美術が一体となった広範なサービス展開などなど、ファシリティサービスも充実しています。是非みなさまのプロダクションに東宝スタジオをご活用いただきたいと思います。この次は第2期計画!新ポスプロセンターの開発に着手いたします。東宝スタジオにさらにご注目ください。

TVのネット配信に新たな形 ~NHKオンデマンドは有効なビジネスモデルに成るか?

NHKアーカイブス・オンデマンド推進室 部長   小原 正光

 放送法改正により今年12月からサービスを開始する『NHKオンデマンド』は、日本国内において最初の本格的なTV番組配信となる。欧米やアジアの主要国ではスタンダードになっている「TV番組のネット配信」に関して日本が最終ランナーになっている現状については、これまでもさまざまな議論がなされてきた。

(1)放送と通信の異なる法制度

(2)著作権の権利処理

(3)マスメディアに集中する広告収入

(4)新規ネットビジネスモデルの低迷──などである。

  欧米では放送局やケーブルネット会社が重要な戦略としてTV番組のネット配信やIPTVに乗り出し、放送、通信、広告が融合した新たなビジネスモデルを構築しつつあり、従来のTV放送の枠組みからシフトが進んでいる。高速回線の普及度は世界の先端にある日本でも、通信業界は01年から民放は05年から次々とネット配信に参入したが、肝心のコンテンツは民放では現在放送中の人気番組や過去の名作番組は皆無であり、民間配信事業者(CP)も映画やアニメ以外のTV番組は一部に留まっている。その結果、主流である無料広告モデルや一部の有料モデルもビジネスとしての十分な売り上げや利益を得られていない。
  一方NHKは放送法で通信回線を使った番組提供は規定されておらず、02年総務省「インターネット利用ガイドライン」で放送の補完以上のサービスはできなかったが、放送法改正でTV番組の配信に最終ランナーとして参入する。コンテンツは100%NHKが制作した番組である。TV番組が一部しかない従来の日本の配信コンテンツと大きく異なる。初めて本格的なTVコンテンツがユーザーにオンデマンドで提供されるのである。
  またNHKのビジネスモデルは受信料を使わない「有料配信」である。欧米では「見逃し番組」は無料、「過去番組」はサービス無しか、有料が大半であるがNHKはすべて有料である。ここには重要なポイントが隠されている。ひとつは権利者へ対価支払いや配信コストが番組制作コストから分離できること。一種の有料会員サービスであることから配信数に制限がかかり、既存のPC無料配信サービスより高速・高画質で送信が可能となる。また、アクトビラ・フルやCATVVODサービスではハイビジョンで配信するので家庭の大画面TVで「いつでも好きな時間に見られる」オンデマンド環境が高品質かつ複数展開できるのである。
  数十万人のユーザー相手でも「有料配信モデル」が成立すれば、これまで低迷してきた民放やCPにもTV番組配信のメリットが生まれ、TV番組コンテンツの充実が広告ビジネスのシフトを可能にし、欧米で先行している無料広告ビジネスモデルが日本に定着するきっかけに成り得るのである。

只今撮影中

角川映画 プロデューサー  中村 陽介
角川映画 プロデューサー  中村 陽介「ダイブ!!」

 北京オリンピック代表をイメージ・キャラクターにした街頭広告、メダル獲得が有望視される若手アスリートをクローズアップした番組の放映など、8月8日の開幕に先駆け、日本全土でオリンピック熱が高まっているのを感じます。角川文庫創刊60周年記念作品第一弾である「ダイブ!!」は、この四年に一度のオリンピック・イヤーの公開に向けて、昨年夏、石川・静岡・岡山の三県に跨って撮影されました。原作は直木賞作家、森絵都による青春小説「DIVE!!」。高飛込競技を題材に、自分たちが所属するダイビング・クラブの存亡をかけて、3人の若きダイバーたちが互いに切磋琢磨し合いながら、オリンピック代表を目指す物語です。日本では依然メジャーになりきれていない高飛込ですが、欧米では非常に人気の高いスポーツで、近年の大会においても、真っ先にチケットが完売になる程のプレミア種目。題材を知るべく、高飛込専用プールを訪れた我々は、飛込に対して鮮烈な第一印象を抱いたのを憶えています。一切の器具類を使用する事なく、人が高さ10mの台の上から跳躍し、落下するその過程でのダイナミックさや、美しさを競うスポーツ。それは、ある意味原始的であると同時に潔いほどのシンプルさで見る者の心を強く揺さぶる競技でした。
  実際の飛込シーンの撮影にあたって、飛込台の「高さ」の表現はもとより、ダイバーたちの飛込演技が単調にならない様、撮影部と特機部が中心となって日々創意工夫を凝らしました。クレーン撮影は勿論の事、映画として最大の見せ場となるオリンピック代表権を賭けた大会のシーンでは、飛込プールを囲む形で四本の支柱を設営し、そこからワイヤーの張られた空間内は縦横無尽に移動可能なスパイダー・カムを用いた撮影を行っています。我々がテレビで見る試合中継を表舞台とするのならば、飛込には一本一本の演技を終えた後、シャワーを浴び、次の演技に向けたコーチとの意志疎通を行い、そして飛込台へと向かう階段を上りながら集中力を高めて行くという裏の舞台があります。「ダイブ!!」撮影風景「ダイブ!!」では、決してテレビ等で放映される事のない、この瞬間のドラマも描きたかった。また大会シーンの運営にあたっては、日本水泳連盟の強力なサポート体制の下、審判員の衣装や備品の提供だけでなく、国内でも一流の現役選手たちの撮影参加が実現しました。日本水泳連盟には企画の初期段階より協力要請をしており、作品を検討して頂いた上で「飛込競技の裾野を広げる事に貢献できるのであれば」という想いで賛同を得られたのが、作品にとって大きな躍進になりました。中でも、飛込指導として参加された金戸恵太氏は、ソウル・バルセロナ・アトランタの3大会に出場した日本飛込界の第一人者で、撮影前から約3ヶ月に渡って俳優たちのトレーニングを丹念に行って下さいました。そんな「ダイブ!!」ですが、いよいよ6月14日より、全国ロードショーとなります。一人でも多くの製作者の方々に、劇場に足を運んで頂き、ご意見、ご感想などを頂ければと思います。

私の新人時代

TBS 瀬戸口克陽

松竹 足立 弘平 「1年目に一番厳しい修行経験を積んだ方が、先々役立つぞ」そんな先輩の言葉に見事に乗せられて、新入社員の僕は志願してバラエティーのADに配属された。番組は「ロケ先で出演者が人間ウォッチングクイズを行い、正解すると豪華賞品が当たる」というスタイル。僕の最初の仕事は、その“豪華賞品”を買い揃えることだった。
  ロケ当日の朝まで、夜通しディレクターが構成作家の方々と打ち合わせをし、早朝にその商品リストが発表される。「会員制ゴルフクラブの打ちっぱなし券」「高級マッサージ店の利用券」「超有名店のスペシャルフルコース、裏メニュー付き」etc……。それらの交渉を全て当日、直談判して、15時からの本番までに、現物をロケ場所である新大久保に届けるのだ。
  早速、社内中の電話帳をかき集めてタクシーに飛び乗り、運転手さんと相談して最短ルートを決め、移動しながら携帯電話で交渉していく。
  そんな中、一番の“目玉商品”に指定されたのは「成田─ラスベガス 往復航空ペアチケット(しかもオープン)」
  それを10万円以内で購入して来い、という何とも無謀な指令。
  他の商品の手配を行いながら、都内中の旅行代理店に片っ端から電話していく。
  しかし、そんな格安航空券は、どこをどう探しても見つかるわけがない。
  お昼を過ぎて、本番の時間が刻一刻と迫る中、ディレクターに途中経過の報告を入れる。さすがに、条件を緩めてくれると思っていた僕に返ってきた言葉は「君、日本中の旅行代理店と交渉したわけ? まだ? じゃあ、頑張れ」
  愕然としながら電話をかけ続けるも、結局僕が準備できたのは、15万円のチケットだった。それでも、上出来! と思っていた僕に、ディレクターからお褒めの言葉は一切なかった。
  後日、この話を先輩に愚痴ったところ、返ってきたアドバイスにさらに驚いた。
  「もったいない! お前が5万円自腹切って、条件通り買い揃えました! と登場したら、現場は盛り上がるし、デキる男として評価されたのに。そしたら、ディレクターだって、その5万円は払ってくれたよ」
  まさに、“目からウロコ”だった。自分の発想がいかに、枠にとらわれた狭い世界のものだったのか、と。それと同時に、自分が選んだ世界は、そのぐらい精神的にタフで、瞬時に機転が利かないと生きていけないんだな、と覚悟を新たにした瞬間でもあった。
  先輩達に身をもって叩き込まれた、「ピンチはチャンス!! 逆転の発想で」という教訓が、それ以来、僕の座右の銘である。

事務局だより

第4回プロデューサーズ・カフェ参加希望者募集!!

第1面でお知らせ致しました「カフェ」の参加希望者は左記のFAXでお申し込み下さい。(〆切/6月16日(月))
◎FAX 03─5338─1237

インフォメーション

◎会議の記録と予定

5月19日(月)  会報委員会  (事務局)
5月30日(金)  第11回定例理事会 / 第32回通常総会  (NHK青山荘)
6月9日(月)   会報委員会  (事務局)
6月25日(水)  第1回定例理事会  (NHKエンタープライズ)

編集後記

久々の編集後記です。なぜ久し振りかというと、編集後記を書かなくていいように編集しているからです。ところが今月は目算が違ってしまいました(笑)。
  5月の会報委員会でCXの小寺尚さんから嬉しい知らせを聴きました。CXの大多亮さんが、会報5月号の並木朋子TVガイド編集長の一文を「読んでおくように」と部下・後輩の皆さんに配布してくださった、ということです。
  このように会報が読まれ、なおかつ波及効果があると、編集部一同にはたいへんな励みになります。
  5年前(!)の会報委員長就任の辞に私は、会報が「会員の役に立つ」情報誌であるとともに「百家争鳴、談論風発」の場になれば僥倖です、と書きました。そう簡単にはいかないのですが、初心を忘れずに励みたいと思います。
  次号7月号は、「只今撮影中」「私の新人時代」の二大連載に加え、「総会を終えて」と議論百出の映画「靖国YASUKUNI」について特集します。お楽しみに。

香月純一