社団法人 日本映画テレビプロデューサー協会 会報 2010年7月号

3Dの可能性について

2010年は3D元年と言われています。   邦画の3D映画上映も加速しています。
それでは3D映像の原理とは?  撮影から上映までの仕組みについて聞いてみました。


ソニーPCL㈱ 3D戦略室 室長   大場 省介

【1】立体視は目玉と脳の連携プレー

 私たちは物を見るとき左右の視線を無意識のうちに対象物に合わせています。その時の両目の視線が作る角度を輻輳角と呼びます。輻輳角は近くのものを見るときは大きくなり、左右の目玉は寄り目になりますが、遠くのものを見るときは、目は開き輻輳角は小さくなります。このように、目玉の動きと連動した輻輳角の大小が、物までの距離を把握する手がかりの一つとなっております。
 脳は注視するものに対して、常に視線を合わせる動作を連続して行っており、この「視線の交わり=距離情報」を積み重ねることで、目の前の風景を立体的に捕えています。この脳の機能を騙したものが立体映像です。2枚の平面映像を一緒に見せ、何らかの方法で視線を交差させれば、脳が錯覚を起こし、視線の交わるところに映像が立体的に見える、というのが3D映像の原理となっています。

視線は見たいところで必ず交わり輻輳角から脳は距離を把握する/強引に視線を交わらせると脳が錯覚し立体に見える

【2】3D撮影のしくみ

  3D撮影の基本中の基本は、人の目幅と同じように2台のカメラをセットすることです。二つのレンズの中心幅は、人の目幅の平均と同じ6.5・位にします。次に2台のカメラの視線を合わせます。視線の交わったところが交点と呼ばれ、3D撮影の基準点となります。
 交点よりカメラ側にある被写体は飛び出し映像になり、交点より後ろにある被写体は、奥行き映像となります。そして、交点にある被写体が、スクリーン面上の映像となります。
 ここで左右のカメラが撮った映像を重ねると、交点を基準にして前後の被写体映像に6.5・のレンズの位置の差による左右方向のずれ(両眼視差)が発生します。このように撮影された2台のカメラによる両眼視差のある映像をそれぞれ左右の目に分離して見せることにより、脳を錯覚させ立体映像として認識させることが出来るのです。

【3】3D上映のしくみ

  3D上映とは、同時に上映される左右の映像を右目と左目にいかに分離して見せるかがポイントです。通常、左右映像を重ねてスクリーンに投影します。左右映像をそのままの状態で上映すると、両目には左右映像が区別されずに入り二重映像となって見えます。立体に見せるには、左右映像を左目用は左目に右目用は右目に見せる必要があります。現在、最も一般的なのは偏光フィルターをプロジェクターに装着する方法です。観客はプロジェクターと同じ偏光方向の偏光フィルターの眼鏡をかけてスクリーンを見ます。すると、左カメラで撮影した映像を左眼の映像として、右カメラで撮影した映像は右眼の映像として脳は錯覚を起こし、「視線の交わったところに映像がある」と認識します。このようにして、目幅6.5・のカメラが撮影した左右の2D映像が立体的に見えるのです。

【4】3D撮影機材例

 3D撮影機材には、平行レンズ撮影システムと、ハーフミラー撮影システムがあります。現在では後者が、3D撮影システムの主流となりつつあります。

【5】3D上映機材例

  劇場用に開発された上映方式は3種類ほどありますが、いずれも1台のプロジェクターで、左右映像を高フレームレートにして交互に時分割上映し、それぞれのシステムに合った眼鏡で左右映像を識別する仕組みです。

ハーフミラー式撮影システム/偏光方式3D同時上映機材例

【6】2D3D変換について

  オリジナルから3D撮影をする事が、時間的、費用的に厳しい場合、2D3D変換処理をして3D化する方法も存在します。
 幾つかのレベルがありますが、二度と撮影できない過去の作品を費用をかけて3D化する場合は、1コマごとに被写体を切り取り、左右に位置をずらして視差をつけます。元の位置で被写体の後ろに隠れていて写っていない部分は、他の部分からコピーをしたり新たに描き込んだりして各コマを作っていきます。
 この場合は、膨大な手間と費用がかかりますが、大作映画の3D化はこのような方法で製作されています。
 一方、市販のリアルタイム変換機を利用する方法が対極にあります。
 しかし、市販品の変換処理は、効果のあるシーンもありますが、不自然、或いは不十分な3D映像となる場合も多く、殆どの場合、そのまま通せばOKという事にはなりません。
 そこで、これらの中間に様々な手段が提案されており、それぞれ独自で優位性があると主張しているアルゴリズムで時間をかけて変換を行い、NGの場合は、パラメーターを変えて変換する事を繰り返し、完成度を上げていきます。
 今年の3D映像サミットで、2D3D変換はハリウッドでは「フェイク(いんちき)3D」という名称で否定する意見表明がなされていますので、取り扱いには注意が必要です。
 今後、視聴者の眼が肥えてきて「フェイク3D」には厳しい評価が下り次第に利用されなくなるか、逆に、有効なアルゴリズムが開発され、リアル3Dと区別がつかなくなるかの何れかでしょう。


  3D上映可能なスクリーン数も増加し、日本映画の3D上映も増えてゆくものと思われます。ただし、限られた日本映画のマーケットの中で、観客の需要と製作費の間の試行錯誤がしばらく続いてゆくのでしょうか?

只今撮影中

若松プロダクション 大日方 教史

若松プロダクション 大日方 教史

『キャタピラー』

  今年2月、第60回ベルリン国際映画祭にて「キャタピラー」主演の寺島しのぶさんが最優秀主演女優賞(銀熊賞)を受賞。日本人では35年振り3人目の快挙。仕上げを含めても30人に満たないスタッフで制作した映画です。コンペティションに選ばれただけでも満足なのに思いもよらぬうれしい知らせでした。
 撮影が行なわれたのは新潟県の刈羽村、長岡市、柏崎市、南魚沼市で昨年の4月から5月にかけて行なわれました。若松監督は冬の撮影を好む傾向があり、当初2月から3月にかけての撮影を計画していましたが、四季の移ろいを表現しなければならないこともあり、桜の花と田植えの時期を中心に撮影を進めることになりました。
 主演は前述の寺島しのぶと「実録・連合赤軍/あさま山荘への道程」で坂東國男を演じた大西信満。第2次世界大戦の最中、出征した中国で四肢を失って帰還した兵士の夫と、一人で夫の世話をする妻の愛憎劇です。
 スタッフは若松監督の前作「実録・連合赤軍/あさま山荘への道程」のスタッフを中心に新しくCG部、特殊メイク造形部が加わり計16人。誰もがスタッフ数の少なさには慣れているし、違和感もない。ただ「連合赤軍~」は、群像劇でキャストも本当にキャンプをするかのような現場だったが、今回の撮影はほとんどが一軒家の中で行なわれ、経験しえないバックボーンと状況設定の中、他の登場人物から何かの影響をもたらされることもほとんどなく、お互いの対峙の中でドラマが進行してゆく。寺島さんと大西さんは本当に大変だったと思う。大西さんに至っては手足を縛られ無理な姿勢を強いられ身動きすることすらできない。
 カメラは常時二台使用し、基本的にワンシーンワンカット。カットを割ったとしても照明直しもほとんどなくカメラがキャストに近付いていき、すぐに本番。「役者の感情を切らさない」が若松監督のやり方。そんな状況だから、助監督が次のカットの伝達なんてしている暇もなく、皆が若松監督に集中している。皆、大きさこそ違うかもしれないが、それぞれの歯車が若松孝二という大きな歯車に直接かみ合っている感じだ。 『キャタピラー』
 撮影の終盤、クライマックスシーンを午前中に撮り上げ、ナイター待ちとなった。夜は寺島さん一人のみの撮影。5時間の待ちとなり、メインスタッフで2日後の現場確認に行くことになったのだが、寺島さんが一緒に行きたいという。寺島さん曰く「夜まで一人でいたら、シゲ子(役名)の気持ちでいられなくなっちゃうかもしれないから」クライマックスシーンを撮り終え、緊張が和らいだのだろうか、とはいえ、撮影期間中に主演女優を伴ってのロケハンは初めて。スタッフと一緒に寺島さんも8人乗りのワゴン車に乗り込み出発。小規模な映画の一体感というべきか、この組ならではの象徴的なできごとかもしれない。
 四季折々の実景撮影を残して、当初14日間の予定が12日間で撮影を終えた。スケジュールより早く終わることは珍しいことではない。スタッフ、キャストが一丸とならなければならないし、撮影地の皆様の協力なくしてはできないことだ。
 この作品は若松プロダクションの自主配給ということもあり、いままでとは違う形での全国公開となる。6月19日⑦沖縄公開、8月6日⑥広島公開、8月9日②長崎公開、8月14日⑦東京ほか各都市にて公開。8月15日は日曜日なので、一日繰り上げたことになる。この日付けの意味は、日本人なら当然お気づきであろう。若松監督の意向で料金も当日一般1,300円、高校生500円、前売券1,000円と通常のロードショーよりも安くした。独立プロダクションだから派手な宣伝はできないけど、できるだけ多くの人に観てもらいたいという願いをこめて。

私の新人時代

松竹株式会社編成部映像企画室 野地 千秋

 大学で映画にはまってしまい1994年松竹に入社したのだが、すぐに配属されたのは人事部。映画の仕事がしたかったのにと、とても落ち込んだことを覚えている。歓迎会か何かで健康保険組合の方に「ほら、最初は人事とかにいて会社全体のことを見たほうがいいのよ♪」とかのん気に言われてしまい、逆にみじめになったのも今となっては懐かしい。
 さて、映画に関連する部署に配属されないからといって、あまり落ち込んでばかりいてもしょうがない。せっかく時間に余裕があるのだからいろいろやってみようと思い始め、会社の先輩に誘われるままに「松竹シナリオ研究所」に通い始めることにした。当時の所長の伊藤さん(故人)に「社員だからただでいいよ」と言われたのも後押ししてくれた。映画会社の社員だからと言っても、所詮は素人、シナリオのことなんかさっぱりわからない。言われるがままに課題をやってきても、当然ほめてももらえない。いろいろな先生が講師でやってきて教えることがコロコロっと変わって、訳がわからない。あげくの果てに、松竹の人間だからと酔ってからまれる(映画会社に入りたかったわけでもなかろうに…)、と散々な目に逢い続けたが、課題をこなし提出するところまでできたのもそこで知り合った仲間がいたからだったに違いない。呑んでばっかりの本当にひどい仲間たちだったが、ほとんどが年上で、社会人としての、なんか道標みたいなものが彼らのおかげでできたような気がしていて、ありがたく思っている。シナリオ研究所を卒業後も、オフィスの隣に大谷図書館があったこともあって、暇な時間にはそこで脚本を読むぐうたら社会人生活を続けていた。そこで一気にたくさんの脚本を読んだことが今につながっているのではと勝手に思い込んでいる。

事務局だより

◎正会員入会

◎退会

◎除名

2011年度協会会員手帳について

「2011年度協会会員手帳」の編集が始まります。掲載事項変更希望の方は8月末日までに事務局へご連絡下さい。

国際ドラマフェスティバルの投票について

今年もアウォードのための投票をお願いすることになりました。協会報に同封されたハガキに投票し、締切りまでに是非ご返送下さい。

第55回「映画の日」永年勤続表彰についてのご案内

一般社団法人 映画産業団体連合会が毎年12月1日に開催する「映画の日」では永年勤続功労表彰行事が行われます。 表彰者の資格は日本映画界に40年以上勤務し(1970年12月1日以前より従事)現在もなお現役として活躍されている方です。 該当される方は協会へお知らせ願います。自薦、他薦を問いません。協会への締切は平成22年8月20日必着です。

インフォメーション

◎会議の記録と予定

6月14日(月) 会報委員会(事務局)

6月21日(月) 第1回定例理事会(東映本社)

7月20日(火) 第2回定例理事会(東映本社)

8月9日(月) 会報委員会(事務局)