社団法人 日本映画テレビプロデューサー協会 会報 2010年9月号

『国際ドラマフェスティバル』中間報告と私の心配

社団法人 日本映画テレビプロデューサー協会副会長
 国際ドラマフェスティバル in Tokyo 2010 実行委員会副委員長(兼EP)  重村 一

 皆さんはどのようにお感じになっているでしょうか。
 それが、私個人の思い過ごしであったり、独りよがりの危惧の念であればよいと思います。
 私は、この一年のテレビドラマは「目を引く」作品が例年に比べ少なく、全体的に作品の質や企画のレベルが落ち込んでいたのではと少々不満と不安を持っています。
 会員の皆さんも『東京ドラマアウォード』の一次審査にご参加、ご協力をいただきましたので、この一年のドラマを思い起こす機会をお持ちになったことと思いますから、様々なご感想がおありと思います。従って、「そんなことはない。充実していた」と別の見方をされている方も、当然多数いらっしゃるはずです。
 敢えて、冒頭にこのような話を持ち出すのは「東京ドラマアウォード」の審査は既に、二次、三次と終え最終審査を待つのみとなっていますが、ここまでの経過を少しお話しすれば、多くの審査員が支持する作品がほんの数本の作品に偏ってしまっているからです。
 ハリウッド映画でも3D作品は別として、過去のリメイクものが増えていく傾向にありますが、日本のテレビも視聴率的な安全性、安定を企画決定の条件にすると、過去のヒット作品に類似したものや、人気タレントの魅力をいかす内容のものとなるのは、この業界の常ではあります。しかし、そのような環境の中でも制作者が自らの作家性とクリエーターとしての意地を示すことが、ドラマの流れを徐々に変え、それがいつの間にか、小川のせせらぎから大河へと発展して新しいドラマスタイルを生み出していくものだと考えます。
 勿論、そのような先駆的役割を果たす作品は、年間にそんなに多くあるわけは無いことは十分承知しています。
 ただ、なぜ敢えて今年の全体的な傾向を、ここで取り上げたかと言うと、時代を変える革命児はそのような存在が輩出するような広い底辺があり、そこで熾烈な切磋琢磨が行われる土壌の中から生まれるものだと考えるからです。
 全体が澱んだぬるま湯状態に制作者が安住していたのでは、強い向上心とものづくりへの情熱を持つ人間が居ても孤立化し、折角の才能を潰すとともに、流れそのものを切らしてしまうのではと心配するからです。
 「国際ドラマフェスティバル」の報告で、なぜそのような話を持ち出したかと言うと、ご存知の通り、現在、日本の放送業界が大きな曲がり角にあり、現場には制作費削減、合理化促進のプレッシャーが重くのしかかり、その一方で、安全に商売になる作品、言い換えれば、視聴率的リスクの少ない作品、営業が売りやすい企画を求める圧力が、今までにも増して強まっているからです。
 そもそも、この「国際ドラマフェスティバル」は日本のテレビドラマが「質の高さ」、「エンターテイメント性」、「高度な技術力、演出力」を持つにも拘わらず、国内だけの競争という内向き志向に陥っていることを反省し、『世界に見せたいドラマがある』のキャッチフレーズのもとに、遅れ気味だった海外発信に力を入れていこう、という試みです。その為には、国内の視聴率だけを念頭に置くのではなく、作品として、・世界にも通用するドラマ・と言う視点での『市場性』『商業性』を意識した企画作りが必要です。また、そのための制作体制を業界全体も制作者も強く意識してこれからの作品作りを行うと同時に、制作者自身の意識変革も進め世界を相手に戦える人材を育てていくことが重要です。
 私たちはそれと平行して、東アジアやヨーロッパの市場開拓に積極的に取り組み、各国が実施している『コンテンツ見本市』にも意欲的に参加し、日本の作品を知ってもらうとともに、制作者間の交流を進め、海外との共同制作の素地も今まで以上に固め、海外のバイヤーとの友好関係を深める作業を進める等、さまざまな展開を行うことで、アジアを中心に各国に日本ドラマ専門の放送枠の確保を実現したいと考え行動してきました。
 この結果、いまだ、満足とはいえないまでも、中国、韓国との間にはテレビ祭どうしに信頼関係が生まれ、上海テレビ祭の『マグノリア賞』で例年、日本の最優秀作品が表彰されるようになり、昨年はTBSの『アラウンド40』今年はCXの『BOSS』が受賞しています。
 また、カンヌのMIPTVでは『Buyer・Award・For・Japan』が昨年から新設され、NTVの『アイシテル海容』が選ばれています。
 このように、まだ遅々としていますが、この面では少しずつ成果が生まれつつあります。
 そこで、話は冒頭の私の危惧の念に戻ります。海外に打って出るという、いや、出ることがこれからの日本のドラマに必須であると言う条件下で、あくまでそれを可能にするのは、我々ドラマ制作者が如何に国内の、業界内の環境が「ものづくり」をする人間にとって劣悪な方向に向かおうが、それを克服する、情熱と信念を失わず、常に上を求める志を忘れないことを心しなければならないはずです。
 「国際ドラマフェスティバル」この試みは、あくまで、日本のドラマがクオリティーの高さとひときわ優れた企画力、創造性を持つ事を誇ることが出来て初めて成功するのです。時代に流され、安易な作品が横行するようでは、明るい光が差し込む事は期待できないのだろうと思います。
 4回目の「国際ドラマフェスティバル」にあたり、会員の更なるご協力をお願いするとともに、幹事団としての自省の念も含め、思うがままを語らせてもらいました。

3D映像の課題と将来

3D映像の基本原理と3D用機器については前号(7月号)で紹介されていますので、今号では3D映像特有の課題や将来方式について取り上げます。

NHK放送技術研究所 テレビ方式研究部 奥井 誠人
図1 〈3D映像の不自然さ、箱庭効果〉

 これまでの2Dの映像と異なり、3D映像では左右の眼で異なる映像を見る仕組みになっています。このことを心に留めておかないと不快な映像を提供することになりかねません。NHK技研では、ハイビジョンに加え立体版である立体ハイビジョンの研究も20年以上前から始めており、自然さ・見づらさ・疲労などの観点からの研究成果がまとめられています(図1)。
 ここで自然さ・不自然さの要因となっている「奥行きの歪み」とは、撮影しているシーンの空間(つまり実際の空間)に対する再現空間の歪みをさしています。3Dカメラの配置や構成、3Dディスプレイの大きさや視距離などが影響し、通常は再生シーンの大きさや奥行きに歪みを伴います。必ずしもこれらがすべて不自然さにつながるわけではなく、また演出意図として奥行き感を強調することもあり得ます。しかし、場合により眼に負担を強いる場合が生じることは留意しておく必要があります。歪みがあると撮影時の被写体の奥行き位置に対し、予期せずに視聴時の両眼の視線が遠景で平行以上に開いたり、飛び出し映像で極端に寄り眼状態になったりすることが生じます。
 歪みの性質によっては時として奇妙な奥行き感覚が生じる場合があります。たとえば、・箱庭効果・と呼ばれる主観的なサイズや奥行きの歪みです。箱庭効果は、箱庭のように撮影対象が小さく感じられることを指します。さまざまな要因が関係しますが、その一因として再生空間の歪みにより前景と背景の主観的なサイズに差異が生じることがあげられます。主観的なサイズとは、2Dとしてのサイズが同じ場合でも視差による奥行き位置が遠方であれば実物は巨大と感じ(たとえば遠景にある大看板)、近くにあれば小さいと感じることを言います。
図2 図2は、実物の空間(撮影時の空間)とディスプレイで表現される空間の奥行きの関係を示します。3Dカメラの光軸の間隔や向きなどの条件によって、このように前景と近景の主観的なサイズの差異が強調されて箱庭効果が表れやすくなります。
 なお、奥行き歪みにはこのほか対象物が書割りのように奥行きの乏しい薄っぺらに感じる・書割り効果・があります。

〈見やすさと疲労〉

  「見やすさ・見づらさ」については視差の分布との関係が分かっています。評価実験の結果、見やすいと評価された映像では視差はおよそ60分(視差の量は角度で表わします)の範囲内におさまっています。また、装置の問題として左右映像の特性差と見づらさの程度も評価実験が行われています。最近は特性差に起因する見づらさは信号のデジタル化、ディスプレイをはじめとした装置の高性能化により、かなり改善してきているといってよいでしょう。
 これら特性差やカメラ設定については実写、とくにライブ映像の場合は管理の難しさが増します。これまで映画の3D作品にCGが多いのはこの理由も関係があると考えられます。
 最初の図で疲労要因としてあげられているのは・輻輳点とピント調節位置の不一致・です。輻輳というのは、対象物を注視して左右の眼の視線が交差すること(近くの物に対しては交差し、遠くのものには平行に近くなる)です。ピント調節は眼の水晶体が図3変化してピントを合わせる作用です。人の目はカメラのように被写体の奥行き位置に応じてピント位置が変化します。図3のように両者は、実物を直接見る場合は同一距離に作用しますが、3D表示では輻輳は視差により生じた奥行き位置、調節は(視差に関係なく)表示画面位置に合うように作用します。その結果、眼の働きとしては日常には無い状態となり、この状態が継続すると疲労となります。この問題は2眼式の本質的な疲労要因とされていますが、視聴時間や視差の範囲などを適切に設定すれば実用上の問題を小さくできると考えられます。

〈立体映像の将来は?〉

 現在の家庭用3Dディスプレイは、時分割シャッター方式メガネなどを用いたものが主流ですが、3D映像はこの先どのような発展してゆくのでしょうか。
 メガネなし方式は、これまでも製品化された例もありますが、正しく見える位置(視域といいます)が限定されるため見る姿勢や多人数での視聴にやや難があり、また方式によっては画質に影響が出ることなどの課題もあります。一方で、携帯型画面では個人がひとりで見る場合が多く、また機器側の画面を動かすことで適切な視域が得られるのでメガネなし型の利点が発揮できるかもしれません。
 さらに将来の方式としては、インテグラル・フォトグラフィとホログラフィなどが研究されています。これらは、左右の眼で見える映像を個別に再生するのではなく、実物がある場合と同じ光の状態を作り出すところがこれまでの方式と異なります。いずれももとは写真技術がベースのため、デジタル化・電子化したメディアとしての実用化はまだ時間がかかるものと思われます。3D映像技術が定着し、さらにこのような将来技術に発展して行けたら3Dによる映像表現の可能性はこれからも大きく広がっていくでしょう。

只今撮影中

テレビ朝日 制作2部 大江 達樹

テレビ朝日 制作2部 大江 達樹

『熱海の捜査官』

「熱海の捜査官」というドラマは、いろんな意味で異例のドラマだと思います。まず驚かされるのは、そのスケール感。第1話のクライマックスで、失踪していたバスが海から引き上げられるシーンは圧巻の一言です。まず本物のバスを購入し、それを数年間、海に沈んでいたように加工。そのバスを実際に海に沈め、巨大クレーンで引き上げ、それをハイライダーや船から3カメで撮影という映画にも引けを撮らないスケール。深夜ドラマの撮影シーンとは到底思えない光景です。ロケ場所もタイトル通り、熱海や三崎、小田原、銚子という遠隔地ばかり。しかも、オールロケなので片道2時間半を往復する日々です。
 キャストの充実ぶりも深夜枠としては異例です。主演のオダギリジョーさんをはじめ、三木組には欠かせない岩松了さんとふせえりさん、松尾スズキさん、松重豊さん、
 そして、個性派俳優の団時朗さん、田中哲司さん、さらに三木組は初めてという相棒役の栗山千明さんや萩原聖人さんなど、名前を並べるだけでワクワクするような濃いキャラクターたちのオンパレードです。芝居好きには堪らない豪華キャスト陣の揃った・ウラ大河・とも呼べるドラマだと言えます。 そして、このドラマの最も異例な部分と言えば、連続ドラマ全話の監督・脚本を全て一人の監督がやってしまう事ではないでしょうか。その監督が「時効警察」でお馴染みの三木聡監督。三木監督の持ち味と言えば、「時効警察」に代表されるように小ネタ満載のシュールな脱力系コメディです。そんなユル~い空気感の三木ワールドですが、その現場は決してユルくはありません。元来、監督というのは「拘る」生き物ですが、三木監督はその究極形です。衣装合わせが3回も4回も行われることは日常茶飯事、ロケハンも写真でOKを出す事は絶対にないし、同じ場所に何度でも足を運びます。これは三木監督も大変ですが、その要求に応えるスタッフも大変です。 『熱海の捜査官』
 さらに芝居に関しても、まず全てのシーンの本読みを行い、次はロケ場所に行って、役者に衣装を着てもらって、全てのシーンのリハーサルを行います。そして、やっとカメラを回す撮影に辿り着くのですが、ここでも微妙な言い回しや間が細かく修正されていきます。語尾が「ね」から「よ」に変わっただけでも訂正されます。三木組初体験の萩原聖人さんはこう分析していました。「三木ワールドの中を流れている空気や笑いは全て細かく計算し尽くされているから、語尾を変えてしまっただけでも、話の微妙なニュアンスや次の台詞への渡し方が変わってしまうのでしょうね」
 7月22日木曜日、「熱海の捜査官」の撮影が当初の予定より3週間ほど遅れて、ついにクランクアップを迎えた。場所はもちろん、熱海。スタッフの顔がいつもに増して明るく輝いている。途中から参加した制作部の一人が感慨深げに呟いた。「前の現場も大変だと思っていたけど、三木組に来たら、前の現場は楽だった事に気付きましたよ」連続ドラマの全話を監督・脚本という偉業を成し遂げた三木監督はじめ、過酷なロケに耐え抜いたキャスト・スタッフには敬意と感謝を込めて、最大級の拍手を送りたい。しかし、ほっと息をつけるのも束の間、三木監督にはこれから一ヶ月半、編集という再び過酷な日々を過ごして頂かないといけません。そんな三木監督を前にしてはとても言えませんが、私はもう一ヶ月半、三木ワールドを楽しむ猶予がある事に秘かに小躍りしております。

私の新人時代

日活 新津 岳人

日活 新津 岳人

「カリフォルニアの青い空」

 日活に入社し、蒲田日活での劇場研修を終えロマンポルノ全盛の日活撮影所に入ったのは六月末だった。撮影所長から制作進行として曽根中生監督のお盆映画に就くよう指示される。何をどうすればいいかわからずスタジオへ向かう。製作担当の服部さんが私の背広にネクタイ姿を見て、明日から動きやすい服装で来るように言う。翌日からの撮影の日々でその意味がよくわかる。二年後、カリフォルニアを舞台にテレビの二時間スペシャルを二話撮りする作品の現場プロデューサーとしてアメリカに向かう。予算的制約もあり製作車のカーゴバンの運転手も兼ねる。サンフランシスコ湾にあるアルカトラズ島の連邦刑務所跡地でドラマが展開する。昼間は見学者が全米からやって来てその都度撮影は中断。スケジュールが無くなる中、最後には二晩徹夜してやっと一話目を撮り終える。午前中撤収し、昼ホテルで仮眠しその夜、内陸に百キロ入ったストックトンへ次の撮影に向かう。夜の高速で製作車の後輪がバースト。ハイウエイパトロールがやって来て命が助かったのだからすぐに車を動かせと言う。タイヤを交換し撮影隊の後を追う。
 主人公の運転する車がビルの前に急停車するシーン。何回かのテストの後、本番。車が勢いよく走り出す。とそのまま車は停まらず前の車に激突。一瞬の静寂。幸い男優は額に傷を負ったが体は大丈夫そう。救急車で病院へ。道路で車止めをしていた警官が事故の取調べを始める。今日と明日は撮影中止だ。だが帰りの航空券の日時は決まっている。スケジュールははまるのか? 持ってきたドルでロケ費は足りるのか? そういえば大破した劇用車のプレリュードは無理を言ってホンダ販売店の支配人から借りていた。トム・ハンクス似の気のいい彼が言った事を思い出す。この車は特注で銀色のメタリック塗装を施している。これと同じ車はこの近辺じゃあまず無いぞと。いったい似ている車が数日で見つかるのか? 不安な考えが走馬灯のように頭に浮かぶ。フッと上を見るとカリフォルニアの空は青くどこまでも青く存在している。

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