ALL NIPPON PRODUCERS ASSOCIATON
全国に広がる フィルム・コミッション 全国フィルム・コミッション連絡協議会副会長
(ソニーPCL  CS推進部長 ・ 国際交流委員会委員)

〜ロケーション撮影環境を世界標準へ〜 前澤哲爾
 いわゆる「先進国」の中で、日本は最も撮影が困難な国である。今でこそ増えたが、少し前まで海外からの撮影隊がほとんど来なかったことでも分かる。海外に比べ、公的なバックアップはなく、受け入れ窓口も分かりにくい。様々な規制があるため自由な撮影が制限されている。そんな状況を改善する一つの方策として、フィルム・コミッション(以下、FCという)を日本に設立したいと思い立ったのが、1999年の8月だった。半年の準備を経て、2000年2月にFC設立研究会をスタートさせ、「提言」のための報告書を作成、9月に「全国シンポジウム」を開催した。そして昨年8月、全国FC連絡協議会が発足した。
 このわずか2年で、全国各地にFCが設立されるようになった。2000年2月大阪市を皮切りに、神戸市、横浜市、北九州市、高岡市、北海道、香川県、東京都、金沢市、上田市と次々に発足、3月1日現在20組織となった。今年中には40を越える勢いだ。詳しくは全国FC連絡協議会のホームページ(www.film.com.org)をご覧いただきたい。
 FCはアメリカでは70年代から全米にひろがり、80年代にはカナダ、 オーストラリア、90年代にはヨーロッパ、そして98年香港、99年プサンと続き、今アジアが設立ラッシュである。現在、国際機関(AFCI)に加盟しているFCだけで、30カ国300組織もある。
 FCは自治体などが中心となり、映画やテレビ番組、CMやスチール写真などのロケーション撮影に対して、非営利で便宜を図る組織をいう。海外ロケを経験した方ならなじみ深いはずだ。撮影に関する全ての情報提供、ロケハン、公共施設撮影、警察を含めた様々な許可、エキストラ手配など、一括して手助けしてくれる。
 自治体側は、こうした映像制作を積極的に誘致することによって、ロケ費などを含めた様々な経済効果と映像での広報的効果を期待する。たまたま出会った作品に魅了されてしまうと、人々はその舞台となった場所に一度は訪れたくなる。 海外では古くは「ローマの休日」、「旅情」(香港)、近年では「マジソン郡の橋」 「フィールド・オブ・ドリームス」(いずれもアイオア州)など映画に登場した場所が観光名所となる。日本では尾道3部作や「北の国から」(富良野)がかつてブームを起こし、最近では「ラブレター」の撮影地・小樽に韓国女性が押し寄せていると聞く。
 ニューヨーク市FCは、2001年ロケ費だけで20億ドルが同市で支出されたとし、全体の経済効果は40億ドル以上という。だからといって、日本でもそんな大きな経済効果がすぐに見込めるわけではないが、FC設立によって徐々に拡大していくことは確実である。  実はそれより重要なのは、製作者にとって撮影可能な範囲が拡大するところにある。「マーシャル・ロー」や「バニラ・スカイ」などの撮影は、N.Y.FCの協力なしにはあり得なかった。ほとんど全てのアメリカ映画は、FCの協力を前提に製作されている。エンドロールの最後、MPAA(アメリカ映画協会)の楕円のマークの直前に大抵どこかのFCがクレジットされている。時間のある人は、今度目を凝らして見てみよう。
 神戸フィルムオフィス(FO)は、「キネ旬」ベストワンに輝いた映画「GO」 のファーストシーンの地下鉄撮影を実現させた。この映画は東京を舞台としているが、東京では地下鉄線路内での撮影許可がおりなかった。神戸FOは、発足時から撮影に関係しそうな施設を有する部署を一つずつ廻り、撮影協力を求めてきた。その事前の努力が今回開花したわけである。その後、別作品で2回ほど地下鉄撮影をしている。
 プロデューサーにとって、FCは大きな味方である。今まで撮影が出来なかった公的施設などが利用できるようになるばかりでなく、市民レベルでの協力態勢が組まれ、撮影環境が整備されることで、作品の質の向上にも大いに役立つ。本年は、警察当局との協力関係を深め、道路上撮影の規制緩和を進めていきたいと計画している。数年の間に海外と同レベルの撮影条件にし、せめて「ミッション・ インポッシブル4」ぐらいは日本で撮影できるようにしたい。プロデューサー協会および会員の方々のご協力を得つつ、早く海外レベルのFCへと機能を充実させていきたいと考えている。
メディア規制法back会報トップページnextプロデューサーへの手紙