ALL NIPPON PRODUCERS ASSOCIATON
新春特集 映 画
テレビ
デジタルハイビジョンに向かう
それぞれの2003年

テレビ
デジタル放送で、姿勢を「基!」 月刊ニューメディア編集長
吉井 勇
 2003年    テレビ放送50周年という祝年を迎えた。 筆者は齢52歳であるので、 これまでの生活を語るにはテレビ抜きにできないだろう。 思い起こせば、 その出会いから印象深かった。 小学1、 2年だったと思うが、 隣家にテレビがやってきた。 さっそく 「お呼ばれ」。 近所の十人ほどが、 暗くした八畳間で正座して見た記憶が残る。 それから間もなく、 わが家にもテレビが鎮座した。 もう一つの思い出は、 小学5年の同級に金髪の友がいたが、 テレビに出るというのでクラス全員が畳敷きの部屋で、 これまた正座して見たことである。
 このように筆者のテレビ体験は正座で始まった。 それが何時からか、 腕枕ゴロ寝という体勢になってしまった。 正座からゴロ寝に崩れるにつれ、 テレビは 「娯楽の王者」 度を高めてきたのではないか。
 2003年末    三大広域圏でデジタル放送への移行が始まる。 この地上デジタル放送では、 ハイビジョンの高画質で 「身を乗り出すほど」 の美しさと、 CD並み音質で時にはサラウンドが包み込むという。 腕枕どころではなくなる。 デジタルのパワーはそれだけではなく、 双方向という機能もあって、 リモコンを操作するだけで番組にも瞬時に参加できるようになるという。 ますますゴロ寝しているわけにはいかない。
 テレビ50年の間で、 体が 「後ろ30度」 に傾くリラックス視聴になっていた。 だから、 思わず正座するような硬派な番組は歓迎されず、 「ワッハッハッ」 と腕枕で笑えるお気軽な番組が好まれるのだろう。
 でも、 である。 半世紀を経たテレビが迎えるデジタル化は、 この 「視聴の体勢」 を変える特性と機能があるようで、 このあたりを大いに注目したい。 デジタル放送を期に、 「基!」 とばかりにじっくりと見る視聴スタイルが復活してもおかしくないだろう。 ただし、 これは、 技術、 機能の話であって、 それが定着するかどうかは、 まさにプロデューサーの腕次第だと思う。 放送波がデジタルになろうが、 魅了するのは人の知恵が凝縮する番組の中味、 質であることは揺るぎない。 筆者がデジタル放送に期待することは、 こうした 「前向きさの復権」 にある。 ただ、 独りよがりで前につんのめるのでは困りものだが。
 2003年テレビ50年    テレビがまだ持つ若々しい将来性を、 正座して思いを馳せるこの頃である。

地上デジタルテレビ 放送開始の年 全国地上デジタル放送推進協議会 会長
株式会社テレビ新潟放送網 代表取締役社長
北川 信
 今年2003年12月、 地上デジタルテレビ放送が始まります。 今から6年前、 1997年、 当時の郵政省が国の方針として地上テレビの早期デジタル化を打ち出したとき、 正直言って私たち放送事業者は時期尚早と考えていました。 というのは、 今のアナログ放送は十分に充実したサービスを提供しており、 視聴者の支持も大きなものだったからです。 現在のアナログ放送が全国で一日平均三時間四十分も見られている事実は大方の視聴者も今のままでいい、 無理に変えなくてもいいと思っていることを示しています。
 しかし、 デジタル化は一つの企業や産業が自分の意思だけで決まるものではなく、 世界的な競争市場を背景に、 日本全体の情報通信産業の中で進行しているのです。 デジタル化の目的はいろいろありますがその一つにインターネットのコンテンツと放送のコンテンツの親和性を増やす事によってコンテンツ産業の市場を拡大し活性化させるということがあります。 このためには地上波のデジタル化は不可欠であり、 放送そのものの魅力を増やすと同時に、 放送、 通信産業間の相互刺激は欠かすことが出来ません。
 ホームシアタ向きの 「高精細番組 (ハイビジョン)」 やローカル局の特徴を発揮する 「多チャンネル放送」、 インターネットと同様の 「データ放送」、 さらには何時でもどこでもテレビが見られる携帯テレビ用の 「簡易動画サービス」 など地上デジタル放送ならではの新機能が、 今着々と開発されています。 このように様々に夢はふくらむのですが、 デジタル化に際して何よりも大切なことは 「地上放送の特質=報道と総合編成を中軸とする、 基幹メディア機能」 を今まで通り引継ぎ発展させること、 また、 デジタル化によって一気に増大する情報量が確実に視聴者へのサービス増大に結びつくことだと私は考えています。 多チャンネル化による番組の特異化、 パーソナル化、 多様化、 地方局編成の自主性拡大などが多世代間のコミュニケーションのあり方や放送文化を変えていくことも期待されます。 デジタル時代が創造の時代となることを心から願っています。

映 画
デジタル放送で、姿勢を「基!」 シネマトグラファー
阪本 善尚
 自分の想いをフィルムに書き綴って40年、 フィルム映像の魅力の虜になった私が何故デジタル・シネマという領域に踏み込んでしまったかと考えることがあります。 フィルム製作の映像特殊処理がオプティカルからデジタルに主役を譲ったのは数年前からです。 今やその技術無しでは私達は夢を表現できなくなっています。
 私達が愛する映画も商品です。 人の心をなごませ楽しませる映画だからといってその企業努力を免除されるわけではないと感じ、 よりデジタル映像の未来を現実的に感じるようになりました。 映画の映像は印刷と同じ減色法 (YMC) の色表現です。 デジタルカメラの映像はテレビに代表されるRGB三原色の加色法で、 当初はフィルムが100年の歳月に積み上げた表現を継承できない不安を感じました。 加色法では明度の高い色域が豊かで、 鮮やかできれいな表現は出来ます。 しかし明度が低い色域の色表現が不得手で、 私たちがよく言う 「汚し」 の質感表現が困難で 「わび、 さび」 の世界が表現不可能なのです。 この映像テーストでシネマトグラファーはドラマを語ってきました。 これが出来ないデジタルカメラ撮影への恐怖から、 デジタルカメラの完成度が確定する前にデジタル映像の処理工程にフィルム表現が継承できる選択肢を作ろうと考え、 PanasonicのHDカメラ開発に加わりフィルム映像が継承できる可能性を持ったVariCamというカメラの完成に至ったのです。 カメラ本体、 ランニングコストはフィルムより破格に安いのですが、 現時点では上映がフィルムである為フィルム変換コストがかかりデジタル製作のメリットを感じられていない。 しかしポスプロ環境にノンリニアー編集機が出回り、 映画館に低コストで高性能なデジタル・プロジェクターが設置されれば配給プリントコストの削減だけでない、 もっと夢が広がるアミューズメント空間を観客に提供できると思います。 既に多くのメーカーがその研究を進めています。
 デジタル映画制作がもたらす最も大きな効用は、 経済リスクを最小限に若い有能な作家発掘が出来るツールであるということです。 デジタルカメラで撮影し、 興行をデジタル・プロジェクターでやれば信じられないくらいのコストで作家を売り出せます。 デジタル機器は小規模安価な施設でも使用する職人のセンスと業で時間をかければ大規模な高価なスタジオでなくとも同じ表現が可能なのです。 フレッシュな才能が芽を出しやすく、 音楽や、 文学、 絵画のように自身の経済範囲で作品発表が出来る映画環境がデジタル技術は可能にしてくれるのです。
 このような技術が完成されるとき、 映画制作の構造改革をプロデューサーにはお願いしたい。 旧態依然としたスタジオシステムのスタッフ構成と製作構造ではデジタル・テクノロジーのコスト・パフォーマンスを生かすことが出来ません。 デジタルシネマ・セミナーでアジア諸国を昨年は多く回り強く感じたことは、 製作構造改革は日本が一国だけ取り残されています。

HD24Pシステムで映画を
作ってみて感じたこと
TBS CG部 映画監督
曽利 文彦
  「ピンポン」 という映画を監督しましたが、 もともとはデジタル畑の人間で、 勤めているTBSでもCG部に所属し、 主にテレビドラマや映画のCGディレクターを担当しています。 数年前 「スター・ウォーズ」 で知られるジョージ・ルーカスがHD24pというHDキャメラの開発をはじめたという話を聞いた時も、 すぐに興味を抱きました。 そこで、 TBSの研究開発の一環としてHD24pと従来映画撮影で使っている35ミリのフィルム用キャメラを使って、 全く同じショートムービーをそれぞれ撮影し、 HD24pで劇場映画制作が可能なのかどうか研究を重ねました。
 その結果、 非常に高い可能性を感じました。 そして次のステップとしてはもう研究段階ではなく実践的劇場作品を制作することになりました。 それが 「ピンポン」 だったのです。
 実際にHD24pを使ってみてまず感じたことは、 まだ35ミリのフィルム用キャメラのような奥行きのある味わい深い映像を撮ることはできないということでした。 しかし、 現場での起動力は素晴らしく、 「ピンポン」 のような躍動感のある作品を撮るには向いていると思いました。 それはある意味、 テレビ的な撮り方に近い感じで使うと良いということかもしれません。 撮った映像に関しては、 従来のフィルムで撮影された映画とも、 ビデオで撮影しているテレビドラマとも違う、 新しい映像の空気感のようなものがあったように思います。 また私のようなCG畑の人間からすると、 ポスプロ段階でCG処理を施すために行うコンピューターへの画像の入出力の簡便さにとても魅力を感じました。
 ただし、 コスト的な問題はまだ大きいと思います。 「ピンポン」 は、 ある程度テレビ局が持っている機材とスタッフを使って作りましたから、 非常に低予算で製作できました。 しかし実際のHD24pによる映画制作が従来のフィルムによる撮影よりコスト的に有利とはまだ言い難いと思います。 それはHD24pに付随する機材費やポスプロ費がフィルムによる制作と同等か、 場合によっては高くつく場合があるからです。 また、 技術的にも明確ではない点も多いため、 予期せぬ出費を強いられるケースもあります。 HD撮影素材を直接上映できるDLPシステムが劇場サイドに普及すればコスト面では相当魅力的ですが、 まだまだ時間はかかりそうです。 そういう現状を考えるとまだまだ実際にデジタルシネマによる映画制作には厳しい現実が伴います。 しかし、 将来性や可能性の高いシステムであることは疑う余地もなく、 テレビ局などを中心に今後も発展を続けていくでしょう。
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