放送開始!「地上波デジタル」 |
NHK番組開発チーフプロデユーサー
喜安政幸 |
地上デジタルという新しい時代のテレビの誕生に寄せるメッセージを、 私たちは一編の詩に託した。
人類は小さな球の上で/眠り起きそして働き/ときどき火星に仲間を欲しがったりする/火星人は小さな球の上で/何をしているか僕は知らない/しかしときどき地球に仲間を/欲しがったりする/それはまったくたしかなことだ/万有引力とは/ひきあう孤独の力である (谷川俊太郎 「二十億年の孤独」より) デジタル時代を迎え、 テレビはネットワークを通じて世界中の人々とつながった。 私たちからのメッセージを乗せた詩の朗読が、 地球の上をリレーしていく。 北京・天壇、 ニューヨーク・自由の女神、 広島・原爆ドーム、 奈良・法隆寺、 岐阜・白川郷、 沖縄・首里城。 全6カ国、 8カ所の世界遺産を中継で結んだ 「地上デジタル放送開始記念番組」 オープニングの瞬間だった。
番組では、 世界遺産の貴重な映像を記録、 保存、 活用していく上で、 デジタル技術が果たす役割の大きさを紹介すると同時に、 デジタル放送の双方向機能を生かした 「デジタル投票」 も行い、 世界遺産の人気ランキングを発表した。
リモコンによる投票はBSデジタルハイビジョンでは既にお馴染みのものだが、 地上デジタル初の双方向には、 今まで以上の大きな反応があった。 「行ってみたい世界遺産・見てみたい無形遺産」 (12月1日) では、 BSハイビジョンを含むデジタル放送の視聴者から2万を越える票を集め、 続く記念番組 「番組対抗クイズあなたもデジタル応援団」 (12月6日) では3万7千票、 アナログ視聴者を加えると11万6千票もの投票があった。 まさにテレビが家庭とつながったことを実感する1週間だった。
残念ながら、 紙面の都合でデジタル教育テレビの話ができなかったが、 こちらでも暮らしに役に立つ料理や家事、 健康、 介護に関するQ&Aの他、 親子で楽しめるクイズやゲームが楽しめるようになっている。 ぜひ、 一度ご覧いただきたい。
8年後の2011年……
テレビはこの小さな球の上で/何をしているか僕は知らない/或はネリリしキルルしハララしているか…
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テレビ朝日編成制作局編成部デジタル編成担当部長
古川柳子 |
日頃、 罰当たりな私が、 年に2度ほど神様の存在を信じたくなる瞬間があります。 一つは、 桜の群雲が、 白とも薄紅ともつかぬ淡い色彩で春の陽射しを染める頃。 そして、 冷たく締った空気の中で、 紅葉のえもいえぬグラデーションが、 色づく木々に冴える頃。 よくぞここまで美しい造詣や色彩を作り出したものと、 神様を誉めたくなってしまうのです。 でも、 ネット時代になっても、 季節となれば検索キーワードランキングで 「桜」 や 「紅葉」 が上位に入ってくるこの国の感性は、 テレビのデジタル化という出来事の中にも流れ込んできているようです。
情報のデジタル化は、 もはや不可逆的な世界の流れであることは確かです。 でも、 デジタル技術を 「映像の美しさ」 のために活用しようと、 開発の努力をしつづけてきたのは、 実は日本人の発想だとか。 アメリカなどではそれを揶揄するむきもあるようですが、 ハイビジョンで制作された映像の美しさには 「美とは力なり」 という摂理を、 理屈ぬきで納得させる迫力があると実感します。
しかし、 デジタル技術=ハイビジョンだけではありません。 圧縮技術によるコンテンツの多様性、 通信との連動による双方向性、 などさまざまな可能性も持っています。 すでにインターネットなどのツールを使って、 テレビの周辺空間でドラマコミュニティが大きく育つという現象も起こってきているようですが、 データ放送などをはさんでテレビ放送と通信が繋がる時代、 ドラマを創る人と観る人の関係性の変化から、 新たな展開が発生していくという意味での双方向性が実現すれば、 そこに新たなプロセスの可能性が秘められているようにも思います。
1885年に、 人類がはじめて動く映像を自らのものにして以来、 映像文化は常にテクノロジーにささえられ、 その進歩に新たな表現を誘発されながら今日まで発展してきました。 その地層にまた新たな一頁として加えられた地上デジタル放送はSB、 CSとは違って、 現在のテレビのバージョンアップ。 8年後のアナログ放送停止までのサイマル期間は制作者にとっても煩雑で大変ですが、 新たなツールの可能性を形にしていくのは、 今も昔も、 時代を映す表現に挑戦していく感性でしょう。 21世紀のテレビを舞台に、 新たな感動を紡ぎだす 「職人」 が育っていくことを、 期待したいと思います。
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「40イコール1」 |
テレビ東京編成部デジタル放送課長
磯見敦彦 |
皆様あけましておめでとうございます。 昨年12月1日から東京・大阪・名古屋地区で 「地上波デジタル」 が始まりました。 いよいよ地上波テレビもデジタル時代がやって来ました。 希少な電波を有効利用し、 視聴者にデジタルならではの利便性を提供して行く地上波デジタル放送。 まずハイビジョンで高画質、 音もCD並みで5・1chサラウンドも。 データ放送でいつでも簡単に情報が取り出せ、 EPG (電子番組ガイド) で番組内容も事前にわかり、 さらにはマルチアングル、 携帯電話での視聴まで。
まるで別の媒体が発明されたかのように画期的なサービスの始まりです。
この地上デジタル放送1年目は奇しくもテレビ東京の開局40周年です。 常に独自の視点でチャレンジし続けた39年間。 「開運!なんでも鑑定団」 「元祖!でぶや」 「大丈夫!?わが家の財産」 といった家族そろって楽しめる健全なバラエティから 「いい旅夢気分」 に象徴される癒しの時代の旅・グルメ番組。 さらには大人のための 「女と愛とミステリー」 から 「ワールドビジネスサテライト」 まで。 ひと味変わったユニークな番組たちはデジタルという新たな環境でさらに飛躍していきます。
コンテンツの重要性がますます問われる時代。 技術的にさまざまな利点があったとしてもこれらを活用しておもしろいコンテンツを作ることができなくては 「宝の持ち腐れ」 でしょう。 臨場感あふれる音と人の視線にあった16:9の画格。 見る人をハッとさせるほどの高画質映像。 さらには番組を補完して視聴者が自ら楽しめるデータ放送など制作者にとっては自らの作品の付加価値を高めるチャンスと言えます。 これらのルーツを積極的に活用し、 制作者自らがその過程を楽しめれば、 その楽しさは自然に視聴者に伝わると信じています。
40年の節目に生まれた地上デジタル放送。 遅く生まれた子供ほど可愛いと言われます (?)。 テレビの新しい時代の中で皆様とともにスクスクと育ってくれる事を願ってやみません。 |