私の新人時代 |
テレビ東京 佐々木 彰 |

駆け出しの演出助手の頃は、 今思い出すと、 頬が熱くなる程、 恥ずかしい失敗を度々した。
本番収録中、 私はカメラ前を堂々と横切り、 ディレクターから 「集中力を持て」 と叱られた…。
生本番中、 スタジオサブでインサート8ミリ映画の再生ボタンを押すべき所を、 巻き戻しボタンを押してしまった。 一瞬、 スタジオ内は奇妙な沈黙が走り、 暫くして冷たい視線が私に向いた…。
いい加減な偽の地方ロケ清算伝票を指摘された。 ロケ先で使用したタクシー清算なのだが、 あり得ない東京の料金表による料金で清算してしまった。 車両課の担当者に呼び出され、 この伝票は取って置くと引出しの奥に仕舞われた時には絶望が走ったものである…。 ある高齢の文化人ゲスト夫妻を朝一番のJAL便で国東半島のロケ現場まで連れて行くという簡単な任務があった。 前日、 飲み過ぎた私は、 不覚にも寝過ごし、 新宿の自宅で眼が覚めた時は既に予定便出発時刻の四○分前だった。 航空券はゲストに渡してあるが、 接続の特急列車のチケットは私が持っている。 その特急に乗らなければ今日の収録は中止だ。 ゲスト夫妻はロケ先の地名すら知らない。 予定便は夫妻を乗せたまま離陸し、 私は羽田カウンターの前で茫然自失のまま立ち続けていた…。 結局、 ANA便の三十分遅れで大分空港に到着し、 夫妻を空港で拉致するかのごとく捕らえ、 タクシーに押し込み、 暴走タクシーよろしく飛ばしに飛ばして特急にギリギリ一分前で間に合ったのである…。
こんな出来の悪いADの私が今日まで制作の現場で仕事をさせて貰えるのは、 一重に周りの皆様の優しさしかない。 カメラ前をよぎった私に 「集中力を」 と叱ったそのディレクターが、 笑い話にしろその後二度と私の失敗話を繰り返すことはなかった。 巻き戻しの映像に一瞬沈黙した多くの関係者、 とりわけ演出部の後輩たちも、 その後この失敗を酒の席でも話をする人は一人もいない。 引出しに入れた車両課の担当者から、 その後呼び出しはなかった。 空港や駅を走らせたゲスト夫妻はもっと遅刻した笑い話を聞かせてくれた…。 改めて感謝である。 今でも、 現場では集中力を、 清算と時間は正確に、 と心がける次第である。 |
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