女優がゆく 京都の撮影所 |
A松竹京都撮影所 |
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小林綾子 |

私が初めて松竹京都撮影所を訪れたのは、 今から12年前 「雲霧仁左衛門」 に出演させて頂いた時のことでした。 その時、 あまり大きな撮影所ではないなと思いましたが、 そのぶん、 アットホームな雰囲気が印象的で、 そのあたたかさにとても救われました。 そして今も、 人をとても大切にして下さる撮影所だなと感じています。
しかし一旦仕事に入りますと、 そこは迫力のある大きなかけ声の飛び交う熱い現場と化します。 「10キロ持って来い!こっちは5キロだ!そっちもっとのせい!」 などの指示がとんでくるのです。 ピンと張り詰めた空気が漂い、 スタッフの熱気に負けないよう、 こちらも期待に応えられるようにと身も心も引き締まります。
京都はちょっと足を伸ばしただけで、 時代劇にうってつけの恵まれた環境が整っていると思いますが、 「剣客商売」 の撮影では、 1シーン或いは1カットのために片道2時間かけて琵琶湖の先、 西湖まで足を伸ばし撮影することもあります。 西湖の撮影といえば、 舟を漕ぐシーンを撮りに出かけましたところ、 しばらくそこへ撮影に行っていなかったために、 水面は水ではなく一面水草に覆われてしまっていた事がありました。 水草を掻き分け寄せて、 その間を縫っての撮影となってしまいましたが、 この時もスタッフの方々は感心する程キビキビと本当によく動かれ、 努力を惜しまない姿勢を強く感じました。
撮影所のセットは昔ながらの土の上に組まれていて、 私はここに立ちますと、 ああ、 京都の撮影所にやって来たんだなあと、 しみじみ思います。 冬になりますと、 炭火が入れられた小さな石油缶のガンガンが登場します。 パチパチと赤く燃えるガンガンを囲んで、 スタッフもキャストも暖をとりながら話に花が咲くのです。 和やかな時がここにあります。
時代はどんどんスピードを上げ進んでいますが、 昔からのいいものを沢山持ち合わせたあたたかい撮影所、 それが松竹京都撮影所なのではないかと思います。 |
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