日本映画テレビプロデューサー協会報

No.406  2012年4月号

2012年 エランドール賞受賞者の言葉

プロデューサー賞

日活プロデューサー  有重 陽一

 この度は、栄誉ある賞を戴き、光栄に思うとともに身の引き締まる思いです。
 『八日目の』は、成島監督が映画化を切望し、スタートした企画です。しかし万事、順調に進んだわけではなく、季節外れの長雨によるスケジュール変更など、幾多の困難がありました。そんな中、監督の思いを実現し、事業的に成功させることができたのは、石田プロデューサーをはじめ、松竹、ジャンゴフィルムのプロデューサー陣のチームワークによるものです。この賞は監督とプロデュースチームにいただいたものなので、みんなで祝杯をあげたいと思います
 八日目まで生きたは七日で死んでしまったが見られなかった世界を見ることができますが、私も過酷な現場を乗り切り、エランドール賞という新しい世界を見せていただくことができました。主演の井上真央さん、永作博美さんをはじめ、『八日目の』のすべてのキャスト、スタッフの皆様に深く感謝いたします。ありがとうございました。
 成島監督の口癖でもある〝映画の神様〟に見守られた作品だったのではないかと思っております。

プロデューサー奨励賞

КИHO事務所 プロデューサー  椎井 友紀子

 〝何やってんだよ 椎井! ナグラが無えじゃねーか〟〝やばい…。〟昨夜一旦、製作部で預かった録音部のナグラ。朝一製作車に乗せ忘れ、現場は半日撮影中止となった。これが、私にとっての映画の最初の現場で仕出かした失敗ー。そして30数年が過ぎた。
 そんなこんなの映画業界で、自分がプロデューサーになる夢を見た事など正直一度も無かった。そんな私が、日本人にとっては忘れられない東日本大震災が起こった2011年の、エランドール賞プロデューサー奨励賞を頂けるなど夢の様な話である。
 さて、そんな感謝も述べつつ、どうしてもこの業界のあらゆる皆様に訴えたい事がある。現場のデジタル化は凄まじい勢いで進む。REDやALEXAといったデジタルキャメラによって、フィルム撮影ではなく、すべてが右に習えでデジタル化が進む。機材も人もー。
 私は反近代主義者ではないので、進化する技術や機材は楽しみでもあるし、それらを使いこなせる若者を頼もしいと感じる事も多々ある。
 しかし、劇場で上映された映画が単なる商品として取り扱われるのは困る。10年、20年、いや100年先に、作品としてスクリーンに蘇ってもらいたい!
 どうか、これからも作品をネガフィルムで残す努力を、そしてこのエランドール賞を多くのプロデューサーに与え続けることで、勇気もまた与え続けられるよう、心からお願いしたい。
 そして最後に、今回35㎜で撮影し、フィルム編集で完成した最後の作品となるかもしれない『大鹿村騒動記』の企画にあたり、中高年が主役という立ち上げづらい内容にも関わらず、この映画を誕生させて下さった、セディックインターナショナルの中沢さん、パパドゥの山田さん、そして日本映画専門チャンネルの宮川さん、本当にありがとうございました。

プロデューサー賞

日本テレビ ドラマセンター チーフクリエーター   大平 太

 今回の受賞は、僕にとって、二重の喜びと名誉を感じています。ひとつは、同じプロデューサーの皆様に選んでいただけたこと。もうひとつは、「家政婦のミタ」という作品で受賞できたことです。
 最終回、40%という驚異的な視聴率が出て以降、数字ばかりが語られることが多くなりましたが、脚本家・遊川和彦氏が描きだした「ミタ」という人物、展開の全く読めない物語の運びは、あらゆる意味で、僕たちテレビ人を覚醒させる「事件」だったと思います。
 一緒に作っていても、ハラハラドキドキさせられ、テレビ作りの原点を思い出し、「テレビドラマ斜陽」と言われていた常識を打ち破り「テレビの無限の可能性」を再認識させてくれました。
 遊川さんとは十年以上ご一緒していますが、「ドラマ作りの姿勢」は一貫して変わりません。とにかく「人間を描くこと」ー。
 徹底的に登場人物のキャラクターを掘り下げ、リアルな人間描写のためには時間を惜しまず議論します。それは、オリジナルドラマを作る醍醐味でもあります。常に視聴者の目線を意識し、謙虚で勤勉であることも忘れません。
 そして、「今」しか描けないことをドラマを通して叫び続けていくのです。
 何年もブレずに、ドラマと向き合った彼の姿勢は、何があっても揺るがない「ミタ」そのもの。それが、ストレートに視聴者の胸に届いたのではないでしょうか。
 最後に、「ミタ」を完璧に演じ切った松嶋菜々子さんをはじめ、最高のパフォーマンスをしてくださったキャストの皆さん、僕たちに色々な発想の芽をくれた愛すべきスタッフに心から「ありがとう」を言いたいです。

プロデューサー奨励賞

NHKドラマ番組部 チーフプロデューサー   小松  昌代

 平成21年10月、ひとりの男性に会うことが「おひさま」の最初の仕事でした。脚本家の岡田惠和さんとの「はじめまして」です。朝ドラは総放送時間39時間です。毎朝15分、39時間の物語をこの男性に書いてもらわなければなりません。噂では決して早い作家ではないと。でも2年前の私には初めての朝ドラに恐怖体験もなく、156本を毎朝の放送に間に合わすことを心配する想像力がありませんでした。経験と工夫で黙々とピンチを救ってくれたのが、この岡田さんとスタッフ達でした。この場を借りて「お世話になりました」と言わせて下さい。「はじめまして」から3カ月、普通の人の物語を作ろうと決めました。偉業を成し遂げたり有名な人ではない、「偉い人」ではないけれど「すごい」人。そんな普通の人の「すごさ」が戦後の日本を支えたのだと、暮らしの中で描いていけたらと、思いは一致しました。そして平成22年5月、「すごい普通の女性」を探すのが次の大きな仕事です。井上真央さんとのめぐりあわせに、私たちは持てる運の半分以上を使ったのではと思います。彼女でなければ「太陽の陽子」は存在出来なかった。人と共に歩き続ける24年間の陽子の半生が広がりました。翌23年3月8日、記者試写会で、真央さんはこんな挨拶をしました。「日本中を笑顔で明るくしたい」。その3日後の震災で放送は1週間延期となりました。「おひさま」は事実ではありません。物語です。日本中が物語を観たいと思うのだろうか。皆さんと同様にこの時私たちはおびえました。今、物語で笑顔に出来るのだろうか。不安な思いで見つめたスタジオのモニターに陽子の泣き笑いの顔がありました。井上真央さんと共に、エランドール賞をいただけたことを誇らしく思います。観る人に寄り添い、そして心に留まる、そんな仕事をめざそうと、あらたに思います。

只今撮影中

フジテレビジョン   渡辺  恒也

フジテレビジョン   渡辺  恒也

『カエルの王女さま』

 2月の終わり、フジテレビ湾岸スタジオのリハーサル室。顔合わせの後に行われた本読みに挑むキャスト・スタッフは、普通のドラマではない奇妙な緊張感に包まれていました。1月から始まったボイストレーニングを経て、いよいよシャンソンズの歌声を人前で披露する瞬間ーこれから始まる長い挑戦の始まりでした。
 昨年3月に日本を襲った大きな災害のあと、想像を超えるような辛い目にあっても、それでも自分が育った町で生きていこうとする方々の姿を見て、日本のどこにでもある地方都市に住む人々の、「顔」が見えるようなドラマを作りたいという漠然とした思いがありました。一方そんな時に出会ったのが、歌と踊りに励む合唱部の高校生を描いた海外ドラマ「glee」。一度は耳にしたことがある新旧のヒットソングを散りばめ、歌がストーリーと共に真ん中にあるドラマの作り方は、今の日本でも受け入れられる題材ではないのか……。逆境にあっても絶対にあきらめない「人間」の力と、世代を超えて人を元気づけられる「歌」の力で、終わったと思った町の人達が立ち上がる再生物語を作ろうと思ったのが、このドラマを企画したきっかけです。
 財政難から隣の市に吸収合併されそうになっている地方都市、そこでかつては「歌のまち」のヒロインだったママさんコーラス「シャンソンズ」が、ブロードウェイで夢破れ帰国した落ちこぼれミュージカルスターと出会うことから、ドラマは始まります。
 はじめは明確な目標もなく細々と続けていただけの合唱が、町のシンボルである音楽堂を取り壊しから守るため、「聞かせる歌」から「見せる歌」=ショークワイアという形式に変わっていきます。つまり歌って! 踊る! パフォーマンスになっていくのです。 『カエルの王女さま』
 当然ながらキャスティングは簡単ではありませんでした。日本の芸能界で、テレビドラマで歌と踊りと演技、全てを両立させられる方となると、一筋縄ではいきません。それでも結果として、主演の天海祐希さんはじめ、石田ゆり子さん、AKB48の大島優子さんら、奇跡と呼べるようなキャスティングが成立し、これ以上ない良い形で走り出すことが出来たのは、キャストの皆さんひとりひとりが、「歌の力」というものにそれぞれ、挑戦するに足る価値を見出しているからではないでしょうか。
 撮影現場では日々、台本作りから選曲、ボイストレーニングや振り付けのレッスン、レコーディングと、普段のドラマ作りの倍以上の時間と労力がかけられ、誰も見た事がないような新しいドラマを作ろうとする意欲があふれています。
 やはりそこには、人が自然と笑顔になる、歌の持っているポジティブな力があります。
 4月12日木曜日から始まります「カエルの王女さま」。歌の力と、あきらめない人の強さをお茶の間に届けられるよう、走り出した船は前に前に、ひたすら真っすぐに進んでいきます。ご期待ください!

第7回「プロデューサーズ・カフェ」開催

3月9日 松竹 大会議室

松竹 中嶋  等

(左)猪俣氏 (右)大平氏  会場は終始共感と驚きと笑いがこぼれ、打ち解けた雰囲気に満た(ミタ)されていた。視聴率40パーセントを獲得した連続ドラマ『家政婦のミタ』をテーマに、番組のプロデューサーである日本テレビの大平太氏とディレクター猪股隆一氏が作り手ならではの体験談を、質疑応答を含め75分間ふんだんに語った。約30名の出席者が興味津々と耳を傾ける。「へぇそうだったんだ」「そんな裏があったんだ」知られざる『ミタ』のエピソードに、時にニンマリ、時に感嘆の声が漏れた。
 「プロデューサーズ・カフェ」は、業界で活躍目覚ましい人物を招いて直にその人の話を伺いたい、そんな希望から生まれた協会ならではの、魅力あるイベントだ。会報に西村与志木氏が提言したことをきっかけとし、2007年に初の開催となり、以後同氏が委員長を務め今回で7回を数える。
会場風景 協会の大イベント「エランドール賞」。この栄えあるプロデューサー賞受賞者に接して、詳しく企画制作面の話を聞きたい、そんな大胆な願いが叶って今回のテーマとなった。二つのイベントをリンクさせようという狙いもあった。
 よりよいドラマを目指して、プロデューサー、演出家、そして脚本家遊川和彦氏との妥協を許さない議論が重ねられた等、もの作りに対する熱い姿勢が語られた。「貴重な話が聞けて面白かった」などの感想が聞かれ、『カフェの魅力を見た』を実感できるイベントとなった。

事務局だより

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