日本映画テレビプロデューサー協会報

No.416  2013年4月号

エランドール賞受賞の言葉

プロデューサー賞

C&Iエンタテインメント㈱ 代表取締役/プロデューサー  久保田 修

 『のぼうの城』は、和田竜氏が書いたオリジナル脚本「忍ぶの城」を映画化したものです。この脚本は第29回の城戸賞を受賞しています。
 私はあるきっかけでこの本に出会い、その魅力を知りました。そしてすぐに犬童・樋口両監督に声をかけ、映画化を模索します。かなり初期の段階で野村萬斎さんもキャスティングしていました。
 しかし、オリジナル脚本で、かつ製作費も高いことからか、製作委員会の組成がなかなか進みません。そこで和田氏に頼み、このシナリオを小説にしてもらいます。そして「のぼうの城」のタイトルで出版されます。
 小説「のぼうの城」はベストセラーとなり、それが後押しともなり最終的には映画化が決定しました。
 これは大変に稀で、大変に幸運な過程であったと今更ながら実感しています。
 また3・11の震災を受け、公開延期をしたにもかかわらず、結果的には多くの観客を獲得することが出来ました。
 これも大変に幸福なことだったと今、あらためて痛感しています。
 エランドール賞プロデューサー賞、本当にありがとうございました。

プロデューサー奨励賞

株式会社フジテレビジョン  稲葉 直人

 「映画の神様に怒られる映画を作る」そんな罰当たりな目標を掲げてこの作品にのぞみました。映画作りのルールから逸脱し、賞なんて到底無縁の、お歴々から大目玉を頂戴してしまう映画を。それなのに…こんな由緒ある賞を頂戴してしまいました。映画の神様は存外心が広いのかもしれません。いえ、それ以上に広いプロデューサー協会の皆様の懐に今は感謝の念しかありません。
 映画らしい映画を作りたい、ずっとそう思っていました。でもそれがエゴかもしれないと気付いたのは、一年に一本も映画を観ない人が圧倒的多数存在することを知ったときでした。入場料が高いから、娯楽の選択肢が増えたから、原因は様々あるけれど、でも本当は、作り手のエゴとマーケティングという名の保守が自ら客層を狭めているのではないだろうか。そう思ったときから、まだ見ぬお客さんを振り向かせたい、ワクワクさせたい、そんな衝動に駆られました。映画はもっと自由であっていい、大衆娯楽の原点に立ち返れと自分に言い聞かせながら。
 「テルマエ・ロマエ」という原作に振り切ったキャスティングをし、壮大なセットとオペラでギャグとのギャップをつくる。そんな化学反応式を描いたものの、この実験が成功するのかどうか不安は最後まで尽きませんでした。しかしキャストとスタッフが生み出したエネルギーはそんな不安を杞憂にしてくれました。「10年ぶりに夫婦で映画館に来たよ」という言葉を耳にしたときに胸にこみ上げた気持ちを今も忘れません。
 最後に、この方なしに企画は成立しなかったといえる阿部寛さんをはじめとするキャストの方々、素敵な原作を生み出されたヤマザキマリさん、唯一無二の才能を持つ武内監督、フィルムメイカーズの菊地美世志プロデューサーをはじめとするスタッフの方々にこの場を借りて感謝申し上げたいと思います。本当に自分は幸せ者です。
 これからもこの賞の名に恥じぬよう精進していこうと思いを新たにした2013年です。

プロデューサー賞

NHK制作局 ドラマ番組部 チーフプロデューサー  岩谷 可奈子

 今回は、「梅ちゃん先生」に投票していただいた結果として、プロデューサー賞をいただくことになり、私個人というよりは番組スタッフ・キャストを代表して感謝申し上げます。
 「朝ドラ」には見てくださる方々に気持ちよく一日をスタートしてもらうという「使命」があると私は信じています。「日本の朝を笑顔に」を目標に、「梅ちゃん先生」に関わる人すべてが同じ方向を向いてそれぞれの持てる力を発揮した結果、こうして多くの視聴者の方々に愛していただけたのだと思います。
 「堀北真希さん演じる梅子の爽やかな癒しの笑顔が、毎日の元気をくれた」と日々反響をいただきました。テレビドラマは録画して見るもので視聴率が本当の「視聴率」を表していないのではないか、と言われているこの時代、毎日毎日156回という連続ドラマの平均視聴率が20%をこえたというのは、本当に視聴者のみなさんが朝8時を楽しみにしてくださったのだなあと、うれしい限りです。映画館に行けない山奥に住むお年寄り、小さな子供を抱えて外出できない主婦、小学生…技術的には映画と同じレベルで映像を制作できるようになったテレビドラマですが、あらゆる世代の人たちが同じコンテンツについて楽しく語り合い、次の放送を楽しみにする…そんな「映画」とは違う「テレビドラマ」の存在意義のようなものを、この「梅ちゃん先生」で体現できたような気がします。
 今回、『毎朝』『連続156回』を最大限意識して、私やNHKスタッフのこれまでの経験値を全て傾けて制作しました。その「企み」が、制作者、出演者のみならず、視聴者も含めて「ほんわか」とした幸福感を生み出せたことは、プロデューサーとして最高の幸せです。ありがとうございました。

プロデューサー奨励賞

テレビ朝日 ゼネラルプロデューサー  内山 聖子

 このたびは、大変名誉な賞をありがとうございます。
 幼い頃から「受賞」に縁の薄い人生でしたので、光栄なことで、心から感謝します。
 プロデューサーとしての賞ということは、作品をともに創り上げた、キャスト・スタッフ全てが受けるべき名誉であり、私が代表して受け取らせていただきます。
 「ドクターX」は、閉塞感漂う時代に、一人の職人の本音を通して描かれた痛快なドラマと褒めていただきました。組織のしがらみや、社会の理不尽と闘う超人的な女性を面白く描きながら、その実、一生懸命自分と闘うことが「仕事」なのだと訴えました。
 脚本家・中園ミホさんの書いた名台詞「私、失敗しないので」というヒロインの言葉は、「命の現場で失敗なんかできない」という覚悟が武器になっていました。
 困ったことがあれば人のせいにしたり、縦社会の中での立ち振る舞いばかりにとらわれている大人たちを横目に、自分の使命に忠実に邁進するヒロインを、米倉涼子さんが説得力を持って生きてくれました。彼らに対する信頼感が、見てくださる人たちを魅了する作品に繋がったのだと思います。
 ドラマは誰が作ったかではない。誰のために作るのか。改めて今回の受賞で感じることが出来ました。
 視聴率戦争が謳われて久しいですが、数字だけで競争することに囚われず、実感を本音にして世の中に投げていくドラマを作り続けていければ幸せに思います。
 大好きなドラマの制作現場で働けて、作品が多くの人に愛された私は本当に恵まれている。少しでも視聴者、関係者に恩を返していきたいです。
 精進します。ありがとうございました。

只今撮影中

松竹 テレビ企画室  中嶋 等

NHKーBS 連続時代劇
『妻は、くノ一』

 会報委員の私が、自分の携った作品の記事を書くことは職権乱用でしょうか、この場を借りてお許しを。「只今撮影中」と言うより、「只今から放送開始」のコーナーです。(BSプレミアム4月5日金曜夜8時からの43分番組。毎週金曜放送、全8回です)
 「もしもあなたの奥さんが、ある秘密組織の任務を負ったスパイだったらどうしますか?」現代劇ならばこういう問いかけとなるのでしょうか。妻には自分の知らないもう一つの顔があった……この奇抜なシチュエーションをもとに描いたドラマが、この『妻は、くノ一』という時代劇なのです。
 ちなみに「く」と「ノ」と「一」は、平仮名とカタカナと漢字が並んだ珍しい言葉ですが、「女」という漢字を三分割したものです。(番組中タイトルバックをご参照ください)
 作品タイトルがそのドラマの全てを物語ることがあります。『妻は、くノ一』。そう、妻は、女忍びだったのです。話はここから始まり、この事実が物語の中核となって展開します。インパクトがあり、分かりやすく、想像をかきたてる、単純ですが、これほどまでに雄弁なタイトルはありません。
 内容はというと︱︱
 長崎の平戸でのこと。風采のあがらない武士(市川染五郎)のもとに、目の覚めるような美しい女(瀧本美織)が嫁いできます。ひと月の新婚生活、それはもう幸せで素晴らしいものでした。ところが、突然その妻が、姿を消してしまいます。何か事情があっての失踪か、夫は妻に再び会いたいが一心、妻を探し求め、はるばる江戸にやって来ます。広い江戸で果たして夫は妻を見つけることができるのか……実は、平戸で妻だった女は、幕府お庭番が送りこんだ密偵だったのです。任務により偽りの妻を演じただけの女でしたが、夫が自分を探し出すため江戸にいることを知り、激しく心が揺れ動くのでした……。
『妻は、くノ一』 自分が今まで手がけてきた連続時代劇のどれとも一線を画す、一風変わった面白い作品となりました。勧善懲悪でバッタバッタと悪人を斬っていく︱︱ようなことは一切ありません。主役にチャンバラがないのです。市川染五郎さんはご存じのようにしっかりとした殺陣の出来る俳優さんです。しかしこの作品では主人公のキャラクターに合わせ、それを封印しました。星や海のことしか興味がなく、情けないへたれな人物。時代劇の主役がこんなに弱っちくていいのでしょうか、でも染五郎さんはそんな主人公を見事なまでに魅力的に演じました。それがこの作品の面白さになりました。相手役の瀧本美織さんは時代劇が初の経験で、しかもアクションが山ほどある忍者役。しかし、ベテランスタッフが感心するほどの勘の良さと頑張りでもって、しっかりと役をこなして下さいました。
 そしてこの二人が描く夫婦愛、それがとても切なく、感動を誘うのです。妻がお庭番だったと分かりながらそれでも会いたいと一途に願う夫。忍びであるがために、愛する人に決して姿を見せることが出来ず苦悩する妻。夫婦のすれ違い、会いたくても会えない、その切なさが全編を通して描かれ、心を打ちます。かつての時代劇のなかで、これほどまで前面に「切ない愛」を打ち出した作品はありません。
 事件あり、アクションあり、そして切ない夫婦の物語です。是非ご覧ください。

幸せな日々は、そう長く続かない。切ない…

私の新人時代

株式会社テレビ東京 ドラマ制作室  中川 順平

株式会社テレビ東京 ドラマ制作室  中川 順平 「アニメをやらない?」実写の映画やドラマの制作志望だった私にとって、会社の先輩からのその言葉は、少しばかりとまどうものでした。大学を出て入社したのは、音楽系も映像系も両方ある会社。最初に配属されたのは、いわゆるパッケージビデオの発売業務セクションでした。いきなり制作セクションに配属されるわけもなく、これも勉強と思いながら2年余りたったある日、冒頭の誘いがあったのです。ただ、自分にとってアニメは、子供時代以来すっかり縁遠くなってしまったもの。「ガンダム」が周りで流行っていても、すっかり乗り損ねていた身としては、正直ピンときません。そんな私に、先輩が言葉を重ねてくれました。「実写もアニメも、モノを作るという本質は変わらないから」たぶんそうなのだろうと、頭の中では想像できるのですが、何モノもまともに作ったこともない20代前半の私が、それを実感することはできません。それでも、とりあえずはその言葉を信じてみよう、自分自身で確かめてみようと思い、誘いに乗ることにしました。それで、まず某テレビアニメに関わることになったのです。とは言え、制作システムすらゼロからの勉強です。しかもその間、毎週放送するためのホン作りがあります。実際、これは脚本作りのとても良い勉強になりました。言わば毎週毎週本作りのドリルをやらせてもらったようなものですから。いずれにせよ、私はようやくモノ作りの現場に飛び込むことが出来たのです。アニメの仕事も充分に面白いものでした。「モノ作りの本質は変わらない」という言葉が、半分だけ実感できました。それでも、当時の私から、いずれ実写をやりたいという思いは消えません。そこで今度は、実写のプロデュースをすべく、少しずつ舵を切り始めたのです。私の新人時代は、そんなちょっとした遠回りから始まりました。ただ、よく言われる「無駄な経験は無い」という言葉は本当だなと、改めて思う今日この頃です。

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総会と懇親パーティーのご案内

第37回通常会員総会を左記により開催予定です。また、総会終了後、恒例により懇親パーティー(18時開宴予定)を行います。
賛助会員の方々もお誘いあわせの上、ぜひご参加下さい。
詳細は次号でお知らせ致します。

映画館入場料金割引のお知らせ

都興組(東京都興行生活衛生同業組合)のご支援により2013年〜2016年の加盟館割引入場料が以下の通り決まりました。

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