会長 杉田成道
まず現況を概観したいと思います。
昨年度、「2020年東京オリンピック」開催が決定しました。大国による制海権の支配をめぐる争いなど、アジアの強い緊張関係の中で、東京オリンピックは私たちに明るい希望を与えると同時に、産業の分野でも力強い日本を取り戻す契機になることが期待されるなど、国中に、明るい燭光が見えてきたといっても過言ではありません。そうした未来への期待は、次の時代へのエネルギーとなって、我々の業界にも新しい息吹を吹き込んでくれることになりましょう。
昨年度の映画界を顧みると、「風立ちぬ」のヒットと、宮崎駿さんの引退表明という寂しいことがありましたが、一方、「舟を編む」の石井裕也監督など、新しい作家性を持った監督たちが胎動し、邦画にも新しい流れが生まるとの期待感が出てきました。ある意味、邦画の世界のターニングポイントとなった年であったともいえるでしょう。
また、今回のワールドカップをみると、デジタル化された映画館で、ライブ・ビューイングというのでしょうか、大勢の観客が一緒に観戦し、盛り上がろうという、フィルム時代では考えられなかった、映画の新しい分野が生まれています。技術の革新が、映画にも、テレビにも大きく左右した年でもあります。テレビは4K、8Kが、すでに東京オリンピックに向けて、量産へのロードマップが作成され、ハイビジョンをはるかに超える高画質は、スマホの動画領域にも影響を与え、通信のみならず、医学、軍事分野にも大きな変化を促しています。それは、テレビ技術が、様々な分野に応用されていくということでもあります。
一方で、テレビの日常を見ますと、テレビは、ますます客離れが激しくなっており、過剰な情報が流通する情報社会の中では、テレビはもはや、その一部を占めるにすぎず、地震報道や、ビッグスポーツイベントなどを除くと、かつてのように、茶の間の支配者ではなくなっています。特にテレビドラマに限って言えば、改編期における十数本あるドラマの中で、よく見られるものは2~3本で、他は惨憺たるもの、という厳しい結果となっています。これは現実です。
この現実の中で、我々制作者は、何をなすべきか、これが我々に突き付けられた命題です。私見ですが、もう一度原点に立ち返り考えること、つまり、改めて時代を見つめ、その時代の中に生きる人間の、価値観の変化や人間感情の揺れを肌で感じさせ、人間に向かって一石を投じる、志、心意気を持った作品を作っていくしかないと私は考えています。
さて、協会は、一方で、海外展開として、「国際ドラマフェスティバル」に取り組んできましたが、ここ5、6年間の活動で、一定の目鼻がつき、ますます拡大、発展に向かっています。当協会が下支えとなるよう、これまで同様、会員のご協力をお願いする次第です。
最後に、繰り返しになりますが、映画もテレビドラマも、要は強いソフトが必須です。そして、強いソフトは制作者の心意気とエネルギーによってしか、生まれません。我々も、2020年の東京オリンピックに向け、その強化選手になったつもりで、心意気と、エネルギーを持って邁進しましょう。
東京ニュース通信社
出版事業局
コンテンツ事業部兼ブランドビジネス部
石川 究
弊社からは週刊のTVガイドをはじめ、隔週や月刊でテレビ雑誌を5誌発行しており、年間発行数はそれだけで100冊をゆうに超えます。当然テレビ…中でもドラマは最重要コンテンツであり、もちろん、ドラマは毎クール、全作品を拝見させて頂いています。僭越ながら、公私ともどもドラマを愛する一人として、意見を述べさせていただきます。
いわずもがな、テレビを取り巻く環境は大きく変化し続けています。競合メディアも数多く、視聴者のテレビ離れや「ながら視聴」も懸念されて長く、同じテレビでもBS、CSで海外ドラマも簡単に見ることができる時代です。さらに大容量の録画が可能になっているのでオンタイムでドラマを楽しむ人が少なくなっており、視聴率も以前に比べるとますます厳しい数字が標準化となりつつあります。
そのような状況を踏まえて、まずテレビ誌編集者の視点での結論からいえば、実はドラマ個々の作品クオリティに対しては、あまり危機感を感じていません。理由は至極簡単、多くの作品が「よくできている」からです。今般はそれぞれの作品にターゲットが明確に存在するので、作品が全方位で視聴者に刺さるわけではありません。ですが個々の作品が狙ったターゲットと照らし合わせて評価すると、(上から申し上げるようで恐縮ですが)すべて及第点はクリアしており、それどころか「とても面白い」、という評価になります。
問題なのは、ドラマ全体でそのターゲットがかぶりすぎていることです。あるいは他局とのバッティングは避けられずとも、同じ局内ですらターゲットが重複していく状況すら散見できます。数字を取らなければいけない事情はわかりますが、だからといってテレビの前に座ってくれる層ばかりを狙ってしまうと、そこから外れてしまった視聴者には見る動機すらなくなり、またせっかく見てくれても「自分には向けられていない作品だ」、とすぐに見抜かれます。テレビの前から若い世代が離れているのはすべてが環境のせいではないでしょう。「最近、日本のドラマが面白くない」という意見には、ターゲットから外されたけれど、それでもドラマを見ている視聴者や、そもそもそれが理由で視聴者にすらなっていない人々から発せられているメッセージも多く含まれていると思っています。
僭越ながら国際ドラマFESの「東京ドラマアウォード」の選考をお手伝いさせていただく際にも、また弊社で主催している脚本家が主役となる「向田邦子賞」の選考運営においても、時折よぎるのは日本のドラマの今後を憂う気持ちです。それは絶望的なあきらめではなく、ちょっと視野を広げれば、もっと素晴らしい作品を生み出すことができるはずだと実感しているからこそ感じる、ジレンマからの憂いです。
「予算」や「規制」などなど、時代は変わり、モノを作る上での不都合が多く生じているのは事実ですが、プロとして言い訳を作品に添えることはできないはず。「過程」は関係なく、要は「結果」で視聴者に何を伝えるのか、それが全てです。そして実際、日本のドラマ制作スタッフにはハンデがあっても立派な作品を作り上げる技量が充分にあると思っています。それだけ、日本のドラマクオリティは世界に誇れるレベルにあります。
つまり言いたいのは、時に目先を追わない広い視野でチャレンジをすべき(させるべき)だということ。そうすれば必ず深く、そして広く支持される作品が生まれ、結果、数字以上の評価を得ることができるはずです。観る人に左右されず、逆に見なければと人を動かせる作品をこれからも生み出してほしいと切に願っています。
松竹映像本部
映像企画部映画企画室
プロデューサー
秋田 周平
映画『超高速!参勤交代』
忘れもしない2011年12月1日のこと。第37回城戸賞に入選した『超高速!参勤交代』の脚本家・土橋章宏さんを、授賞式直後に他社さんにバレないようにこっそりと連れ出し、近くの喫茶店へと誘ったのです。「はぁ、なんでしょう?」と土橋さんは呆気にとられつつも、ザ・ペニンシュラ東京の高級珈琲に口をつけたタイミングを見計らい、映画化の話をさりげなく切り出す私。「え、映画化? え、あ……松竹さんがですか?」土橋さんが状況を掴めないうちに、どんどん話を進め、珈琲を飲み干す頃には半ば強引に?シェイクハンド。こうして授賞式後のドサクサに紛れ、松竹での超高速!映画化準備が進んでいくことになったのです。
城戸賞の審査でもエンターテインメントとして非常に評価の高かった脚本で、最終審査員のひとりである本木克英監督で映画化しようということは最初から決まっていたのですが、まぁ、そんなときに限って本木さんがTVドラマを演出していたり、他社さんの映画を監督することになったり、いきなり映画化が高速どころか渋滞にハマってしまったのです。それでもめげずに土橋さんとプロデューサー陣とで、まずは城戸賞受賞バージョンの脚本を本直し。最初は150ページ近くあったので、2時間のエンタメとして脚本をどう整理していくかを話し合い、何度も何度も「じっくりと丁寧に」稿を重ねていきました。「超高速!映画化!」とうたっているにもかかわらず、「進捗が遅い!」と社内の温かい激励の言葉をエンジンに、実際の宿場町で本直ししてみようとか脱線しながらも、ついに昨年9月の撮影へと辿りついたのでした。
ところが昨年9月の京都はまさかの4回も台風直撃。そして桂川の氾濫で道路が封鎖…。時間もないし、予算もないし、エキストラも集まらない! まさに脚本通りの展開に、ああこの状況こそフィクションだったらと現場で頭を抱える私を、優しく見守ってくれたのは劇用の猿、九官鳥、そして馬たち。一瞬、動物版参勤交代の案が頭をよぎるも、結局はそのピンチを監督はじめスタッフの知恵と工夫とチームワークで、なんとか乗り切り、無事完成したのでした。
実在する湯長谷藩(現・福島県いわき市)を舞台に「カネも時間も人も足りない」わずか1万5千石の貧乏小藩が、「5日以内に参勤交代せよ」という幕府からの無理難題を、知恵と工夫で成し遂げようとする本作。みなさんこそ共感できる要素がたくさん盛り込まれているはずです。
映画「超高速!参勤交代」は絶賛公開中です!
テレビ朝日
編成制作局制作2部
片山 修
私は幸せなことにこの世界に入ってからずっとドラマしかやってません。
ドラマを撮りたくて制作会社に入ったのだからとても幸せなことなのですが、新人時代はとてもつらい日々の連続でした。
当時ADは犬、猫、ADといわれるほどとても酷かったことを覚えています。お給料は当然安く、交通費も貰えなかったので、千葉の実家から通っていた私は殆どが交通費で消えてしまいました。ロケハンに行っても、公衆電話とトイレを探して走り回ってました。当時は携帯電話もなく、制作部もいなかったので仕方がなかったのですが…ロケやロケハンのバレ飯の時にもっとひどいことが待っていました。蕎麦屋でキツネそばを注文したら先輩ADから頭を叩かれ「バカ野郎、お前はざるそばだ」と怒鳴られました。喫茶店に行っても「アイスコーヒーを頼め」と怒鳴られました。少しでも早く食事を終らせて次に備えろというのは後になって気づかされたことです。
当時は今より仕事量も多く通常のAD業務のほか、ロケ、スタジオの弁当の発注、各セクションのロケ車両の手配、ロケ備品の準備、ロケ地図、割本、道路使用許可書の作成・提出、スタジオ収録の準備、ロケの準備、リハーサルの準備等々。寝る時間がほとんどありませんでした。
友人からは「そんなに大変なら辞めればいいのに」とか、親からは「そんな稼げない男に育てた覚えはない」とか言われました。
でも、今思えばそんな辛い経験をしてきたから今があるんだと、そんな経験をしても辞めずにやってきたことが、自分のやりたいことに自信が持てて今日まで続いているんだと思います。
いい思い出だし、厳しくしてくれた先輩方に感謝しています。
勿論、友人や両親は今では一番の理解者ですし、いつも応援をしてくれています。
片山 修
テレビ朝日編成制作局制作2部ディレクター
1965年生まれ。泉放送制作を経て2006年テレビ朝日入社、現在に至る。
主な演出作品「木更津キャッツアイ」、
「マンハッタンラブストーリー」、
「花より男子」、「バーテンダー」、
「11人もいる」、「みをつくし料理帖」
映画「岳」などがある。
◎正会員入会
倉地 雄大(TX)
武藤 淳(TBS)
十二 竜也(TBS)
森田 勝政(A)
櫻井 一葉(A・フレッシュハーツ)
松本 拓(TX)
◦退会
菅 康弘(NHK)
大加 章雅(NHK)
田中 芳樹(NTV)
杉浦 美奈子(TBS)
中井 芳彦(TBS)
瀧川 治水(TX)
佐藤 満(F・東北新社)
佐々木 鉄男(功労)
◦訃報
元大映のプロデューサー藤井 浩明氏(功労グループ)は、6月21日に逝去されました。86歳でした。
ご生前のご功績を偲び、心からご冥福をお祈りいたします。
2015年度協会会員手帳について
「2015年度協会会員手帳」の編集が始まります。掲載事項変更希望の方は8月末日までに事務局へご連絡下さい。
永年勤続表彰についてのご案内
一般社団法人 映画産業団体連合会が毎年開催する「映画の日」では永年勤続功労表彰行事が行われます。
表彰者の資格は原則として直接映画関連事業に関与され40年以上勤務し(1974年12月1日以前より従事)現在もなお現役として活躍されている方です。自薦、他薦を問いませんので該当される方は協会へお知らせ願います。ご本人に指定の調書を作成していただき当協会より資格審査会に提出し表彰が決定されます。当協会への調書提出の締切は平成26年8月20日です。
◎会議の記録
6月17日(火)
第9回定例理事会(NHK青山荘)
第38回通常会員総会
◎会議の予定
7月14日(月) 会報委員会(事務局)
7月16日(水) 第1回定例理事会(東映本社)
※協会ホームページをリニューアルします。