自分の年齢が50を越え、次はどんな映画を作れるのだろうかと、漠然と青春ものを作りたいと思っていた時、出版社さんからこの本は映画になるでしょうかと言われました。書店で見た表紙の金髪ギャルに少し心惹かれていましたが、読んではいませんでした。有村架純さんで作品を作りたいなと思っていた頃でしたので、読み始めてすぐ、これなら出来る、金髪ギャルいいじゃんとやる気満々で読みました。半分以上そんなミーハーな気持ち、この仕事をやっている本能的なものがスタートでした。原作者さんへの条件は3つ、主演は有村さん、タイトルは原作通りではなく短く『ビリギャル』、そして、家族の物語にしたい。土井監督も原作を渡して一週間でやろうと言ってくれました。周りからは、ただの受験の話だろ、最初から結末もわかっているしラブもなし、そんな映画あたらない……散々言われましたが、どうしようもなくダメな登場人物たち(主人公、先生、家族)、もしかして、どうしようもなくダメなやつらの掛け算だからこそ奇跡って起こるんじゃないという物語には自信がありました。家族とその成長、一見結びつき難いテーマもこのお話の肝として背景として、ちょっとした片思いや入浴シーンも散りばめての作劇、それらは実際のご家族への取材から導き出されたものです。過去にも経験がありましたが、これが実話ものの醍醐味。家族の感動作として宣伝したほうが良いのではとの意見もありましたが、説教臭い映画に思われないようティーンターゲットのPRで初志貫徹の東宝宣伝チームのブレなさぶり、完成前に作品のクオリティを信じて多くの見せこみを実現してくれた心意気。流行っているものを流行っているうちに短期間で映画にするというのも映画の醍醐味。そのため俳優部とスタッフは極寒のハードスケジュール。有村さんの覚悟と堂々たる主演女優ぶり、この作品でチームがくれた数々の醍醐味と感謝の気持ちが忘れられません。
この度は素晴らしい賞をいただき、日本映画テレビプロデューサー協会の皆様に、深く御礼申し上げます。
「百円の恋」は、山口県の小さな映画祭「周南『絆』映画祭」にて2012年に創設された「松田優作賞」で第一回グランプリを獲得した、足立紳さんの脚本を映画化したものです。初めて読ませてもらった時から脚本が発する凄まじい熱量に圧倒され、何としても映画にしたいと思いました。とは言え、原作のないオリジナル脚本を映画化するのは、なかなか困難な現状があります。なんとか社内で企画を通したものの、決して十全とはいえない低予算、二週間という短期間のスケジュールで、撮影は過酷を極めました。そんな中、脚本に惚れ込んで参加してくれた安藤サクラさん、新井浩文さんを始めとしたキャスト、武正晴監督を始めとしたスタッフが、文字通り身を削って、ボロボロになって作り上げたのが、この映画です。この度、私が代表してこのような賞をいただきましたが、キャスト、スタッフ、作品に関わった全員で、この喜びを分かち合いたいと思います。
「百円の恋」は、山口県での先行上映を経て、一昨年の年末12月20日に公開されました。当初4館でスタートした公開館は、口コミで拡大を続け、100館以上に広がりました。海外でも、22箇所の映画祭で上映され、25の国と地域で配給が決まっております。少ない宣伝費で駆けずり回り、本作をヒットにみちびいてくれた配給宣伝チームの皆さん、熱烈に応援してくれた劇場の皆さん、この映画の伝道師として国内外を飛び回り多くの人につなげてくれた安藤サクラさん、武正晴監督に、この場をお借りして改めて感謝いたします。
そして、私自身この映画を観る度に主人公の一子から力をもらうのですが、観た人が映画から受け取った熱を人に伝え、人から人に伝わるごとに、どんどん熱量が大きくなっていくという、まさに観客の皆様に育てていただいた映画だと実感しております。この映画を愛して大きく育てていただいた皆様に、深く感謝いたします。
これからも、「百円の恋」のように、皆様に愛され、育まれていくような作品を生み出せるよう、精進いたします。ありがとうございました!
『マッサン』制作は、いつ沈むか分からない船から水を掻き出し、なんとか港までたどり着いた危う過ぎる航海でした。〝朝ドラ〟は、〝日本一キツイ現場〟です。なのに『マッサン』は、舞台地は多岐にわたり企業モノ、国際結婚夫婦の一代記にはスケールが必要で、ヒロインは外国人。〝朝ドラ〟の枠には収まらない無茶な企画で常に難題山積みでした。
ドラマは一人ではつくれません。プロフェッショナルたちが、こういうセットだ、衣装だ、照明だと、妄想を膨らませ構築されていきます。俳優の皆さんも同じです。それぞれの妄想を突き動かすのは台本です。キツイ上に台本がつまらないとチームは地獄です。15分×150本に及ぶ膨大な物語を面白く描き続けることは並大抵なことではありませんが、羽原大介さんは本当に命を削って心に響く台本を届け続けて下さいました。
そんな中特筆すべきは、朝ドラ史上初めてヒロインを海外から迎える大博打を、見事にやりきったシャーロット・ケイト・フォックスの奮闘でした。未知の言語であった膨大な日本語のセリフを自分のものにし、嘘のない感情でお芝居をする。演技者としての卓越した技術を差し引いても、決して生易しい道のりではありません。けれど〝決してあきらめない〟彼女の気迫がチームを突き動かしました。夫役の玉山鉄二君も、全身全霊でシャーロットを支え、座長としてチームをけん引し、二人はマッサン&エリーとなり、虚実ない混ぜの現場の中、二人がくれたインスピレーションが羽原さんの台本にアイデアと奥行きを与えてくれました。初来日した時のシャーロットの言葉「人生は冒険旅行」は、ドラマのテーマとなり、やがてスタッフ共演者の合い言葉となりました。
挑戦はさらなる挑戦を呼び、冒険はさらなる冒険を可能にする―「マッサン」は、そんなチームでした。無茶な航海を支えた出演者・スタッフの苦心は、尋常では無かったでしょう。本当に頭が下がります。この賞をいただけた喜びは、そんな挑戦の日々を熱意で支えて下さった「チーム・マッサン」とともに分かち合い、これを糧に新たな挑戦のドラマを作り続けていきたいです。本当にありがとうございました。
日本国内に知らない人はいないであろう国民的人気シリーズ「釣りバカ日誌」の連続ドラマ化は、原作と映画ファンを絶対に裏切ってはいけないと、絶えず自身に言い聞かせながらの挑戦でした。時代設定は原作で描かれる昭和から2015年へと変わり、ハマちゃんも中堅社員から新入社員へ、みち子さんとは出会ってもいない他人同士からのスタートです。初期設定そのものが〝みんなが知ってる釣りバカ日誌〟から遠く、いかにその〝血〟を注ぎ込み、愛されるドラマを作るかを考え続けました。朝原雄三監督や音楽の信田かずお氏、演出部、制作部、美術部を始めとする松竹さんの映画チームの力で〝あの釣りバカ〟のDNAを受け継ぐことができ、脚本の佐藤久美子氏・山岡潤平氏や技術部の力も加わって〝連続ドラマの釣りバカ日誌〟として魅力的な作品に仕上げることができました。そして、ハマちゃんを演じる事が出来る唯一無二の俳優・濱田岳君と、ありえないはずのオファーを快く受けていただいた西田敏行さんを始めとする魅力的なキャストの皆さんのおかげで〝お茶の間で愛される〟作品になりました。今回いただいたプロデューサー奨励賞は、原作が持つ力と、キャスト・スタッフの素晴らしい心意気と努力が評価された結果であって、プロデューサー個人がいただく賞としては大変畏れ多いものです。賞の名に恥じぬよう、これからも斬新で広く愛されるドラマ作りを目指していきます。釣りバカ日誌の全てのスタッフ・キャストと、エランドール賞関係者の皆様、本当にありがとうございました。
原作は第148回直木賞を受賞した朝井リョウさんの「何者」。
この素晴らしい原作に出会ったのは3年前のこと。ちょうどその時期、朝井リョウさん原作である「桐島、部活やめるってよ」が映画賞を総なめにしていた。原作は私も読んでいて面白かったのだが、同時に映画化が難しい作品だとも感じていた。ところが「桐島」は見事にそれを乗り切り、それどころか映画史に残る名作になったと言っていいだろう。ちょうどそんな衝撃を受けていたときに出会ったのが「何者」だった。人間の内面をあぶりだすことに長けた作家・朝井リョウの真骨頂がそこにあり、「桐島」からも明らかに進化した傑作だと感じた。決して映像化するのが簡単な作品ではなかったが、「桐島」の成功と直木賞受賞がますます私に火を点けてくれた。
こうして始まった「何者」映画化プロジェクト。しかし脚本作りは難航を極める。一番の難しさは、小説と映画の差にあった。小説では読んでいれば自然と主人公と自分の思いが重なっていくのだが、映画では役者が演じる様を映像として観る分、どうしても客観性がともなってしまう。原作をご存知の方ならばお分かりだと思うが、「何者」のクライマックスでは、お客さんが主人公の思いと重なって観ることが必須になるため、この問題は避けて通れなかった。そんな映画化ならではの難しさに対し、演劇界の鬼才で、近年では「愛の渦」など映画監督としてもその才能を発揮している三浦大輔さんを監督・脚本に迎えることで挑戦していった。企画から3年の月日が経ったが、その熟考の結果はしっかり脚本に出ていると思う。
そんな三浦組「何者」のキャストには、佐藤健さん、有村架純さん、二階堂ふみさん、菅田将暉さん、岡田将生さん、山田孝之さんという、信じられないくらい素晴らしい6人が顔をそろえてくれた。まさに主役級の方々の勢揃いとなり、「どんなものができるのか」という期待の声を多くいただいている。実際に現場では、見事な掛け合いが繰り広げられており、そこに三浦監督ならではの粘りの演出も加わることで、非常にリアルで生々しい世界が見事に出来上がっている。
現場スタッフの皆さんも、各部とも意欲的に取り組んでくれており、映画「何者」には〝挑戦〟と〝工夫〟が詰め込まれている。きっと「観たことのない」映画になるはずだ。
「桐島」で覚えたあの衝撃を超え、今度は多くの人を震えさせる側になれれば嬉しい。
そんな挑戦作「何者」は2016年10月15日に公開いたします。ぜひその衝撃を劇場で味わっていただきたいです。
ドラマが作りたいとNHKに入ったものの、入局後は地方でドキュメンタリー番組、高校野球中継などフィクションとは無縁の世界を過ごしました。念願のドラマ部に配属になってからも、下っ端の助監督、怒られてばかりの毎日。それでも、助監督としてようやく独り立ちできてきた手ごたえを感じ始めた頃に忘れられない作品に出会いました。それは髙村薫さんの原作をドラマ化した『照柿』という作品でした。脚本は井上由美子さん。原作のスケール、情感を見事に取り入れており、すごくいいドラマになると胸が躍りました。このドラマ、最初に鉄道事故が起こります。主人公(刑事)が電車に乗っていると急停車。何事かとホームに降りると、線路に死体、そして逃げていく女。私の役割はチーフ助監督、これをどうやって映像化するのか、大いに悩みました。ロケハンに行くと監督がホームから電車に人形を投げ込めば良いと言い出し(これが本気であったのかどうか未だに謎です)、それは無理ですと言うと、ではどうするのかと問われ方法を探りました。線路は引き込み線を使いホームと合成、電車の中は終着駅で停車している間に撮影。ちょっとずつ撮影し、冒頭のシーンを撮るのに2カ月近く要したものでした。命じられた仕事をこなすだけであったそれまでに比べ、積極的にドラマの台本を形にする仕事に携われたことをとても誇らしく思ったことを記憶しています。
この年は丁度、一連のオウム事件があった年でもありました。ロケハンをしているだけで、目つきの悪い男が路上に集まっているといって警察に通報され、ロケバスも検問にひっかかることがしばしばあり、ドラマのロケなどという一見、社会の役に立たない行為には一際風当たりが強かった時期です。そんな状況の中で、鉄道や駅といった目立つ場所でのロケは本当に気を使ったものです。出来上がったドラマは誇らしく思える出来でした。ドラマ作りをずっとやっていきたい、そんな風に思った作品でした。
第40回通常会員総会を下記により開催予定です。
また、総会終了後、恒例により懇親パーティー(18時開宴予定)を行います。
賛助会員の方々もお誘いあわせの上、ぜひご参加下さい。
詳細は次号でお知らせ致します。
日時/2016年6月21日(火)
17時総会開会予定
18時懇親パーティー開宴予定
会場/NHK青山荘
(港区南青山5-2-20)
電話/03-3400-3111
パーティー会費/3,000円
お手元の会員証の有効期限は2016年3月31日となっております。
更新のためタテ3センチ×ヨコ2.5センチの写真(データ可、カラー、モノクロいずれも可)を必ずお名前を明記の上、事務局までお送り下さい。
データの方はメールにてお送り下さい。
お写真の変更が必要ない場合はその旨ご連絡下さい。
会員証の提示で都興組組合加入の都内映画館(協会HPに映画館リスト掲載)へ一律1,100円で入館できます。但し消費税等の値上げが実施される場合は料金が変更する場合もあります。
◦退会
瀬島光雄(功労・松竹)
◦訃報
元東映のプロデューサー池ノ上雄一氏(功労グループ)は、平成27年12月に逝去されました。76歳でした。
ご生前のご功績を偲び、心からご冥福をお祈りいたします。