先日、映画「トランボ」を観ました。まず、このようなシリアスな作品が満員であることに驚きました。この作品を観ようと「日比谷シャンテ」に何度も足を運んだのですが、最前列の席しか空いていないことが多く、3度目の挑戦でやっと席を確保できました。見応えのある映画を待ち望んでいる人が如何に多いかの証明でしょう。事実私自身もこの作品を観て感動で不覚にも思わず涙してしまいました。と同時にテレビ業界に長くいる者として、彼の映画への情熱、表現の自由への執念を自分はその欠片でも持って禄を食んできたのだろうかと反省すること大でした。彼が生み出した脚本は「ローマの休日」「黒い牡牛」そして「スパルタカス」「栄光への脱出」どれも芸術性以上にエンターテインメントであることを強く意識した映画です。しかし「コミュニスト」と言うレッテルを貼られ、仕事の場を奪われ厳しい立場に置かれた中でも彼は脚本作りには一切の妥協はしていません。自分が信じる、客の期待を裏切らない作品とは何かと言う精神を様々な圧力に苦しみながらも貫き通しています。さてそこで気になるのは、最近の日本のテレビ業界がやたらマーケティングを重視し、制作者が作りたい物よりデータ的に視聴率が取れる作品を現場に強要する傾向にあることです。ビジネスの世界だからそれも仕方ないと言ってしまえばそれまでですが、ちょっと穿った見方をすれば、データ主義はある意味で〝表現の自由〟を制作者から奪う役割を果たしているとも言えるような気がします。結果として金太郎飴的な作品が並び、視聴者のテレビ離れを引き起こす遠因を作っているというのは言い過ぎでしょうか。その一方、最近、視聴率だけを見てテレビドラマの不振を指摘する意見や記事を見かけます。しかし、今や、視聴率で客の望む番組を評価する時代は終わっています。国民がテレビドラマを見る方法はハード・インフラの進歩と変化の中で大きく変わり、多様な選択肢が出来ました。そんな時代にリアルタイムデータである視聴率のみに依拠して番組を評価することは間違いでしょう。事実、そんな環境にあっても、この一年の中には、視聴率とは関係なく、内容的に「きらりと光る作品」が数多放送されています。いま、日本のテレビ界に求められているのは「多様多彩な作品」が制作者から企画立案され番組化されることではないでしょうか。社会が複雑化し個人の生き様、価値観も多様化している時代であるからこそ視聴者が期待するものは、独創性のある個性的なドラマが数多く発表され、自分に合った作品が選べる状況をテレビ界が作ってくれることでしょう。
『国際ドラマフェスティバル』は「世界に見せたいドラマがある」の精神のもとにスタートしました。しかし、それが「いま日本で人気のあるドラマは」に変質してしまう事は避けなければなりません。「東京ドラマアウォード」に続きアジアの各国に出向いて、日本のドラマを直接紹介する「J-Series」を始めました。その経験から日本で受けるドラマが必ずしもアジアで人気になるとは限らないという事を知りました。
そして、力説したいのはあれだけアジアを席巻した韓国ドラマの人気が相対的に落ち込み日本のドラマが再び、盛り返しつつあるという事です。韓流がなぜ飽きられたのか、現地の放送関係者は異口同音に、「1パターンなのでさすがにこれだけ放送されると皆飽きてくるのですよ」と言います。この「二の舞」は我々も避けなければなりません。
アジアの4か国で、「最近見た、日本のドラマで好きなものは」という調査をしました。ただお断りしておきますが、この回答者の多くがネットの海賊版で日本のドラマを見ていると思ってください。更に、調査自体SNSを使って行いましたので、若者の意見が主流を占めているという偏ったデータになるということも申し上げておきます。そんな、問題のある調査でも、面白いのは日本では視聴率が芳しくなかった番組が上位にいることです。
例えば、タイでは「掟上今日子の備忘録」(NTV)「コウノドリ」(TBS)。マレーシアでは「5→9?私に恋したお坊さん?」(CX)「怪盗 山猫」(NTV)「サムライせんせい」(EX)、インドネシア「イタズラなKiss」(CX-CS)「天皇の料理番」(TBS)「フラジャイル」(CX)、ヴェトナム「わたしを離さないで」(TBS)「仮面ライダー」(EX)。また、ドラマではないのですがNHK?ETVの「Rの法則」がいくつかの国で上位にいたのが目を引きました。NHKテレビ小説の認知度が高いのは露出の問題もあり当然ですが、最近WAKUWAKU JAPANがインドネシアのPAY-TVの中で急に視聴率を上げ11位にランクされたと報告を受けました。それが「おしん」の再放送をあえて行った結果だと言います。私どもとしては、まだこの作品を上回るアジアをはじめ海外を制覇できる番組を生み出せないのは残念です。
「世界を目指すなら、独創性のある多様なドラマを」その環境作りが今年の「国際ドラマフェスティバル・東京ドラマアウォード」が目指す10年目の出発点になります。
毎年恒例、若手俳優の登竜門「アクターズセミナー賞選定オーディション2016」開催のご案内です。
今年は映像産業振興機構(VIPO)「ndjc若手監督作家育成プロジェクト」とコラボ致します。
例年11月開催を一か月早めの開催にし、場所も築地のVIPOに移します。
さらに「ndjc若手監督作家育成プロジェクト」の監督・プロデューサー達にも参加して頂き、キャスティングの候補の一助にしてもらいます。
アクターズセミナーの最大の売りは、若手俳優たちが映画・ドラマのプロデューサーと直接対話し、自分を売り込むことが出来るということです。プロデューサーが俳優やキャスティングについてどんな意見をもっているか、どんな考え方をしているかを、俳優自身が肌で感じとることができ、さらに自分がどうプロデューサーから見られたかをハッキリと認識し、俳優業とは何かを考える場になると考えます。
また、勿論我々プロデューサーにとっては、魅力ある若手俳優を発掘する場でもあります。
審査員・出会いの広場など、協会員 皆様の例年通りの温かいご支援ご協力をお願い申し上げます。
日 時/10月14日(金)
会 場/VIPO映像産業振興機構
参加費/5000円
定 員/18歳以上 60名(書類審査あり)
締 切/9月23日(金) 事務局必着
実施プログラム
受付開始/10:00
第一部「ワークショップ」 10:30~12:30
講師/中島 悟(なかじま さとる)
日本テレビ制作局 チーフディレクター
第二部「アクターズセミナー賞選定オーディション」 13:00~16:00
一人2分30秒以内で自己表現
第三部「出会いの広場」 16:00~17:00
参加者とプロデューサーとの交流
第四部「結果発表と表彰式」 17:00~17:30
総評及び授賞式(優秀者には賞状、ヒラタ基金より副賞のトロフィーを授与)
※アクターズセミナー賞受賞者は、2月の「エランドール賞パーティ」の会場において紹介されます。
なお詳細は参加応募用紙をご覧ください。
ドラマ『営業部長 吉良奈津子』
午前四時半。私の後ろで、助監督がいびきをかいて寝ています。
男の子も、女の子も、髪を短く刈り上げていて、一日働いたうなじからは、汗の香りが漂っているような気がします。かく言う私も、今晩まだ洗えていない顔面からどことなく悪くなった脂の匂いがするように思えて、何度も鼻をすすりながら、メールボックスを開いて、「そうだそうだ、原稿を書かねばならなかったんだ」と思い出して、どこか軽やかな気持ちでキーボードをたたいています。撮影中に、現在進行している以外の仕事をするのは気晴らしになるし、今までの制作過程を思い起こすことは少ないので、わくわくしているところもあります。
ただいま撮影しております、木曜劇場「営業部長 吉良奈津子」は、私にとってプロデューサーとしてクレジットされる2つ目の作品です。母として子を育てながら、自分の希望でない職種である営業局で、しかも管理職として、さまざまな逆境に遭遇してしまう「吉良奈津子」は、独身で、自分の希望した部署で、平社員として勤務している自分とは遠いところにいる女性です。企画を聞いて、打ち合わせに入ってしばらくしても、私は「吉良奈津子」が全くとらえられませんでした。私が吉良奈津子ならばこう考える、こう動く、という風に、自分を軸に捉えることができなかったからです。母親になる心地というのは、宇宙人や動物の心地よりも、私には見当もつかない難題でした。
そんな迷いを消し去ってくださったのは、すべてが映像化した瞬間でした。松嶋菜々子さん、松田龍平さんをはじめとするキャストの皆様、経験豊富で意欲的なスタッフの皆さんが、眼前に「吉良奈津子」が生きている世界を見せて下さった。
ずっと私には分かり得ないと思っていた「吉良奈津子」は、松嶋菜々子さんが演じられてはじめて、文字通り実体を持って、動き出したのです。それは、テレビドラマを制作するうえで、毎日起こる奇跡で、言ってしまえば、当たり前のこととしか言いようがなく、「何を今更、馬鹿な奴がフジテレビにいるものだ」と思われてしまうかもしれません。
ただ、若輩者の私は、「わからない、わからない」と思っていた、幽霊のようなキャラクターが(プロデューサー失格です)、息を吹き込まれてこの世に生まれた瞬間を、これからずっと忘れてしまいたくないなと思いました。
まだ一月弱、撮影が残っています。丁寧に日々を過ごして、この作品を最後まで送り届けたいと思っております。
撮影中の報告でもなく、作品についての情報でもなく、自分の汚れ物のような気持ちをここに書き出したことをお詫びして、この原稿の締めにさせていただきます。
映画企画部にきて約3年が経ちました。体重は約6キロ増。自省の念を込めて「この3年間の自分の3食はどうだったか」という観点から映像の企画制作に携わるようになってからの新人時代を振り返ってみることにします。
まずは朝ごはん。初見が印象的だったのは、約2年半前、初めてAPを担当した2時間ドラマの撮影初日、早朝先発バスで出会ったご存知「ポパイ」のおにぎり弁当です。おにぎりの横に殻の付いたままのゆで卵とたくあん、以上。初めは「素材感エゲツない!」と驚きましたが、すぐに「夜明け前の暗さの中でも簡単に食べられる! 腹持ちがいいから昼まで走り回れる! 最高!」と実感しました。以来、ポパイはお気に入り朝食の一つです。
続いてお昼ごはん。ポパイにも慣れ、現場に入ることが多くなってからは「食えるうちにさっさと食っとけ!」という精神が板につき始め、早食いを習得しました。東宝スタジオの食堂のカツカレー完食の最速タイムが3分。3年前までいた経理財務部では正味約45分間をランチの咀嚼に費やしていたので、個人的にはかなりの記録更新です。先輩に「急いでんならカツのせんなよ(笑)」と言われながらも、カツは譲れません。
最後に夜ごはん。思い出深いのは、今年の日本アカデミー賞授賞式の夜。担当した映画『バクマン。』で受賞されたキャスト、スタッフとした授賞式の打ち上げです。場所は中目黒にある和気藹々とした居酒屋でした。おめでたい空気の中で飲んだお酒、食べたお刺身の味は本当に美味しくて、周囲の笑顔も最高で、お腹も胸もいっぱいになり、また絶対この場所に戻ってこようと心に決めました。
さて、こうやって振り返ってみると食べてばかりの3年間でした。ストレスとかで痩せるかな? と思いきや、その心配もなさそうです。体重管理も仕事のうちですし(それだけではないですが)、私はまだまだ新人なのだと思います。食べる量だけが半人前になるよう精進いたします!