第42回通常会員総会にあたって一言ご挨拶申し上げます。
相変わらずテレビや映画をめぐる環境変化は激しく、この先の見通しが立ちにくい状況が続いています。12月に始まる4K8K放送でテレビ業界は変わるのか、またネットによる動画配信は映画の興行にどんな影響を及ぼすのか、2020年に向けて全国各地に作られるパブリックビューイング施設は新たな観客を創り出すのか、映像コンテンツの提供方法は多様化の一途をたどっているというほかありません。
その中で、いまテレビの制作現場で起きている画期的な変化は、AIを活用した制作手法の導入でしょう。
AIによるビッグデータの分析や、ニュース、天気予報の自動生成をはじめ、コンテンツ制作の様々な分野でAIの活用が始まっています。例えば、白黒フィルムをカラー化する試みはすでに行われてきましたが、AIを使うことによって驚異的に時間短縮ができます。テレビとネットがもっと融合すれば、AIのお勧めによって見たことのないコンテンツをどんどんテレビで見られるという環境になることでしょう。
Epagogix社という会社をご存知でしょうか? いまハリウッドの6つのメジャースタジオすべてが導入しているといわれるアルゴリズムを作り出した会社です。このアルゴリズムは、AIのディープラーニングを使って、未公開映画の脚本から興行収入を予測するというものです。
2004年、ある大手映画会社が未公開の映画の脚本9本をEpagogix社のアルゴリズムで分析しました。そして9本の映画がすべて公開された後のそれぞれの興行収入を見たところ、そのうちの6本はEpagogix社が予測した通りの結果だったのです。その時から十数年がたち、Epagogix社のアルゴリズムは、今では脚本のアドバイスまでするようになったとのことです。
AI恐るべし! いよいよプロデューサーも消えていく存在ということでしょうか。
ひとつ大事なことがあります。AIの学習能力はたしかに圧倒的なのですが、その能力を生かすには、適切なデータベースが必要だということです。Epagogix社の場合は、主人公の葛藤だとか、魅力的な女性の登場だとか、セリフやストーリー、構想、キャラクターなどすべての要素をまず人間が評価したデータセットを作り出しました。評価の高低と興行収入を過去の興行成績と照らし合わせて一定の相関関係を統計的に導き出したのです。いわば教師役に当たる評価データセットがあって初めてAIはディープラーニングできるのです。
作品の個々の要素を評価し判断するのは、プロデューサーの仕事です。まあ私たちは往々にして勘と経験だけでやってますが。当協会は様々な感性と経験をお持ちのプロデューサーの集合体です。AIには及びもつかないディープラーニングができる交流の場にしていきたいと思います。
今後も会員の皆様のご協力をお願いします。
NHKドラマ番組部 加藤 拓
6月25日、プロデューサーズ・カフェを開催しました。今回のゲストは、2017年1月期に放送されたTBSの名作ドラマ「カルテット」の佐野亜裕美プロデューサーです。
その「情熱と戦略に迫る」と題したPカフェでしたが、「カルテット」放送までの道のりや制作秘話を中心に佐野プロデューサーの高速回転トークが繰り広げられ、あっという間の90分でした。TBSドラマ「カルテット」は視聴率こそそれほど高くありませんでしたが、SNSを中心に大きな盛り上がりを見せました。サスペンスともロマンスともカテゴライズされることを拒むかのような、いわば「ノンジャンル」。しかしながら奥行きのあるセリフのやり取り、上質な芝居を精緻に構成させた丁寧なつくりによって、他のドラマとは一線を画した作品性を提示し、魅了された視聴者によって「新たな放送の楽しみ方」が生み出されるというコンテンツの可能性を開いたドラマと言えるでしょう。昨今のテレビドラマ界においては通りにくいスタイルの企画が視聴者の心を鷲掴みにしたことには佐野プロデューサーのぶれない意思がありました。脚本家・坂元裕二氏との4年にわたる信頼関係の醸成は佐野プロデューサーの人間力なくしては成り立ちませんでした。また、出口の見えない物語を楽しむことを出演者たちと共有するプロデュースワークなど、佐野プロデューサーのクリエイティビティが実に細部まで行きわたっていたことを聞き、あらためて「カルテット」のクオリティに納得しました。
60分のトークと30分の質疑応答で、今後のドラマ界を牽引するであろう佐野プロデューサーの生の声が聞くことができる貴重な機会となりました。話題はさらに制作者が体感するドラマの評価と視聴率のバランス、ドラマコンテンツの可能性としての海外展開など多岐におよびました。佐野プロデューサーがソウルドラマアウォードで体験した海外ドラマの現状に対し、放送局が海外にドラマあるいはリメイク権を展開していく道筋などについても質問が出され、来場者たちのコンテンツ展開に対する興味の高さがうかがえました。今回もVIPO(映像産業振興機構)にご協力いただきました。会場の提供をはじめ、VIPOの告知により幅広い層からご来場いただき充実した内容のPカフェとなりました。
木曜ミステリー『遺留捜査』
「遺留捜査」は、2011年東日本大震災の一ヶ月後に初回が放送されました。それから8年の間に、上川隆也さん演じる主人公の糸村は、警視庁本庁~月島中央署~京都府警とその所属を変え、そのたびに新しい仲間と事件の捜査をしてきました。今年の仲間も、栗山千明さん、永井大さん、梶原善さん、甲本雅裕さん、戸田恵子さんという素晴らしい方々です。
このドラマは刑事ドラマなのですが、主人公の刑事・糸村は、名推理で事件のナゾを解くわけでもなく、捜査を指揮してあふれる正義感を振りかざすわけでもありません。刑事でありながら捜査を二の次にして、現場に残された遺留品から、死者の無念や誰かに伝えられなかった思いを探り出し、伝えるべき人にそれを伝えるのが糸村の役割です。
糸村の解き明かす真実に乗せて、ラストシーンに流れる小田和正さんの歌は、その楽曲の素晴らしさも相まって、涙なしには見られないと毎年大好評です。
撮影は、夏の京都。イイ感じに蒸し風呂となったセットでは、効いているのかわからないクーラーがフル稼働している中、現場はいつも緊張感に包まれています。というのも刑事たちの捜査会議のシーンは長回しが多く、皆さん結構な分量のセリフを言わなければならないからです。監督のカットがかかり、OKが出ると、一気にその緊張が弛緩します。
そしてロケに出ると、「遺留捜査」を知っている人の数に驚きます。遠くから「あれ。糸村さんよ」という声を聞くと、8年もの間、継続してきた作品であることを実感します。
シリーズを重ねていくと、だんだん型のようなものが出来てきて、脚本をいつのまにかその型にはめようとしてしまうことがあります。例えばこのドラマも「ラストには必ず感動が用意されている」という型が出来つつありますが、今年はそういった型を破ることにも挑戦していきたいと考えています。「遺留捜査」は、主人公が事件を解かないだけで、決してミステリーを放棄したわけではありません。糸村以外の刑事たちは、難事件に向き合い、そして意外な真犯人にたどり着く。そこの謎解きの面白さを我々は常に意識して制作しています。ミステリーと感動。一粒で二度おいしい刑事ドラマを目指して、「遺留捜査」は8年目を迎えました! 宜しければ木曜の夜に、ぜひご覧ください!
渋谷駅から徒歩8分。早朝、酔っ払いとカラスを横目にセンター街を抜け、東急ハンズを過ぎたところに、私が助監督時代、7年間通った「渋谷ビデオスタジオ」がありました。2000年に入社して以来、夢溢れる20代の半分の時間は、間違いなくそこ渋スタで過ごしたでしょう。4F奥廊下のソファで起床、2STの演者用シャワーを拝借、現場で汗をかき、「ハムカツ卵のせ」を3分で頬張って、また現場へ。収録後は2Fの踊り場で美術部と一杯。それを約3万時間!
熱意、ユーモア、要領。それが現場で生き残る術と、自分を奮いたたせていましたが、肉体的、精神的に負荷の多い仕事です。今日でいうならば、ブラック。荒んだ時もありました。今の助監督さんたちには本当に感謝です。
新人時代を乗り越えられた要因は二つ。先輩・同僚に恵まれたこと、ドラマ作りにプラスな環境であったことです。当時は先輩や同僚と作品についてよく語り合いました。半ば強引に飲みに連れて行かれたり、逆に連れて行きました。また、渋スタから一歩踏み出せば、そこには生き生きとした街があり、トレンドや同年代の息吹を感じ、常に自分をアップデートできたことがドラマ制作にプラスに働いていたと思います。
収録の現場が湾岸スタジオになり10年。セットの規模は大きくなり、表現の幅は飛躍的に広がりました。現在携わる「グッド・ドクター」も素晴らしい病院のセットが建てられ、渋スタ時代と変わらず、スタッフが日々忙しく働いています。時間に追われがちではありますが、私も新人時代を思い出し、熱意とユーモアをもって要領よく、「時代に追われる仕事」を志したいと思います。
渋スタ跡地には「アベマ・タワーズ」が建つそうです。近々、スタッフと一緒に視察(飲み)に行き、麓でゆっくり語り合いたいです。
今年もアウォードのための投票をお願いすることになりました。
協会報に同封されたハガキに投票し、締切までにぜひご返送下さい。
「2019年度協会会員手帳」の編集が始まります。
掲載事項変更希望の方は8月末日までに事務局へご連絡下さい。
一般社団法人 映画産業団体連合会が毎年開催する「映画の日」では永年勤続功労表彰行事が行われます。
表彰者の資格は原則として直接映画関連事業に関与され40年以上勤務し(1978年12月1日以前より従事)現在もなお現役として活躍されている方です。自薦、他薦を問いませんので該当される方は協会へお知らせ願います。ご本人に指定の調書を作成していただき当協会より資格審査会に提出し表彰が決定されます。当協会への調書提出の締切は8月20日です。