先頃、総務省が発表した2016年度の日本の放送コンテンツの海外輸出高は前年の288億円から大幅に伸びて393億円になったとしております。
更に、この発表には注釈がついており「統計上これまでの調査形式を踏襲してきたが、この数年はメディア環境も大きく変化し、新たな要素も参入すると暫定的な数値は515億円である」とし、2020年度達成を目標としてきた500億円を既に凌駕しており、今後調査方法を複数年かけて整理する予定と書かれております。
国内でもネットフリックス、アマゾン、hulu、AbemaTV、dtv等配信事業者が次々登場、ドラマへのニーズは大幅に拡大してきました。当然、海外でも配信による日本のコンテンツの引き合いは増え続けております。いかに技術が進歩して、メディア環境が変化しても商品の主役はコンテンツであることに変わりはなく、その主力を担うのはアニメと並んでドラマであることは各種のデータが示しています。
昨年の東京ドラマアウォードで海外作品特別賞としてトルコの制作会社を招待、トルコ版「mother」を表彰したことを覚えていらっしゃる方も多いと思います。そもそもこの作品は2010年の東京ドラマアウォードの優秀賞を獲得したNTVの「mother」のリメイク版です。この作品を視聴し高く評価したトルコの制作会社がNTVに申し入れ、原著作者である脚本の坂元裕二氏、演出の水田伸生氏、プロデューサーの次屋尚氏とコンタクトをとり長時間かけて協議、原作の意図を壊さぬ形でリメイクすることで合意、制作されました。なぜリメイクかということに疑問を持つ方もいらっしゃると思いますが日本のドラマが売りにくい最大のネックは海外では20話から30話が常識である連続ドラマが日本では大半がご存知の通り10~12本であることです。話数を増やすこととローカライズなど言葉の壁を打ち破る方法として、この方式も一つの日本のドラマの海外進出への有効手段だと考えられます。このトルコ版「mother」はトルコ国内では最高視聴率を獲得、欧州など10数か国を超えて放送され、更にその数は増え続けています。そして、引き続き同じスタッフで制作された「Woman」のリメイクも大ヒットしているということです。
今年3月にトルコのイスタンブールで「日本・トルコ放送コンテンツ・パートナーシップ・ミッション」というイベントが開かれて、日本からは当協会の山田良明副会長をはじめ放送各社の番組販売担当者が多数参加しました。意外と知られていないことですがテレビドラマのアメリカに次ぐ輸出国はトルコなのです。
ちょうど、ボスボラス海峡を挟んで西欧とアジアが同居するトルコは双方の文化が混在するという特異性があり、映像制作技術も高く企画さえよければ世界各国で受け入れやすい作品をつくるのに適しているようです。
ただ、ドラマの企画力となると、今ひとつ世界に出せる作品を生み出す能力にかけていたようで、アジアではこれまで韓国、中国の作品のリメイクを中心に行ってきたようですが、日本の作品がリメイクできるなら、そのレベルの高さから今後大いに協力関係を作りたいとトルコ側と日本の総務省で立ち上げられたのが今回の会議です。この結果10数本の作品のリメイクが決まったと聞いています。勿論、すべてがヒットするわけもありませんから、どれだけの作品が結果を残すかわかりませんが、ただ作品の輸出だけでなく、共同制作、リメイク、フォーマットライツと日本のドラマを活性化させる手段は数多くなりました。
トルコに限らず、最近では日本のドラマを見直す動きが世界のあちこちで起きています。毎年「継続こそ力」と言い続けていますが自分たちの作品に自信があるなら、国内だけに満足することなく、制作者は発想を広く持ち、海外でも十分通用するドラマ作りに励み、日本のドラマの素晴らしさを作品でもって示していかなければならないでしょう。
あの是枝監督も深夜の放送番組からスタートし、その後も自分の身の回りに起こる小さな出来事にもその本質を考える問題意識をもって、世界的に普遍性のあるテーマを探し続けてパルムドールに辿りつきました。
この一年、数多く制作された作品の中にもきらりと光る「日本のドラマの星」となる作品が多くあると思います。今後も会員の皆さまのご協力をお願い申し上げます。
今年で14回目を迎える若手俳優の登竜門「アクターズセミナー賞選定オーディション2018」開催のご案内です。
富山省吾副会長を審査委員長とし各社審査員、映像産業振興機構(VIPO)「ndjc若手監督作家育成プロジェクト」のndjc若手監督ならび担当プロデューサーの方々に参加して頂き昨年同様の開催です。また今年は、TBS平野俊一監督でのワークショップです。
昨年は、130名を超える応募があり、アクターズセミナー参加者の中から6名が「ndjc若手監督作家育成プロジェクト」作品に出演して評価を受けました。今年はさらに多くの応募者と出演者が出ることを期待しております。
アクターズセミナーの最大の売りは、若手俳優たちが映画・テレビドラマのプロデューサーと直接対話し、自分を売り込むことが出来るイベントです。プロデューサーたちが俳優にどのような考えを持っているか、どのようにキャスティングしているかを若手俳優自身が肌で感じることができ、自分がどのようにプロデューサーから見られたかを認識し、俳優とは何かを感じとる場になると思われます。勿論、プロデューサーにとっても魅力ある若手俳優の発掘の場でもあります。
開催にあたり、審査員のご選出ならび協会員皆様の温かいご支援ご協力をお願い申し上げます。
日 時/10月22日(月)
10:30~17:30(受付10時開始)
会 場/映像産業振興機構(VIPO) ・東京都中央区築地4−1−1東劇ビル2Fホール
参加費/5000円
定 員/50名 18歳以上
(書類審査あり)
実施プログラム
受付開始/10:00
①第一部「ワークショップ」
10:30~12:30
講師/平野俊一(TBSテレビ制作局ドラマ制作部部次長)
テレビ朝日総合編成局
ドラマ制作部
プロデューサー
②第二部〈アクターズセミナー賞選定オーディション〉
13:00~16:00
一人2分30秒以内で自己表現
③第三部〈出会いの広場〉
16:00~17:00
参加者とプロデューサー、監督との交流
④第四部〈結果発表・総評〉
17:00~17:30
優秀者には2月に開催される「エランドール賞パーティー」の会場において賞状、ヒラタ基金より副賞のトロフィーが授与されます。なお詳細は参加応募用紙をご覧ください。
テレビ東京開局55周年特別企画
ドラマスペシャル『Aではない君と』
撮影も佳境を迎えた頃、現場でとても印象的な出来事がありました。佐藤浩市さん演じる父親に対し、息子役の杉田雷麟君が初めて自分の想いを吐露する大切なシーンでのことです。杉田君は、気負いもあったのか感情を剥き出しにする芝居がうまくこなせず、現場には不穏な空気が漂い始めました。ひとまず食事休憩を挟むことにしたのですが、そんな中、佐藤さんが杉田君にこう声を掛けたのです。「俺の経験でいうと、こういう時は何も食わない方がいい。飯は食うな。俺も食べないから」と。僕はその心遣いに驚きました。とかく人間関係が希薄となった現代にあって、それは紛れもなく人生の先輩から後輩へバトンを手渡す……そんな希有な瞬間でした。僕には二人の姿がまさに父と子のように思え、この作品の成功を確信したのです。
この作品とは、薬丸岳さん著の話題作『Aではない君と』を、脚本に山本むつみさん、監督には『アンナチュラル』等で今注目の塚原あゆ子さんを迎え、初映像化に挑んだスペシャルドラマのことです。息子が殺人容疑で逮捕されたことをきっかけに、父と子が改めて向き合い、事件の『真相』へと迫ってゆくヒューマンサスペンスで、共演に天海祐希さん、山﨑努さんを始め演技巧者をずらりと揃えた野心作となっています。
原作が持つ深いテーマを大切にし、「少年犯罪」「加害者と被害者双方の苦しみ」「贖罪のあり方」など……重厚かつ答えのない問いに正面から取り組んだつもりです。
正直、今どきのテレビには似合わない内容ですし、普通なら通らない企画だと思います。構想から2年半余り、豪華なキャストと制作陣を得て、ようやく実現にこぎ着けました。
台本作りから苦労はありましたが、撮影も大変でした。生身の人間が演じる訳ですから机上の通りにいかないこともあります。
何よりキャストの皆さんの熱量がすごく、ひとつひとつの台詞を大切にし、みんなが納得するまで話し合い、それでも足らずに電話でギリギリまでやり取りすることもあって、「面倒」は尽きませんでした。でも、その面倒はとても幸せな時間でもありました。キャスト・スタッフ全員の真摯な想いは画面を通して絶対に伝わるものと信じています。
ちなみに、冒頭に紹介した撮影シーンは何とか無事に終わりました。二人の激闘ぶりをぜひご覧頂きたいと思います。僕もメシ抜きだったのは言うまでもありません(笑)。
『突っ込め‼』『引け‼』そんな怒号の中、私の新人時代は始まりました。
映画の仕事がしたくて、学生時代からどうにか撮影現場に入れないか模索している中、縁あって参加させて戴いたのが、竹中直人監督作品『連弾』でした。立場は見習い助監督。しかもいきなりカチンコを叩けと言われたのです。
思えば画角もレンズのミリ数も何も分からない人間に、取り敢えずやってみろと言った当時の助監督の先輩の度胸には今ではとても感謝しております。
がむしゃらに食らいつき、録音部、照明部からはカチンコを入れる場所で怒られる続ける毎日。ロケ弁も喉を通らず、撮影が終わってからは近くの河原で何度もカチンコ練習をしていました。そんな日々の中、毎日のようにスタッフの皆さんからの厳しくも優しい叱咤激励に何度も救われたのを覚えております。
撮影最終日、カメラマンから『カメラ覗いて見ろよ』と言われ、生まれて初めてファインダーの中を覗かせて頂いた時の感動は、今でもはっきりと覚えております。スタッフ、キャスト全員で作り上げた空間を覗かせてもらった刺激が脳天を突き抜けました。そんな初現場も『これにて竹中組、"連弾"オールアップです‼』の声を聞いた時、何故か涙が止まりませんでした。
見習い助監督から始まった映画人生が、今もこうして続けられているのは、あの時覗かせて頂いたファイダーの先に見えた世界と全員で作品を作り上げる一体感。感動を味わったからです。あの時の気持ちをいつまでも忘れず持ち続けていきたいと思います。