会報

2020.05.01

会報

No.480 2020年 5,6月号

『ドラマの時代考証について』

大森洋平

ドラマの時代考証とは何でしょうか? セット・衣裳・大小道具等々を、その時代に合った形にして、作品にリアリティを持たせる作業です。
NHKでの私の仕事の第一は、台本を通読、歴史的におかしな点、辻褄が合わない事等をリストアップし、どう修正すべきか所見を添えた「考証メモ」を作成、プロデューサー、演出、美術スタッフ達に提出することです。そして大河ドラマでは、歴史や風俗研究等の専門家も加わって、内容をよりブラッシュアップする「考証会議」に参加もします。 これらを経て決定台本が出来上がると、番組収録が始まります。すると今度はスタジオからの質問に答えたり、ロケに同行、現場対応したり、完成試写を見て今後改善すべき点を述べたりします。さらに視聴者の質問に答え、妙なクレームには断固反駁もします。
さて、NHKの場合、大河ドラマでの半世紀以上の蓄積もありますから、大小道具や衣裳等の「時代劇ハードウェア」は高水準のものが揃っています。しかし最近は、台詞や所作といった「ソフトウェア」に、その時代にそぐわない変なものが混入することが多くなってきました。これは、時代劇の制作本数が減って、それを専門にする脚本家が少なくなったことが大きな原因です。
例えば「立ち上げる」という言葉、これは本来九〇年代の初めから使われ出したパソコン用語ですが、江戸人の台詞にまで出てくるので適宜「作る、設ける、興す」等と直します。「サボってはならぬぞ」なんて恐るべき例もあり「怠ってはならぬぞ」としました。
また「時代劇では馬は右側から乗り降りする」といった約束事を周知したりもします。これらは日本史の先生方でも手が届きかねるので、ほとんど私が引き受けています。とにかく「おかしなものを出さないこと」が究極の極意なのです。
ところで、時代考証の対象は、もはや江戸時代に留まりません。戦前・昭和期ドラマまでも今やその範囲内となり、むしろこちらの方に大きな問題が生じています。
時代劇ならば、日本家屋の知識や武術の心得、日舞の所作等を弁えていればドラマ空間は何とか築けますが、戦前社会の再現にはそういう「拠るべき枠」がありません。その時代を知っているスタッフがいた頃は自然に作れたものが、終戦から七五年が過ぎて「大真空地帯」となり、その結果、思考や言動が現代の価値観のままの登場人物が増大しました。チャンバラと違って、洋服を着た人間が動き回る世界ですから、どうしても現代との違いへの注意が疎かになりがちですが、放置しては胡散臭いドラマが出来上がるだけです。
これらが端的に表れるのは、軍隊や戦史上の描写です。戦後ずっと軍事はタブー視されてきました。しかし「そんなことはよく知らなくても支障はない! 平和の大切ささえアピールできれば十分だ」は大間違いです。人間が普遍的に持っている自由の希求、平和への願いを「その時代の人なら、どんな歴史的制限のもと、どんな言葉や行動で表現するだろう?」を物語の上で考えるべきなのに、そこがまるで無頓着になりつつあります。これでは本当の感動が高まるわけがありません。
ではその対処法は?「戦争経験者の話を直接聞いて育った世代」としては、それらを知識の形で現場に供給する努力を怠らぬことです。レクチャーや、聞書資料、ブックレポート、シネガイド等の配布は常にしています。さらに昨年は、「大正期から終戦までのドラマに登場する陸軍軍人の、年代別衣裳小道具所作注意点」というリストも自主的に作成しました。興味を持たれた方は、御連絡下されば進呈します。ことはNHKに限らず、映画テレビ界全体の問題と思うからです。
また、日本映画テレビプロデューサー協会には、八〇年代に制作された「日本の陸軍・昭和編」という非常に優れたスタッフ向けビデオ教材がありますが、これも今こそ積極的に公開していくべきではないでしょうか。
現場の若手にはよくこういう話をします。「パンダを一度も見たことない奴が、パンダの塗り絵を手に入れた。それを勝手な色で塗って、これ又パンダを見たこともない連中に見せると、一同『綺麗だ。感動的だ。素晴らしい!』と拍手喝采した。これは最も恥ずかしいことだ」昨今の戦前・戦中ドラマは、このたとえ話に確実に近付いています。 私は父が学徒出陣で戦争に行き、生還したから自分が存在する、という意識が強くあるので、あの戦争がいい加減に描写されると殊更憤りを覚えます。これから何年この仕事を続けられるかわかりませんが、「パンダ塗り絵的ドラマ世界」だけは到来しないよう、時代考証担当者の立場で微力を尽くしたいと思っています。

◎略歴

NHK制作局 シニア・ディレクター
一九五九年東京生まれ 東北大学文学部卒業(西洋史専攻)。
八三年NHK入局 古典芸能番組、教養番組等の制作を経て、九九年よりドラマ、ドキュメンタリーの時代考証を担当。
著書/「考証要集」「考証要集2」(文春文庫)



只今撮影中

東映 テレビ企画制作部 シニアプロデューサー 金丸 哲也

「特捜9」

まずこの場を借りて新型コロナウイルスの感染拡大防止、治療に務められている医療従事者の方々に心から感謝申し上げます。
「いい顔になった。だれかさんに似てきたんじゃないか?」これは『特捜9』シーズン3の主演である井ノ原快彦さんにベテラン鑑識役の伊東四朗さんがその回の最後に言う台詞です。『特捜9』はテレビ朝日で2018年4月11日水曜9時にスタートしました。『特捜9』の前身となったのは渡瀬恒彦さん演じる9係の係長が主人公の『警視庁捜査一課9係』で2006年4月19日にスタートしました。タイトルはさんざん会議で討議した結果、『3年B組金八先生』が金曜8時スタートからつけられたと何かで聞いた事があり、あやかろうと水曜9時放送なので『9係』に決まりました。9係は渡瀬さんと井ノ原さん、羽田美智子さんと津田寛治さん、吹越満さんと田口浩正さんの三組の名コンビが事件を解決して行きます。4シーズン目から監察医に原沙知絵さんが加わりました。視聴率も好調で十周年を迎えるにあたりガイドブックを作る事になりました。渡瀬さんはそのインタビューで「毎年新しいシーズンをやるつもりでやっている」と大仰なことは一切言いませんでしたが、他のメンバーに話が向けられると「10年で、みんないい顔になった」と相好を崩しました。伊東さんにはその時の渡瀬さんの言葉を言ってもらいました。2017年12年目のシーズンの撮影が入った3月、渡瀬さんは癌で亡くなりました。亡くなる直前まで渡瀬さんは入院先の病室の枕元に9係の台本を置いていたそうです。渡瀬さんは内閣テロ対策室に出向している設定でそのシーズンは続き、翌2018年4月、井ノ原さんを主演に9係は『特捜9』とタイトルを変更して再スタートを切ることになりました。9係からバラバラになっていたメンバーが井ノ原さんを中心に警視庁の特別捜査班に再結集します。その班長に就任したのは寺尾聰さんでした。新人刑事役の山田裕貴さんが主任となった井ノ原さんとコンビを組む事になります。そのコンビは渡瀬さんと井ノ原さんのコンビを彷彿させます。羽田さんと津田さん、吹越さんと田口さんは9係からの不動のコンビです。寺尾さんは2シーズン班長を務め上げて井ノ原さんを始めメンバーに「いい顔になった」と笑顔で言って去って行きました。2020年春『特捜9』シーズン3で登場する新班長の中村梅雀さんは着任早々「捜査はしません」とメンバーに宣言します。この言葉の意味するものは何か? 特捜班のメンバーが井ノ原さんを始めどういう「顔」で梅雀さんを迎えるかが今シーズンの最大の見どころです。
一日も早いコロナウイルス感染の収束と全ての撮影が再開される事を祈念いたします。


私の新人時代

テレビ朝日 ドラマ制作部 大江 達樹

入社2年目で初めて助監督を担当したのが月曜ドラマイン「あぶない放課後」という連続ドラマでした。当時、私は全く気の効かない、所謂使えない助監督でしたが、日々何かしら事件が起こる現場をアドレナリンが湧き出るような楽しい思い出だったと記憶しているので、ある意味、向いていたのかも知れません。
ある時は、美トラから段ボール箱を持って飛び出した瞬間、出会い頭におばあさんが運転していたスポーツカーに轢かれて空中を綺麗に一回転してしまいました。膝を激しく擦りむきましたが、皆の目の前で轢かれた気まずさから、すぐに立ち上がり、おばあさんに「すみません! 大丈夫ですので早く行ってください!」と平身低頭で謝りました。放心状態のおばあさんはずっと口を開けたまま、徐行運転で去っていきました。キャストやスタッフに「車に轢かれて謝ってる人、初めて見た」と笑われたのも今となっては懐かしい思い出です。
またある時は、雨降らしで歩道橋を駆け上がるナイトシーンの撮影で雨の具合を確認するため、フォース助監督の私が代役テストで走ることになりました。何かやらなきゃ! と思った私は何も思いつかなかったので「よーい」の声とともにとりあえず服を脱ぎ、パンツ一丁になり全力で走りました。照明が徐々にあたって姿が見えてくるカットだったのですが、階段を駆け上がってる途中でベースの方からドッと大爆笑が聞こえ、心の中で「勝った」と思い、笑みを噛み殺しながら走りました。
まだまだ思い出深いエピソードがいっぱいあるのですが、ここでは書けない事も多く、それはまたの機会に取っておきます。でも、実は話せない事の方が面白かったりするのですが(笑)。助監督時代は、そんな辛いけど楽しい日々の連続であり、貴重な体験の連続でした。今でも辛そうで静かな助監督を見ると、もっと楽しめばいいのに、と思ってしまいます。なんてことを思ってしまうのも、僕もオッサンになった証拠だな…


事務局だより

◎退会

   青木泰憲 (E・WOWOW)   井上 衛 (E・WOWOW)  小西真人 (E・WOWOW)

総会のご案内

第44回通常会員総会を左記により開催予定です。

日時/2020年6月18日(木曜)
   17時30分総会開会予定

会場/東映本社8階会議室
(東京都中央区銀座3−2−17)


第68回 プロデューサー協会

親睦ゴルフ会は中止になりました。
親睦委員会


◎近々Facebookページを立ち上げます、奮ってご参加ください。

◎協会報7月号はお休みします。



インフォメーション

◎会議の記録

  • 5月12日(火) 親睦委員会 中止
  • 5月12日(火) 会報委員会 電話会議
  • 5月21日(木) 第8回定例理事会は開催せず、「電磁的書面による理事会」に代えて行う。

◎会議の予定

  • 6月18日(木) 17時00分~第9回定例理事会
    終了後、総会開催予定(東映本社)

◎事務局異動情報

  • 一井 久司 / 事務局長  2020年4月末日をもって休職
  • 打越 利香 / 事務局次長 2020年4月末日をもって定年退職
  • 田口ゆかり / 事務局次長 2020年5月1日より新任

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