会報

2021.10.13

会報

No.491 2021年 10月号

会員以外のアーティストやスタッフの方々にご寄稿いただく不定期のシリーズ、
今回は劇作家・演出家・映像作家の加藤拓也さんにご執筆いただきました。

物語に社会的な責任はあるのか、という話

加藤 拓也


物語の役割は時代と共に変化している。巷でよく話題にあがる大きな物語、小さな物語などは、この変化について説明のしやすい単語である。
神の怒りを鎮めて津波や嵐を防ぐ為に存在した大きな物語は、見えないものを信じ、物語世界を強く信じる事で自分達のリアルな生活を救う役割を担っていた。しかしいくら信じても津波も嵐も、地震だってやってくる。
時代の進歩と共に見えないものを信じても生活は救われないという事を学習し、祈るより天気予報を見たり、耐震強度の高い家に住んでいる方が生活を守る確率はぐっと高くなった。
こうして大きな物語を信じる非効率さが浸透すると、今度は我々の生活の延長線上に存在する小さな物語の方が課題を解決するヒントを得たり、気持ちや言葉を得たりする方が生活に役立つようになり、役に立たないものは信じられないようになってしまい大きな物語が信じられなくなっていってしまった。

と仮説ではあるが、物語のコンテクストはそんな感じではないかと考えている。大きな物語はあくまでも空想の物語、現在では娯楽としての消費しか役割を担えていないように見え、そして消費が進んだ結果、今度は物語すら追う必要は無くなり、要点をまとめたものが一番役に立つようになる。つまりYouTubeでのファスト映画であり、まとめサイトであり、5分のドラマ動画である。そもそもだが2時間のものを5分でまとめられるなら摂取する側に物語なんて必要はない。
コラムで十分である。テーマの為に物語が在るのか、は別の問いとして、テーマを伝える為に物語を書くらいならコラムの方がよっぽど、且つ純度高く伝わるのじゃないかと思う。今では誰だってネットに記事をあげられるし、動画だってあげられる。
無名有名は関係なく、同じ方向を向く人に見つかりさえすればあっという間に拡散されよく伝わる。5分で面白く読めて役に立つ、効率良く人生を豊かにする知識の摂取ができる。効率良く暇を潰せる事が評価される中で、自分で書いておきながら虚しくなる程に物語は効率が悪い。
この時代で物語は役割をどう見出していくのか、今どのような役割を担っているのか、私にとって劇を書く度、上演する度に頭に浮かんでは消えを繰り返すゴミカス邪魔問いである。良いか悪いかわからないが、誰かの役に立つような物語を作るのはやめようという時は出来が良く、誰かの役に立とうとした時は大抵うんちになる。

これは数学者の岡潔の言葉だが、「私は数学なんかして人類にどういう利益があるのだと問う人に対しては、スミレはただスミレのように咲けばよいのであって、そのことが春の野にどのような影響があろうとなかろうとスミレのあずかり知らないことだと答えてきた」という言葉がある。解釈も様々ではあるが、私は物語も、つまるところ芸術に関するものはこれに所属するのでは無いかと思う。
インタビューで作品についてよく聞かれるが、それは場当たり的な自己確立でしかない。自分の気持ちにあるわけのない客観的な価値を、場当たり的につけねばならなくなる事に違和感があるのだ。

しかしまた、物語に役割を背負わせないという主観性による創造を唱えると、今度は客観性が無いと否定されてしまう風潮が強くあると思う。主観性を絶対に否定したい自称客観性勢が居るのだ。
この世界には完全な客観性というものは存在しないのに、存在しない客観性を絶対化し、そして匿名化させてしまっていて、客観性ばかりが権力を持つようになる。客観性による暴力である。そうしてまた物語はとことん多角的な役割を背負わされてしまう。多角的な役割とは、本来芸術が持つ存在の開かれを遠ざけて社会的意義のみの面を指す。言い換えると、観客には見せられたい客と、見たい客が居る。同様に作る側にも見せたい作り手と見たい作り手が居ると考えている。
これには相性があり、見せたい作り手は見せられたい客と、見たい作り手は見たい客と相性が良いと考えている。見せられたい客は何を見せてくれるのかと作り手に迫るが、見たい作り手に当たると見たいが故に作っているので、見せたいわけでは無いから当然合わないし、反対も然り。ちなみにこれはどちらが良いとか偉いとかの話でもない。作り手の初期衝動はなんでも構わない。主観性とはその程度の話であるからだ。そうこう考えていると世の中には一体どれだけの純粋な物語というものが存在するのか、という疑問が生まれる。考えは堂々巡りである。そしてこれまた他人の言葉であるが、堂々巡りとは横から見た螺旋階段なのである。

そんな事は知っておる、という事を自分でも書いているが、知っているという事は実は知らなかった、という事である。知っている事を見る事はとてつもなく重要で効率の悪い作業だ。そしてもしこの記事が物語だったらどんな物語になるのかと思いながら、記事であるべくして記事を書いている。終わります。


東京ドラマアウォード2021授賞式

事務局長 市川 哲夫

会員の皆様には、各賞一次審査の為の投票をはじめ、ローカルドラマ賞審査などで多大なご協力をいただいております。
これまで、授賞式には本会会員の多くの皆様にもご出席いただいておりましたが、コロナ感染予防のため、昨年同様に無観客、プレスのみで授賞式は縮小して行われます。

※例年実施して来た、シンポジウムは今年は行わない。
※本件に関するお問い合わせは(一社)国際ドラマフェスティバル協議会(Tel.03-5213-8038)まで

只今撮影中

東映株式会社 テレビ企画制作部
中尾 亜由子

ドラマ「科捜研の女」Season21

今年の台本は、スタッフに不評だ。
正確に言うと「台本の表紙」である。毎年入っている「話数表記」(「第1話」「第2話」など)がない。複数回の撮影を同時進行するのが常であるテレビシリーズの撮影では、話数表記のない台本に「どの回の台本なのか、ぱっと見てわからんやんか」と文句が出るのも当然だ。これにはわけがある。テレビドラマ「科捜研の女」新シーズンの撮影が始まったのは今年の6月だが、それ以前に撮影した「科捜研の女-劇場版-」の封切りを9月に控えていた。
10月クールにテレビシリーズを放送することが世間に知れると、「1か月待てばどうせテレビでやるし、わざわざ映画館で観なくてもいいか」と思われるかもしれない。なので、6月にテレビシリーズのロケ風景を目撃した人には、「劇場版の撮影をぎりぎりまでやっているのかな」と思っていただこう。そんな苦肉の策に出た。だから「第1話」などテレビドラマを思わせる表記はご法度、さらに裏表紙には「劇場版9月3日公開」と思わせぶりに入っている詐欺台本を手に、我々は密かにテレビシリーズの撮影を続けたのである。
ミステリー番組の作り手ながらなかなか苦しいトリックだが、テレビシリーズの放送決定が、映画の初日まで世間に漏れなかったのは、使いづらい台本でがまんしてくれたスタッフ・キャストと、ロケを見かけてもいたずらにツイートしなかった京都市民の良心に感謝するところである。
ただ、台本の中身には自信がある。20年をこえる番組の歴史の中で、多くのスタッフが育ち、世代交代も進んだ。今や平成生まれのスタッフも珍しくない。そんな若者たちに「このシーンめっちゃうけるんですけど」などと言われると悪い気はしない。そしてそんな彼らも誰もが一流の職人だ。
被害者の口腔内に付着した犯人の皮膚片や、それを採取しやすいピンセットや、成傷器の形状と矛盾のない傷跡に、命を燃やしている。一流コメディエンヌ・沢口靖子さんの進化もとまらない。今年は鑑定のために(!)「横綱盛り」と称した大盛ラーメンを完食するシーンを撮影した。毎朝お白湯を飲むのが日課、行きつけのお店はおばんざいやさんという、いかにもラーメンに縁遠い沢口さん。麺を豪快にすするカットを重ねたい監督に、相談が始まる。
「麺じゃなくて、メンマを食べるのはどうかしら?」「いえ、麺でお願いします」「もやしもあっていいわよね?」「いえ、麺でお願いします」「チャーシューは」「いえ、麺でお願いします」。助監督時代から「科捜研育ち」の監督はゆずらない。
その熱意をくんだ沢口さん、覚悟を決めるのは早い。世にも美しく大量の麺をすすり、「美味しかったです」と微笑んで現場を後にした。このエピソードが何話のものだったか、いかんせん台本に話数が書いていないのでわからないが、とにかく台本以上のものができてしまった。「科捜研の女」新シリーズ、10月14日よる8時スタートです。


私の新人時代

日本テレビ 情報・制作局
荻野 哲弘

1993年(平成5年)。開幕したばかりのJリーグ人気にあやかり企画された金曜20時の連続ドラマ『もうひとつのJリーグ』の新米APとして、サッカー経験者だった私は河口湖のグラウンドでひたむきにボールを蹴っていました(タイトルバックのボールを蹴る足は私のものでした!)。
ところが、視聴率不振でドラマは5話で打ち切り。あまりのショックに会社から提案された次の仕事をお断りし、半ば強制的に決められたのが、土曜グランド劇場『家なき子』のサードADでした。 「日本一のディレクターになる!」と意気込んでいた私は、初めてのAD業務にアドレナリンだだ漏れ状態。初回のペラ原に、安達祐実さん演じる主人公・すずが、月謝袋を盗み警察官に取り調べを受けると、いきなり自分のパンツを下ろし警察官に悪戯されたと泣き出す場面があり、24歳だった私は納得できず、大先輩Dに「主人公がこんなことをするのは良くないんじゃないですか?」と食って掛かったのです。その時、「君の好きな映画は?」と苦笑いで問われ、加藤泰監督の『沓掛時次郎 遊侠一匹』と答えたのがきっかけで、〝時次郎〟というありがたい(?)ニックネームを頂戴しました。
また、収録が終わると毎晩、スタッフルームからビールを持ち出しいそいそと装飾部の元へ。小道具の確認と称しお酒を浴び続けた結果、あえなくダウン。病院から帰宅すると、留守電が……再生すると、「時次郎さん、大丈夫ですか?」という安達さんの優しい声が!(勿論、大先輩Dの温かいご配慮だったのですが 笑)
そんな生意気かつおバカな日々を送る中、『家なき子』の視聴率は鰻登りに上昇し、ロケ現場のギャラリーも日を追うごとに増えていきました。そして、打上げの景品もゴージャスで……。前作で満足な打上げもできなかったことが嘘のような光景に、テレビにおける視聴率の意味を思い知った……そんな〝24の春〟でした。


事務局だより

◎正会員入会

丸山 真哉(東映)
中込 卓也(テレビ朝日)
長谷 知記(NHK)
服部 宣之(テレビ朝日)

◎退会

出水 有三(NHK大阪)
諏訪部 章夫(NEP)
城谷 厚司(NEP)
銭谷 雅義(NEP)
船津 浩一(テレビ朝日)
西山 隆一(テレビ朝日)
名倉 正典(アイエス)
鯉渕 哲彦(アイエス)
小川 勇樹(日本映画放送)
澤  尚志(日本映画放送)

◎訃報

片岡 政義
特別功労会員 元テレビ朝日
2021年8月21日逝去 享年91歳


第71回 協会親睦ゴルフ会のお知らせ

《日時》2021年11月27日(土曜)
    9時17分アウトスタート(5組予定)
《場所》越生ゴルフクラブ
《会費》22,000円予定
    (プレー費、パーティー費、賞品代含む)
《締切》11月15日(月曜)まで


インフォメーション

◎会議の記録

  • 8月30日(月) 16時~   ローカル・ドラマ賞審査(プロデューサー協会事務局)
  • 9月21日(火) 17時~   会報委員会(リモート)
  • 9月22日(水) 18時30分~第3回定例理事会(東映本社8階会議室)
  • 9月27日(月) 18時~   第1回エランドール賞委員会(リモート)

◎会議の予定

  • 10月29日(金) 18時30分~  第4回定例理事会(東映本社8階会議室)
  • 10月27日(水) 18時30分~  東京ドラマアウォード授賞式については、2面参照

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