会報

2022.11.02

会報

No.500 2022年 10月号

映像文化の未来のために

映画監督 是枝 裕和

 当会の会報へ連帯のメッセージを寄稿して欲しいと⽇本映画テレビプロデューサー協会から原稿の依頼を受け、締め切りを4⽇ほど過ぎた、本⽇は10⽉3⽇、ただいま早朝5時である。本⽇午後には映画監督達が中⼼になって6⽉に⽴ち上げたA4C(アクションフォーシネマ)のメンバー達と奥⽥会⻑の元へ、会⽴ち上げの報告に伺う予定である。原稿を、この記念すべき⽇に書いているのはしかし、単純に私の怠慢の故であって、何かの⽬論⾒があってのことではない。A4Cは、「⽇本版CNCの設⽴を求める会」というのが正式な名称で、⽂字通りフランスにあるこの国⽴映画映像センターに似た仕組みを⽇本の映像産業、⽂化に求める為に関係各所に設⽴を働きかける活動をしている。CNCとは何ぞやということをここで説明しているとあっという間に紙⾯が埋まってしまうので割愛するが、⼀般的には読み⽅もよくわからないこの組織の⽬的を⼀⾔で⾔うと、「映画産業の持続可能性と映像⽂化の多様性を守り次世代に受け渡そう」ということになる。具体的に書くとまずは労働環境の改善、若い監督、スタッフの⼈材育成、ミニシアターの存続、と⾔ったところだろうか。
 今からここに書く本家CNC設⽴の経緯を読まれた会の⽅々が、この私の⽂章を連帯を求めるメッセージと受け取って頂けるかどうかは定かではないが、とりあえず正直に書いてみたい。上記の⽬的を達成する為に私たちは様々な業界関係者や、省庁の⽅々とミーティングを重ねているわけであるが、新しい組織を作るにあたり必要になるのは財源である。本家のフランスではここに映画館のチケット売り上げの10%強を、CNCをモデルに作られた韓国のKOFICは3%を当てている。この2つをモデルにした私たちの構想でもやはり興⾏収⼊の1%を、と映画製作者連盟に働きかけている。興収に⼿をつけるなどと⾔うことは、例え1%でも私たちだけで決められることではないということで、興⾏サイドや、製作委員会を形成する⽅々へのロビー活動を⾏っているところである。本⽇の訪問もその⼀環。1%なら少ないくらいじゃない? と、この会報を読まれながら思われた⽅がいらしたら、是⾮その旨周囲に話していただきたいところなのだけれど、⼀年以上メンバーとヒアリングを重ねてきて驚いたのは、CNCの財源の中⼼を担うのはこのチケットからの還元ではなく、放送局の売り上げからの強制的な徴収であることだった。
 ここまで読んで今、連帯の握⼿の為に出した⼿を引っ込めかけた放送局のプロデューサーの⽅もいらっしゃると思うが、その判断はもう少し読み進めてからにしていただきたい。そもそも、戦後の⽂化復興を⽬的に作られたCNCが、次の映画産業、⽂化への脅威と考えたのが放送局であった。この辺りの意識は⽇本でも同様であったはずであるが、対応は真逆。⽇本は、映画会社が五社協定で所属する⾃社の俳優をテレビには貸し出さないというある種の敵視をしたのに対し、フランスではその存在を認めて⼀緒に発展させていく為に売り上げの⼀部をちょうだいね、と、それこそ「連帯」を呼びかけ、取り込みにかかった。どちらが腹⿊いかは意⾒は分かれるだろうが結果的に先⾒の明があったのが後者であったことは明らかであろう。⼼配しないで頂きたいが、流⽯に今から、放送局の売り上げ全体からの%の徴収を持ち掛けるほど私たちも⾮常識ではない。ないのであるが、興収よりは、まだその⽅が可能性はあるのではないかと思うほど興収の壁は硬く⾼い。
 興収も放送局も駄⽬なので配信の⽅々と「連帯」しよう、と、そう書いてしまうと元も⼦もないのであるが、世界的な傾向を⾒てもヨーロッパではやはり4から10%の率で配信の売上の⼀部を映画界に還元してもらうよう、法改正をし、その代わりにこの成⻑著しい新興勢⼒と「連帯」していくというのがどうやら主流になっているようだ。この辺りの潮流は、わざわざ私なんぞが説明しなくとも、貴会の会議の中でも当然議論されている話題かも知れないが。
 ⽇本はといえば、正直この配信という⿊船(この呼ばれ⽅は好まれないと⽿にするが)の到来によって起きた激震にかなり鈍感な印象を受けている。これは、世界的に⾒ても稀有だ。その、泰然⾃若とも呼ぶべき姿勢が、この先10年20年を⾒越してのものであるならば、私たち監督ごときがとやかく⾔う筋合いではないかも知れないが、恐らくそうではないから厄介である。何とかこの「⿊船」来航を、常にスピード感の乏しい業界改⾰を進める千載⼀遇のチャンスと、いや、ラストチャンスと捉えて、⼀緒に知恵を出し合って頂けたらと、切なる願いを抱いて、本⽇は伺うつもりでいる。


只今撮影中

テレビ朝日コンテンツ編成局
ストーリー制作部
竹園 元

土曜ナイトドラマ「ジャパニーズスタイル」

 20年ほど前、シットコム(シチュエーションコメディ)の本場・米国ロサンゼルスの収録スタジオを訪れました。観客席はまさに人種のるつぼ、老若男女問わずゲラゲラ笑い、皆、満足そうな顔で帰路についていました。英語を理解できず、大勢の客が大笑いしている所でちっとも笑えなかったりもしましたが、その間、セットの様子を見たり、カメラ台数・客席のマイクの数等を数えたりして、「いつか、日本のTVドラマでもこんなドラマを作りたい」と、当時新米ディレクターだった私は夢見ました。帰国後程なくフジテレビで「HR」(脚本・三谷幸喜氏)が放送され「やられたー!」と天を仰いでからは、いつの間にか「こういう企画はいろいろ難しいよね」と諦めていました。
 今回お届けする「ジャパニーズスタイル」というシットコムドラマは、そんな昔の夢を掘り起こして…といったら聞こえは良いですが、実はちょっと順番が違います。ずっとご一緒したかった会話劇の名手・金子茂樹さんにお声がけをしたものの、なかなか良い提案をできずにいた昨年のある朝、ふと「あー、あれがあった。ダメ元で提案してみよう」と思いつきました。「え、シットコムですか? え、お客さん入れるんですか?」金子さんの矢継ぎ早の質問にも、長年の夢なのでこちらも熱く答え、時節柄お客さんを入れられるかはわかりませんでしたが、「必ず企画通します!」と誓ったのでした。その後は、主演の仲野太賀さん始め実力派のキャスト・スタッフが「怖さ半分、楽しみ半分」といった感じでこのチャレンジングな企画に参加してくました。自分もそうですが、コロナ禍で皆さんライブ感のあるモノを渇望していたのかもしれません。
 まさに「ただいま撮影中」。郊外の大きな倉庫を借りて、建てっ放しの日本旅館のセットで日々、稽古と本番を繰り返しています。正味二十数分ですが、お客さんの前で長回しでお芝居を収録するのは、なかなか大変です。特に俳優さんは短期間でセリフを憶えなければならず、相当な負担がかかっており、リハーサルをどれくらいやるか等、試行錯誤は続きます。
 「〈ジャパニーズスタイル〉ってどういう意味ですか?」と金子さんに聞くと、「まぁ、日本旅館だから」とはぐらかされましたが、きっと「新しい日本のシットコムの形」を提示しているのでは? と思っています。舞台とTVドラマの間にあるようなTVエンターテインメント、懐かしくて新しい「ジャパニーズスタイル」、どうぞ楽しんで頂けたら幸いです。


私の新人時代

日本テレビ
櫛山 慶

 【わたしの新人時代】はバラエティ番組との戦いの日々だった。
2009年に入社し、バラエティ番組へ配属。ダメダメなADとして、どうにかこうにか仕事に食らいつき、モノづくりの面白さを知っていった。2011年3月、ようやくADからDになれるチャンスを手にした私は制作意欲に燃えに燃えていた。スタジオに虎を仕込み、赤ちゃんエキストラを10人発注、(今思うとどんな番組なのでしょう…)。VTRチェックのためにスタッフルームを出ようとした瞬間、日本テレビタワーを激しい揺れが襲った…。収録当日に中止を決定。災害報道を見ていると「こんな状況で自分はエンタメを作っていいのか」という無力感に囚われた。
 だが後日、番組出演者が「目の前に死がチラついてる時には、芸術や演芸なんてのはどうだってよくなる。でも、悲しみを乗り越えてこれから立ち上がろうって時に、笑いが役に立つかもしれない」と仰っていた。実際、収録中止となった番組は他局に先駆けて放送再開を決め、視聴者の役に立ったかどうかはわからないが、モノづくりへの背中を押してもらえた気がした。
 月日は流れて2020年、映画『水曜日が消えた』もまたコロナ禍に見舞われた。感染拡大後、すべての映画の劇場公開はなくなり、日本からエンタメは皆無に。『水曜日が消えた』も、一度は公開を延期したが、思い出したのはバラエティ時代の出演者の言葉だった。結果、劇場の皆様・配給会社の皆様の徹底した感染対策のもと、ありがたいことに『水曜日が消えた』は邦画でも非常に早い段階で公開を迎えることができた。この作品を見て、コロナ禍で元気をもらえたというありがたいお言葉も頂いた。
 まだまだ、日本が落ち着いたとは言えないし、今後さらなる未曾有の事態が日本を襲うかもしれない。そんな時は多分また、新人時代に聞いた出演者の言葉を思い出す。
 そして、不急だとしても、決して不要ではない「誰かの役に立つかもしれない作品」を作り続けるのだ。


事務局だより

◎正会員入会

永富 康太郎(日本映画放送)

◎退会

古久保 宏子(松竹)
吉條 英希(日本映画放送)

◎訃報

松本 明(特別功労会員、元朝日放送)2022年7月18日逝去 87歳


第73回プロデューサー協会 親睦ゴルフ会開催のお知らせ

秋の親睦ゴルフ会を次により開催予定です。

《日  時》2022年11月19日(土) 8時45分集合
《競技方法》新ぺリア方式 9時17分アウトコーススタート (5組予定)にて
《場  所》越生ゴルフクラブ
      〒355︱0354 埼玉県比企郡ときがわ町大字番匠61 TEL.0493-65-1141
      関越自動車道鶴ヶ島インター下車15分、東武東上線坂戸駅下車、クラブバスあり
《会  費》22,000円予定(プレー費、パーティー費、賞品代含む)
《締  切》11月2日(水曜)までに返信葉書を投函願います。
     ※初めて参加される方は事務局info@producer.or.jpまでメールにてご連絡下さい。
      新型コロナ感染拡大で、先行き不透明の中での告知です。
      今後も推移を親睦委員会で注視・検討致しますので宜しくお願いします。
      親睦委員会:髙橋、玉川、山本、越智


インフォメーション

◎会合・会議の記録

  • 9月 2日(金) 14時~   ローカル・ドラマ賞審査(事務局会議室)
  • 9月 9日(金) 15時~   DXプロジェクト準備会(事務局隣会議室)
  • 9月20日(火) 18時30分~ 第2回定例理事会(東映本社8階会議室)
  • 9月27日(火) 17時〜   会報委員会(リモート)
  • 9月30日(金) 18時30分~ 第1回エランドール賞委員会(リモート)
  • 10月3日(月) 14時〜   是枝監督ら意見交換の為、来訪。会長、副会長応対(松竹本社)
  • 10月7日(金) 17時30分~ DXプロジェクト第1回会議(東宝本社会議室)

◎会議の予定

  • 10月19日(水) 18時30分~ 第3回定例理事会(東映本社8階会議室)
  • 10月24日(月) 18時30分〜 第2回エランドール賞委員会(リモート)
  • 10月25日(火) 東京ドラマアウォード授賞式 東京プリンスホテル

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