会報

2024.03.15

会報

No.513 2024年 3月号

エランドール賞授賞式をプロデュースする

「プロデューサーの仕事の定義って、何なんだろうね?」。授賞式当日、控室で某プレゼンターから質問を受けた。そのとき私は、20年以上前にハリウッドの映画学校でプロデューサー・コースの講師から聞いた言葉を思い出し、次のように答えた。
「アカデミー賞には、監督賞・主演〇優賞・美術賞・撮影賞…などなど多数の賞がある。しかし、プロデューサー賞は存在しない」「ただし、最も栄誉ある『作品賞』のオスカー像を受け取るのはプロデューサーであり、プロデューサーは、それにふさわしい仕事をしている」と。
某プレゼンターには、続けて私の解釈も伝えた。「アカデミー賞に『プロデューサー賞』が存在しないのは、他のパートとは異なり、その職務に『専門性』が少ないからでしょう」「でも、それでいいんです。プロデューサーの役割は、素晴らしい才能を持った多数のスタッフやキャストたちに、その専門性を最大限に発揮してもらう環境を整えることにあるのですから」と。
授賞式を作り上げる過程は、私にとって、「プロデューサーとは何か」を改めて考える興味深い体験でもあった。日頃は興行成績や視聴率を争う各社のプロデューサーたちが、より魅力的なイベントを目指して一緒に協力する。エランドール賞授賞式は、まるで一つの映画/ドラマだ。
受賞候補者が内定した12月中旬から授賞式前日まで、各社のエランドール委員との間で百通を超えるメールを交わした。文面や問い合せ内容から、各委員のキャラがわかる楽しさがあった。キャラから、そのプロデューサーが携わった映画やドラマとの共通点を思い浮かべたりもした(笑)。
運営幹事をチャンネル順のローテーション制にしたのは(私の記憶が正しければ)2011年から。今年のNHKで3巡目に入った。それぞれの局が改善・改良を積み重ね、現行のスタイルが築かれてきた。
今回は、3点を変更した。
1つ目は、受賞プロデューサーたちに会場内で待機してもらったこと。
2つ目は、台本印刷を廃止したこと。
3つ目は、エランドール委員の皆さんに、俳優アテンド以外にも何らかの業務を割り振ったこと。出来るだけ多くの委員に参加いただくことで、一体感を出したいと考えた。

来年は、日本テレビさんの担当。でも、日テレさん、1社で抱え込む必要はありません。ほかの委員を頼ってください。というか、ガンガン仕事を振ってください。みんなで一緒に授賞式を作り上げたほうが絶対に楽しいですし、参加した委員たちの満足度も上がります!
各委員の専門性を最大限に活用するのが、まさにプロデューサーの仕事なのですから!
(エランドール委員長 NHK 屋敷陽太郎)



エランドール賞 受賞コメント

○映画プロデューサー賞
映画「怪物」
東宝
川村 元気
山田 兼司

坂元裕二さんとこの物語を生み出す話を始めたのが2018年。コロナ禍も飲み込む5年以上の歳月。経験したことのない困難の連続でしたが、様々な奇跡の瞬間に恵まれたことで完成しました。是枝監督と坂本龍一さんとの2度とない邂逅をはじめ、本作の奇跡の源泉となってくださった全てのキャスト・スタッフの皆さまに心から感謝いたします。
コメント:山田 兼司


○テレビプロデューサー賞
ドラマ「VIVANT」
TBSテレビ
飯田 和孝

国内外全てのスタッフ、キャスト、ご家族の皆様、そして前代未聞の企画を後押ししてくれたTBSにも感謝します。
TBSドラマは、先人から受け継いだ伝統を新しい時代に応用する、「継承」の上に成り立っています。古き時代のスタイルの「継続」が生み出した「VIVANT」を評価頂いたことに、改めて感謝します。


○プロデューサー奨励賞
映画「福田村事件」
小林 三四郎
井上 淳一
片嶋 一貴

この度、伝統と権威のある賞を受賞できたことをとても嬉しくおもいます。
この賞は、献身的に支えてくれたスタッフ・キャスト、そして、ご支援していただいた多くの方々と、共にいただいた賞と考えています。
そして、100年前の事件とはいえ、その時代に生きた方々の尊厳は守らねばと考えています。
ありがとうございました。
コメント:小林 三四郎


○プロデューサー奨励賞
ドラマ「大奥」
NHK第3制作センター(ドラマ)
藤並 英樹
船田 遼介

原作ファンの皆さんのご期待に応えられるかどうか、制作をはじめた頃はプレッシャーを感じていましたが、森下佳子さんによる物語の新たな解釈と秀逸な再構成、俳優陣の情感のこもった演技、NHKスタッフの経験とスキル、すべてのピースが揃いパズルが完成して、このような賞がいただけたと思います。
コメント:藤並 英樹


○特別賞
映画「THE FIRST SLAM DUNK」
Film Partners

名誉ある賞をいただき、ありがとうございます。本作は、初監督の井上先生の挑戦に、すべてのスタッフ、キャスト、音楽アーティスト等プロフェッショナルな方々が呼応して、『もっと上があるんじゃないか』というトライ&エラーを積み上げてくださったおかげでここまで来られたと思っております。代表して感謝申し上げます。
コメント:東映アニメーション 松井 俊之



劇場版「名探偵コナン 黒鉄の魚影」
製作委員会

「名探偵コナン」は今年で原作30周年、劇場作品は27作品目を迎えますが、歴代の関係者・スタッフ、そして青山剛昌先生の努力、功績の賜物だと思っております。
これからも劇場版「名探偵コナン」製作委員会一同、引き続き情熱を持って作品製作にあたっていきたいと思います。
コメント:トムス・エンタテインメント 岡田 悠平



ドラマ「ブラッシュアップライフ」
制作チーム

この度は栄誉ある賞を頂き、誠にありがとうございます。この作品は日本の一流のスタッフとキャストが皆で知恵を出し合って作り上げました。その努力が報われて大変嬉しいです。また、海外でもたくさんの方に観て頂くことが出来ました。これからも、世界中で受け入れられる作品を皆で作っていきたいと思います。ありがとうございました!
コメント:日本テレビ 演出 水野 格



映画「ゴジラ-1.0」
プロデュースチーム

「シン・ゴジラ」での華々しいゴジラ復活の後を、東宝との歩み深い山崎組で挑戦できた事、コロナ禍での撮影をこのプロデュースチームで乗り越えられた事、それらの先には世界の観客が待っていてくれた事…、ゴジラが体験させてくれた多くの事を、未来に繋げていきます。ゴジラ、そして阿部秀司さん、本当にありがとうございました。
コメント:東宝 臼井 央



只今撮影中

ドラマ「婚活1000本ノック」

フジテレビ
羽鳥 健一

「婚活1000本ノック」。パンチが効いたタイトルです。婚活って大変そう、というニュアンスが漂うタイトルですが、そうではありません。婚活だけでなく人生には失敗が付き物ですが、このドラマはそんな涙あり、笑いありの失敗だらけを笑い飛ばすコメディです。コロナ禍を経て、アプリで出会った人と恋愛したり結婚することは当たり前の時代になりました。でも先行き暗いなぁ。とはいっても一緒にいたいと思える人に出会いたいなぁ。そんな時代だからこそ、小説家の南綾子さんの過激で感動的な婚活体験を題材にした私小説をドラマ化することにしました。「みんなちょっと不器用で、幸せになりたいだけなんだよー」という原作のテーマを継承しながら、人生クネクネコロコロいろいろ大変ですが、何とか乗り越えて参りましょう! というテーマのもと、脚本のニシオカ・ト・ニールさんが軽妙なセリフ回しと大胆なストーリー展開によって素敵な設計図を作ってくださいました。主役の南綾子役は福田麻貴(3時のヒロイン)さん、婚活バディの山田クソ男(幽霊)役を八木勇征さんに演じて頂いています。大事を軽妙に乗り切っていく二人の掛け合いとキャラの濃い登場人物たちとのプロレス的な立ち回りは、突っ込みどころ満載で毎回SNSで大盛り上がりしています。
このドラマの大きな特徴である、主人公・綾子のモノローグ(心の声)は収録時とは別に毎話MA前に福田さんにスタジオに来ていただき声を収録しています。お芝居のニュアンスや間などを踏まえ、すべてのモノローグに関して福田さんとディスカッションした上で、再収録しています。そこで再収録できるという安心感によって、視聴者に喜んでもらっている絶妙なモノローグ・ワークを成立させることが出来るようになったと思います。
今回オールロケーションで収録に臨んでいます。只今、愛知県蒲郡市で第9話と最終話にまたがった5日間にわたる地方ロケーションを絶賛撮影中です。この冬は暖冬に大変助けられましたが、それでも冬は冬です。遅い時間まで続く収録にスタッフもキャストも大変ですが、キャストの皆さんの軽妙なやりとりと巧みなお芝居によって、笑いの絶えない現場となっており、「笑い」が現場の大きなモチベーション・キープの原動力になっています。「笑い」って素晴らしいですよね。一方で「コメディ」って本当に難しいということ。脚本制作を開始して収録が始まってからもずーっとこれまで痛感して参りましたが、スタッフ、キャスト、そして視聴者の方がくすっと笑うのを体感できることに関しては、苦しみを凌駕する喜びを感じています。
人生というものは面白いもので、私は現在独身で、このドラマの制作に関しては「羽鳥も婚活1000本ノック」と先輩や同僚から言われてきましたが、この度長男が婚約、そして結婚することになりました。長男に先を越されたかどうかに関してはともかく、あらためて人生というものを考えさせられた次第です(笑)。

婚活1000本ノック

私の新人時代

NHKメディア総局第3制作センター(ドラマ)
渡辺 哲也

2007年の新宿歌舞伎町には、ゴジラが目印の映画館はまだなく、コマ劇場前の長方形の広場を囲むように映画館が並ぶ、ある世代から上には容易に思い出せる(のではないでしょうか?)光景が広がっていました(『われに撃つ用意あり』で原田芳雄さんと桃井かおりさんがタバコをふかすラストシーンの場所です)。テレビドラマの現場に初めて入ったあの年、その場所に映画『ヘアスプレー』を見に行きました。
その頃私は自分の目から見ても他人の目から見てもダメでした。夜明け前の勝鬨橋にエキストラの皆さんを集め、懐中電灯の灯で点呼をとり、本隊がつく前に準備をするものの、基本的にはダメだしをされる、眠気と不安と失敗ばかり。カチンコ叩けば、そのカチンコのミスでNG、その間に陽当たりは変わり撮影中断。挙句の果てには、ヒロインのスタンドインの最中に隅田川に落ちる。桟橋に顎を打って流血しているADとすれ違いで現場入りした演者さんに申し訳ないなあ、と思いながら聖路加病院に運ばれました。私生活でも今となっては他愛もない悲喜こもごもあり、「何もかもうまく行かねえ!」というありふれた絶望の中生きていました。
2007年公開の『ヘアスプレー』は、1988年の同名映画がミュージカル舞台になり、更にミュージカル映画となった作品。ともかく踊りまくります。エンディングの『You Can‘t Stop the Beat』ではセンターが入れ替わりながら10分間踊り続けます。
「君たちどんだけ踊るんだ…」とハッピーエンドなのに大号泣。「自分も(現場で)もっと踊らねば(比喩です)」と思ったのか、「明日も現場に行くぞ!」と前を向き、居並ぶ数多の映画看板を背に帰りました。たった2時間でここまで心境を変えてくれたことに、フィクションの力を思い知った日でした。いつか私も、踊り続けて(比喩でなく)見た人を勇気づける作品を作りたいなと思う今日この頃です。



事務局だより

◎第76回 プロデューサー協会 親睦ゴルフ会を次により開催予定です。

《日時》2024年5月11日(土曜)
    競技方法 新ぺリア方式 9時03分アウトスタート(5組予定)  8時40分キャディーハウス前集合
《場所》越生ゴルフクラブ
    〒355-0354 埼玉県比企郡ときがわ町大字番匠61
《会費》22,000円予定(プレー費、商品代、パーティ―費含む)
《締切》4月23日(火曜)事務局必着
※初めて参加希望される方は事務局までメール(info@producer.or.jp)でご連絡ください。


◎訃報

桑原 一雄  2023年11月6日逝去 享年89歳

今回のエランドール賞授賞式の模様は、引き続きBS日本映画専門チャンネル(無料放送)にて放送されています。次回は3月21日(木)23時20分~を予定。
また日本映画専門チャンネル公式YouTubeと、日本映画テレビプロデューサー協会公式HPでも、5月から6か月間配信が予定されています。



インフォメーション

 ◎会議の記録

 2月  7日(水) 16時00分~ プロデューサーズ・カフェ委員会臨時会議(リモート)

 2月  8日(木) 17時00分~ 2024年エランドール賞授賞式 京王プラザホテル南館5階・エミネンスホール)

 2月13日(火) 18時00分~ 第6回デジタル編集委員会(リモート)ZOOM不具合で中止

 2月19日(月) 17時00分~ 第7回会報委員会(リモート)

 2月21日(水) 18時30分~ 第8回定例理事会(東映本社8階会議室)

 ※2月27日に予定されていた今年度のプロデューサーズ・カフェは、諸般の事情により開催見送りとなりました。

 ◎会議の予定

 3月19日(火) 17時00分~ 第8回会報委員会(リモート)

 3月21日(木) 16時00分~ 組織強化委員会(松竹会議室)

 3月27日(水) 18時30分~ 第9回定例理事会(東映本社8階会議室)

 4月  2日(水) 17時00分~ 第7回デジタル編集委員会(リモート)



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