No.524 2025年 5・6月号
今回の特集は、NHK「雲霧仁左衛門」やTBS「対岸の家事」等で
活躍する脚本家の青塚美穂さんにご寄稿いただきました
プロデューサー協会の皆様、はじめまして。脚本家の青塚美穂です。
多くの方が、「誰、この人?」とお思いのことと存じます。私も同じです。寄稿文の依頼がきた時は戸惑いました。「私が寄稿文を? なぜ?」と思いましたが、依頼してくれたプロデューサーが大学の同級生だったので、これも何かのご縁と思い、僭越ながら自己紹介も兼ねて書かせていただくことにしました。
私は、ちょうど10年前のフジテレビ主催「ヤングシナリオ大賞」を受賞し、そこから今日まで業界の片隅で細々と生きてきました。仕事が全然ない年もありましたし、別の仕事との兼業で何とかここまでやってきたという感じです。ここ3~4年ほどでようやく脚本業の収入の方が上回ってきて、「脚本家です」と名乗っても嘘じゃないなと思えるようになってきました。
さて、今この原稿を書いているのは、6月2日の22時過ぎ。ちょうど明日の今頃にはTBS火曜ドラマ『対岸の家事』の最終回が放送されている頃です。このドラマは、朱野帰子先生の小説「対岸の家事」(講談社)を原作とした、「家事」がテーマの連続ドラマです。光栄なことに、私にとってGP帯で初めてメインライターを務めさせていただいた作品です。主演の多部未華子さんをはじめ、江口のりこさん、ディーン・フジオカさん、一ノ瀬ワタルさん、ほか多くの出演者の方々、スタッフの方々のおかげで、すてきなドラマになっております。
今回に限らず、原作があるドラマを書かせていただく機会が度々あるのですが、脚本を書きながらいつも悩みます。表現媒体が異なるため、小説や漫画の表現をそのまま映像に置き換えられない部分がどうしても出てきてしまうからです。特に、今回の『対岸の家事』は小説ならではの表現、リアルであるがゆえのしんどさ、大きな事件が起きるわけでもない日常を描く難しさ、とにかく私史上最高難易度の作品だったように思います。
私が普段好んで観る作品は、デスゲームやノワール系が多く、こういった日常の機微がメインとなる作品に参加するのは大きな挑戦でもありました。そんななか、私を支えてくれ、励ましてくれたのがプロデューサーの方々でした。
これは私だけではないと思うのですが、初稿を書いた後の本打ちでは、いつも極度の緊張に襲われます。局の最寄り駅のトイレで吐きそうになったり、お腹が痛かったり……。見た目ではそうとわからないかもしれませんが、本打ちに向かう脚本家の心の中は、生まれたての子鹿のようにプルプル震えています(少なくとも私はそうです)。
なので、本打ちの第一声は超大事です。肯定の言葉から入るか、否定の言葉から入るかで、その後のモチベーションが全然変わります。プロデューサーの皆様、本打ちの時にあなたの目の前にいるのは震える子鹿だと思ってください。ぜひ、第一声は「ここが良かった」という言葉でスタートしてほしいのです。それさえあれば、その後に100個のダメ出しが来ても耐えられます。こんなことを言うと、「なに甘ったれてるんだ!」というお叱りを受けるかもしれません。ですが、ドラマの構成と一緒で、伝える順番ってとても大事だと思うんです。温かい第一声から本打ちを始めていただけると、脚本家の心は救われます。その結果、精神が安定しますので、クオリティーも上がるかもしれません。いえ、きっと上がります……!
そういう意味では、今回の『対岸の家事』もそうでしたが、『25時、赤坂で』、『やわ男とカタ子』(テレビ東京)など、思い返すと近年の作品は第一声で褒めてくださるプロデューサーさんが多く、大変恵まれていたなと感じています。脚本を書いている時は独りですが、完成に至るまでの道のりのなかで、プロデューサー、監督、スタッフの方々、俳優の方々のご意見をいただいて脚本は出来上がります。セリフの一つひとつに対して一緒に頭を悩ませ、予算や時間などのさまざまな制約のなかで出来る最善の方法を模索し、時にはお互いに自分の内面をさらけ出しながら脚本を作っていく過程はしんどいし、大変です。でも、その大変さこそが醍醐味であり、楽しさでもあると最近になって改めて実感しています。
最後になりましたが、いつもお世話になっているプロデューサーの皆様には、この場を借りて心より感謝申し上げます。いつも本当にありがとうございます! 今後も素敵な作品を一緒に作れるよう、脚本家として精進していきたいと思います。
只今撮影中
テレビ東京 配信ビジネス局
ドラマセンター ドラマビジネス部
祖父江 里奈

「40までにしたい10のこと」
風間俊介が可愛い。はにかみながらカフェでカスタマイズの注文をする。クマの着ぐるみパジャマに身を包み、ぬいぐるみを抱きしめて語りかける。10才年下のイケメン部下にときめいて会議室でひとり悶絶する。…そんな風間俊介をモニター越しに見ながらずっとニヤニヤしている、私。ドラマ「40までにしたい10のこと」の撮影現場である。
BLアワードを席巻した大人気コミックスの実写化だ。10年以上恋人なし、会社と家を往復するだけの毎日を送る枯れた中年サラリーマン・十条雀(風間俊介)。40歳の誕生日まであと3ヶ月というところで「40までにしたい10のこと」というリストを作った。「タコパ」「服の趣味を変える」「恋人を作る」…。絶対ひみつのこのリストを10歳年下のイケメン部下・田中慶司(庄司浩平)に見られてしまって…。
地上波のBLドラマはすっかり定着しており、毎クールどこかしらの局が放送している状態だ。いにしえのオタクである私はまだ「BL」という言葉が生まれる前、「やおい」と呼ばれていた時代に嗜んでいた人間である。やおいが好きだなんて大きな声では言えなかった。どこかうしろめたさを感じながら、ごく限られた友人たちと共に秘めやかな世界に心をときめかせていた。だからBLというジャンルが市民権を得て広く楽しまれている昨今の状況をとても嬉しく、でもどこか寂しく、そしてちょっと悔しく感じているのも事実だったりするのである。
そんな私の個人的な思いは置いといて、BLドラマにせよ不倫ドラマにせよ、ブームが起きたあとに何を作るかがとても難しく、そしてやりがいがあるのだと思う。二番煎じ、三番煎じが出尽くして、そのジャンルというだけで視聴者がつく時期が終わったら、次はそのジャンルの中で作品の個性をどう作ってどうアピールしていくかの勝負になる。そこからが面白いのでは、と思う。
さて、それでは今回の「40までにしたい10のこと」の個性はなんだろう。一つは冒頭にも書いた風間俊介の可愛らしさである。40歳を過ぎた「おじさん」のはずなのに、久しぶりの恋に慌てふためく様子に見ているこちらがキュンとしてしまう。ご本人も「このドラマは僕がいかに可愛く見えるかが大事だと思っています」と衣装合わせでおっしゃっていた。本当に嬉しく、頼もしい言葉だった。もうひとつのみどころは「誰にでも身に覚えのある恋の始まりの楽しさ」だ。同性同士の恋愛ではあるが、本作で描かれるそれは誰もが共感できるセリフやシーンの連続だ。きっと多くの人の心に届くに違いないと確信している。と、今日もモニターをニヤニヤと見ながら思っています。
私の新人時代
日本テレビ放送網株式会社
コンテンツ制作局 ドラマ班
岩崎 秀紀

「なんでこんなことやらなきゃ
いけないんだ」
私は新人時代、いつもこんなことを考えていた。だが、プロデューサーになり数年たった今となっては思う。あのときに得たもので今ができているんだ、と。
ドラマの仕事は、自分の中にいかに描けるものがあるか、だと思う。ドラマというものに昇華できると思えば、どんな嫌なことや、理不尽なことだって、血肉にできると前向きに捉えればいいと、最近になってやっと信じられるようになった。
しかし、視野の狭い新人時代はそうも言っていられなかった。希望していないバラエティーに配属された私は、人間をドラマチックに描きたかったはずなのに、向き合うことになったのは、ひたすら「バスボムを家で作るにはどうしたらいいか」「掃除が楽になるにはどうしたらいいか」といった“現実の事象”や、「お芋をどうしたら美味しく食べられるか」「炊き込みご飯に何を入れたら安くアレンジできるか」といった、“日常の食べ物”のこと。1日中、焼かれていくお芋や崩れていくバスボムと向き合うと、心は焼けこげ身体は崩れそうになり、しまいには「これ、なんか意味ある?」と言うことが口癖のようになってしまっていた。
あれから10年が経ち、ようやくドラマプロデューサーとして独り立ちさせてもらった。感じるのは、あの時のことは決して無駄ではなかったということ。よく言うことではあるが、本当にそう実感する。普段のなにげない生活にこそ、ドラマにするべきことがたくさんあるのだと。そう思うと、少し遠回りすることも、案外近道かもしれない。ことわざの説得力を、今では肌で感じられるくらいにはなった。なんで今まで気が付かなかったんだ、やり直せるなら…とも思うが、これからも、納得のいかないことや不遇に感じること、どうでもいいと思うことすらも全てドラマに活きると信じて、アンテナを張っていきたいと思う。
事務局だより

◎正会員入会
橋爪 國臣(NHK)
◎退会
中川 好久(功労会員)
ご確認下さい!
2028年3月31日期限の新しい会員証は先月3月号会報と共に同封しました。
不備などありましたら、メールにて(info@producer.or.jp)お知らせ下さい。
また、顔写真提供がない方(10年以上前の写真の場合も)へは発行していません(会費未納の方含む)。
大変お手数ですが、顔写真をjpgデータ送信(info@producer.or.jp)してください(会費が遅れている方は早急にお手続きください)。
直ちに発行してお送りいたします。
ご理解ご協力のほど、よろしくお願いいたします。
インフォメーション
◎会議の記録
- 5月13日(火)17時~デジタル編集委員会 (リモート)
- 5月14日(木)17時~会報委員会 (リモート)
- 5月21日(水)16時~親睦委員会 (事務局)
- 5月21日(水)14時~監査委員会 (事務局)
- 5月28日(水)18時30分~第9回定例理事会 (東映本社8階会議室)
◎会合・会議の予定
- 6月25日(水)17時~第10回定例理事会 (東映本社8階会議室)
- 6月25日(水)17時30分~第49回総会 (東映本社8階会議室)
- 7月 2日(水)17時~デジタル編集委員会 (リモート)
- 7月15日(火)17時~会報委員会 (リモート)